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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第五章 日常編2
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27.それは雲に隠れ

 本日も授業を受け、放課後に部室で活動。

 俺、久米(くめ)櫛芭(くしは)は席に座り、時間を潰している。


 今はスマホで簡単に時間を潰せるから良いよな。

 ネットサーフィンとかしてたら二時間とか普通に過ぎてる。仕事は無い日が多い。

 今日も誰も来ないなぁ、と思ってる。

 最近の仕事だとテニス部で一年生が走るからそれをタイマーで時間を測って見てほしい、と依頼された。

 大会が近くなり、二年生が一年生の育成に割ける時間が短くなっているそう。

 他の運動部も同じようで、サッカー部やバスケ部辺りから同じような依頼が来るかもしれない。


 まぁ……もうすぐで夏休み。

 高校に通う日は数えるほどしかない。

 この部活ともしばらくお別れ………。


 じゃなかった。思い出した。

 陽悟(ひご)から頼まれてることがあったな……。

 夏休みもしっかり活動です。………はぁ。


「あ、雨」

 久米が外を見て呟く。

「そうみたいね」

 櫛芭も久米に倣って外を見て呟く。

「雨が降るなんて聞いてないよぉ」

「そうね。朝の予報だと曇りだった気がするけれど……」

 この二人の口ぶりから察するに、傘を忘れた、ということだな。


「もう少し待って、雨が止むのを祈りましょうか」

 櫛芭が提案する。

 最終下校時間までまだあるし、妥当な判断だと思える。

「そうだね」

 久米もそれに賛成なようで、窓の外を見ながら言った。

 空は雲に覆われ、一面が薄暗い色で染まっている。


「……職員室に行けば、傘を借りられるんじゃないか?」

 そういえば、と思い出し提案する。

「最悪そうするけど、返すのが面倒なのよね」

雨芽(うめ)くんは傘持ってきたみたいだね」

 俺の記憶によると五日前に見た天気予報では、今日は雨だった。

 家を出る時にそれを思い出し、なんとなく傘を持ってきた。

 なんでこんなこと記憶してんのかなぁ。

 って思っても覚えてしまうものはどうしようもない。

「あぁ。………やんねぇぞ」

「はいはい、そうだよね」


 久米は席を立って窓側に移動する。

「雨芽くんって名字に雨ってあるし、雨男?」

「短絡的だな。というか名字のことは俺に言わないで先祖に言え先祖に。あとついでに成華(せいか)にも謝っとけ」

 成華は晴れ女っぽいからな。

 成華と出かける日は晴れの場合が多い気がする。

「成華?誰?」

「姉だよ。姉がいる」

「姉がいるんだ」

「雨芽くんのお姉さんはどんな人なの?」

 櫛芭が話にのってくる。珍しいな。

 どんな人、か。

「まぁ、成華は、優しい感じだな。うん」

 一つ一つ記憶をたどりながら話していく。

「それに優秀。運動もできるし、小学生の頃から勉強がんばってたし」

 親から程々にね。と言われるくらい。

 俺もそれ、賛成。何事も程々が良いよね。うん。

 ………やべぇ。

 自分で話してて、姉との差に泣きそうになる。

 なんだこの弟。


「あなたの家では名前で呼ぶのね」

「ん?まぁそうだな。考えたこともないけど」

 呼び方かぁ…。

 もしも今成華に、私のことお姉ちゃんって呼んでって言われても……無理だな。

 なんか嫌。

「そういえば、雨芽くん。名前には笠ってあるよね。ほら、今こそ出番だよ!」

「なんの出番だよ」

「私たちに傘を貸して、私と未白(みしろ)ちゃんで仲良く帰るの!」

「俺がずぶ濡れになるんだが………」

 却下だ却下、割りに合わなさすぎる。

「ほら、こんな感じに」

 久米は黒板に、笠真(りゅうま)と横書きして、その下に雪羽(せつは)、未白と縦に書いた。

 なんだその頭の悪い図。

「雪羽さん、雨芽くんの笠という漢字だと下に入れるのは一人だけよ。相合い傘は無理だと思うわ」

「え?そうなの?使えないね」

 何故か俺に向かって言われた気がする。

 大丈夫。今のは俺の名前に言ったんだ。

 ………名前なら俺じゃね?


「もうすぐで時間になるし、今日は傘を借りて帰りましょうか」

 櫛芭が席を立ち、荷物をまとめる。

「じゃあ、帰ろうか」

 久米が櫛芭の隣に立つ。

 ……雨、止まなかったな。

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