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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第五章 日常編2
26/106

24.思い出せば

 今日も高校に通っている。

 今は教室で現代文の授業を受けている。


 すごい眠い。

 夜は中々眠れない。

 でも昼に眠くなる。

 不便な体だ。

 変えようとは思ってるが、生活リズムは治る気配がない。


 一学期の行事が全て終わり、テストも夏休み明けの為、クラスの雰囲気はガヤガヤしていて落ち着きがない。

 授業中にもヒソヒソと話す声は絶えず、あちこちから聞こえて来る。


 実際先生ってこういう声聞こえてそうだよね。

 菊瀬(きくせ)先生は果たしてどう思ってるんだろう。

 案外、しょうがないとか思ってそうだな。

 うちのクラスも真面目な時は真面目だし。


 こうやって見ると、結構授業の過ごし方は人それぞれだ。

 ある人は漫画を机の下で読み。

 ある人は絵を描いていたり。

 ある人はスマホをいじっていたり。

 夏休み前や、テストがしばらくないことも合わさって普段よりも集中力を欠いている人が多い気がする。


 見てても意外と飽きないもんだな。

 かく言う俺も集中力がないが。

雨芽(うめ)………雨芽!」

「あ、はい!」


「このページの、それ、とは何を表している」

 もう出席番号一周したのか。早いな。

 もう一度周りを見ると、俺より出席番号が早い人が

 机に突っ伏し、眠る瞬間を目撃することができた。

「三行前の筆者の説明です」

「あぁ、そうだ。この文はつまり、から文章が始まっているから…………」

 教科書を置き、座り直す。


 ……たしか二年生が始まって最初の授業だったな、菊瀬先生が俺を成華(せいか)の弟と知ったのは。


 思い出すのは、二年生の最初の授業。

 菊瀬先生は堂々とクラスに入ってきた。

 後から一人の生徒が重そうな荷物?教材?を持って教室に置いていった。

「今日からこのクラスの現代文を担当する菊瀬支惠だ!去年と同じ奴も、そうじゃない奴もよろしく頼む!」

 菊瀬先生は黒板に自分の名前を書き、そして振り返り、ニコッと笑った。

「テストは私じゃない先生が作るが、話を合わせて授業をするから、そこんところは安心して授業を聞いてほしい!」

 あっけらかんと自分の立場を話し、なんて快い人なんだろうって思ったっけ。

「まぁその分、企画や課外活動とか、色々関わってるところも多いから、何か聞きたいことがあったら是非遠慮せず聞いてくれ!」

 とてもハキハキした先生だった。

 元気で、こっちの身も引き締まるような澄んだ声はとても先生に向いている、と思う。

「ではさっそくやって行こうか」


 教卓にある机の並びに倣って書いてある生徒名簿を見る。

「生徒の名前も覚えなきゃなぁ………」

 しばらく名簿と睨めっこしていた。

 が、菊瀬先生は突然顔を上げた。

 あの時、たしかに俺と目があった。

 こちらを向いて、柔らかく笑っている。

「そうか……君が……」

 優しい微笑みだった。


 もちろんあの時の俺は理由も分からずそんな事をされたのでひどく困惑した。

 そこで、初めて菊瀬先生という人と出会い、向き合った。

 いや、正確にはすれ違ったりもしていただろうが、面識を持ったのは多分その時だろう。

「よし!」

 菊瀬先生はパンっと手を叩き、クラスの注目を集める。

「今度こそ始めよう!」

 授業は円滑に進み、とても良い授業だった。

 もともと現代文は嫌いじゃないので、長い話も苦ではなかった。

 そしてあの大きな荷物は授業で使う資料だった。

 使わないのも結構入ってるみたいだけど、もっとコンパクトにできなかったのかな。


 そしてチャイムが鳴り、挨拶をする。

「とりあえずこれから一年よろしく!」

 菊瀬先生は腰に手をやり、またにこりと笑う。

「雨芽!ちょっと手伝ってくれるか?」

「え?俺ですか」

 出席番号の指定でも、係の氏名でもなく、個人を指名………。

 何もしてないよな?俺。


「ほら!早く早く!これを待ってくれ!」

 たしかに一人でどうやって運ぶんだろう、という量だったけれども。

 やっぱりさっきの生徒は運搬だけのために………。

「はぁ……分かりました」

 席を立ち、教卓に移動し、そして資料を持つ。

 ………重い……。


「じゃあ行こうか!」

 菊瀬先生が扉を開き、先に出る。

 ………なんで俺がこんな事を……。

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