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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第五章 日常編2
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28.それは雨に濡れる

 職員室で生徒手帳を見せて、久米(くめ)櫛芭(くしは)が傘を借りている。


 俺はそれを見て、時間がかかりそうだったので先に下駄箱で靴を履き替えて待ってることにした。

 たしかに傘を借りるのは面倒だ。

 名前を記入しないといけないし、生徒手帳も何回も見せないといけないし、なんでそんな手順がいるのと思ってしまう。

 移動したのはあれだ。

 ……職員室の前ってすごく落ち着かない。

 これはもう万国共通な気がする。

 街頭アンケートでも取ろうかな。

 万国なのに街頭なんかい。


 待つことは得意です。

 無心でぼーっとするのも、下らないことを考えるでも、どちらでもいける。

 しばらく待っていると久米が小走りでこちらにきた。

 櫛芭はその後ろにいる。


「ちょっと」

「なに?」

「先行っちゃったかと思ったじゃん」

 ムスッと膨れた顔で文句を言ってくる。


 ……だって長く職員室の前居たくなかったし……。

 あそこ人通り多いじゃん………。

 なんて言ったらもっと怒りそうなので、

「悪い。ごめん」

 とだけ言う。

「分かれば良いのよ!」

 久米は機嫌を取り戻し、櫛芭の方を向いた。

「じゃあ行こう!」

「えぇ。行きましょうか」


 二人は靴を履き替え、昇降口を出る。

 そして、その後ろをついていく形で俺が歩く。

 屋根がなくなったところで傘を開く。

 少し間隔を空けて歩くようになった。

 傘にポツポツと雨が当たる音がなる。

 その音は前を歩く二人の話し声で、聞こえたり、聞こえなかったりする。

 後ろを歩いているが、二人の横顔がよく見える。

 もうほとんど向き合う様な形で二人は歩いている。

 本当に仲良くなったなぁ。


 合唱祭を通じて、二人の距離は更に縮まったと思う。

 櫛芭はよく笑うようになったし、口調も軽い。

 久米は相変わらず、スキンシップ的な目で見ても距離が近いし話し声も明るい。

 二人の姿は、何よりも尊く感じ、誰にも邪魔できるようなものじゃないと思える。


 雨は嫌いじゃない。

 けど、二人を遮るものとして降っているなら、傘で少しでも距離を遠ざけてしまうなら、邪魔物はなくなった方がいいな。

 そんなことを考えていればいつの間にか駅が見えてきた。

「駅着いた!」

久米が言う。

「えぇ、そうね」

 久米の元気な声に微笑んで櫛芭は返す。

 それから櫛芭がこちらを向いて小さく手を振り、櫛芭がこちらを向いて小さく手を振る。

「それじゃあ、また明日ね。雨芽(うめ)くん」

「またね。雨芽くん」

 久米も櫛芭に続いて別れを言ってくれる。

 二人ともすごく優しい表情だ。


 俺は二人とは使う駅は同じだが方向は逆である。

 つまり反対路線の電車に乗る。

 一緒に帰っている時は毎回、ここで別れている。


 扶助部を始めてから、いつもこんな感じ。

 二人を見ていると、和やかな気持ちになる。

 平たく言えば、救われている。


 でもきっと、ダメなんだ。

 これ以上踏み込むのは。


 忘れようとしている。

 二人の優しさに、忘れようとしている。

 忘れることなんてできないのに。


 逃げたことだって変わらないのに。


「おう、じゃあな」

 手を小さく上げて、さよならを告げる。

 二人は微笑んでこちらを見ていてくれている。

 踵を返し、駅のホームに移動する。


 ……この時間に帰んのも、結構慣れてきたな。

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