25.面影と重なる
菊瀬先生の隣を歩き、資料を運ぶ。
まだ学年が変わってすぐだからか、先生の隣を歩くって結構目立つ気がする。
さっきから好奇の眼差しが痛い……。
いくら二年生になったからと言っても、先生との関わりが劇的に増えるわけでもない。
逆に減る人だっているくらいだし…。
あ、今の人たち生徒会だな。
生徒会室から出てきたし、朝礼で見たことがある気がする、多分。
学年が変わってすぐに先生に呼ばれる不良生徒!
みたいな新聞を書かれたらどうしよう。
ないか。ないな。
先生の隣歩いてるだけで新聞出たら書くことなさ過ぎて平和すぎだろ、と思ってしまう。
良いことだけどね。平和。平和好きだよ。
ピースフルに行こう。
「雨芽、君に姉はいるか?」
「え?はい。いますよ」
どうでもいいことを考えている俺のところに、菊瀬先生の声が飛んできた。
「そうか……成華、という名前か?」
「あぁ、そういうことですか。成華はここの卒業生ですからね」
この高校で初めて先生とは成華のことを話した瞬間だった。
「うん。そうだな」
廊下を曲がり、また歩き始める。
生徒が授業で使う教室から遠ざかっていく為、人の数はだんだん減っていく。
「………これどこまで歩くんですか?」
重いし、指も痛いし、腰も痛くなってきたので、非難がましい目で菊瀬先生を見てしまう。
「準備室までだな。次の時間は私の授業、どこにもないから」
「もしかして毎回これ運ぶんですか……」
「いや、最初の授業だけ。つまり今回だけだよ」
「そっすか」
少し安心する。
このまま毎回こき使われたらたまったもんじゃない。
準備室に着いた。
「そこに置いといてくれ」
指を差された場所に資料を置き、軽く伸びをする。
「あ、戻ってきてる」
「え?」
菊瀬先生は準備室のすぐ横にある台車を見ている。
「なんで一台しか台車がないんだろう。普通に考えたら足りないと思わないのかな……」
どうやら使いたかった台車を他の人に使われ、やむなく自分の手と生徒を使って運んでいたらしい。
不満げな顔を溜息を吐いてなんとか整え、菊瀬先生がこちらを向く。
「君のことは成華からLINEで聞いたよ。弟がこの高校に入るってな」
「LINEですか」
「本当は一年生の時に話しかけたかったんだけどな……私の担当クラスじゃなかったし、顔と名前も一致しないし、テストでも採点は自分のクラスだけだったしで、もうトリプルコンボだ」
「そ、そうですか……」
声もそうだけど、この人口調も明るいな……。
「………そうだな………。君に少し、やってもらいたいことがある」
「どんなことですか?」
労働のラインは、多分今回の荷物運びくらいだろう。
ならまぁ、成華もお世話になった人みたいだし、別に気にするほどのものでもない。
「準備が終わったら、また声をかけるよ」
「はぁ、そうですか」
やってもらいたいことなのに、先生が準備をするのか。
なんじゃそりゃ。
って、そんな疑問なんてどうでもいいという風に日は進み、今日になったわけだけど…。
「………以上で今日は終わる!号令!」
菊瀬先生の大きな声によって、ボーッと思い出していた意識が今に向く。
「起立。礼」
「ありがとうございました」
号令の声の後、頭を下げて礼を言う。
クラスの人達に合わせて、同時に言っている。
確かこんな感じだったな。
覚えている。
まさか菊瀬先生が俺にやってもらいたいことが、扶助部だとは思わなかった。
そして、ここまで仕事を横流しすることも想定外だ。
……………はぁ。