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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第四章 合唱祭編
25/106

23.空を見上げる

 食べ放題の時間は終わり、店を出ることになった。

 クラスで集合写真を撮り、その場で解散となる。


 クラスのグループにはついさっき撮られた集合写真や、その他いくつかの写真など。

 面白い出来事や、びっくりしたことなどを送る人が現れ、通知が絶えることはなく、鳴り続けている。

 設定からLINEの通知を切り、ポケットにしまう。


 電車には一人で乗っている。

 クラスの半数以上が俺とは違う方向で、何人かの同行者もすぐに目的地が分かれ軽く挨拶をして別れることになった。

 同じソシャゲやってて良かったよまじ。

 あのパズルとドラゴンのやつ。

 しかもガチじゃなくエンジョイ勢で。

 気まずくて死ぬかと思った。


 てか本当に23区外から来てる人って少ないんだな。

 普段帰ってる時も全く会わないよ。

 絶滅したのかな。


 電車を乗り換え、定期が使える路線に入る。

 残金は2桁になった。

 チャージするの面倒だった、危ない危ない。


 外はすっかり夜景と呼べるものとなっている。

 たまに入る広告やマンションの光を眩しく思いながら、窓の外を眺めた。


 電車を降り、家まで歩く。

 人通りは少ない。

 歩いている人はスーツ姿のおじさんや、自転車に乗った若いスーツの男性、肩からかける鞄を背負って、首元までしっかりとボタンを閉めている女性、同年代の人はいなそうだ。

 この歩道、少しばかり広く作られているようで、使用する人数と幅が一致していない気がする。

 夜だと暗さも相まって心細い思いになる。


 隣の車道は一台、二台、と、数えられる程度しか車は走ってない。

 数が少ないとなんとなく目で追ってしまうので、対向車の光が目に入ることもあり、ちょっと辛い。


 10分くらい歩いたところ、家が増えてきた。

 そこから更に5分ほど歩き、周りは住宅街と言えるほど一軒家に囲まれている。


 小さな公園の前に出た。

 入り口が二つある公園。

 ここを通ると近道になるためお邪魔する。


 ブランコ、滑り台、砂場。

 一般的な公園だ。ずっと変わってない。

 細い棒で立ち、鈍い光を放っている時計を見るとすでに短針は9の数字を過ぎていた。


 もうこんな遅いのか……。


 急に脱力感に襲われ、公園に置いてある横長のベンチに座る。

 疲れた時や、落ち込んだ時など、そんな時にこの公園のベンチに座ると、とても落ち着く。


 座ると目線が低くなり、幼い頃の記憶を思い出す。

 俺と、美穂(みほ)と、隼真(はやま)

 3人でよく遊んだ公園。

 思い入れも強いし思い出も沢山ある。


 ベンチに背を預け、空を見上げる。

 星は一等星くらいしか見えなくて、残念な気持ちになる。

 あとは人工衛生が一定のリズムで光を付けたり消したりしてるくらい。


雨芽(うめ)くん。あなたはどうして人を助けるの?』

 櫛芭(くしは)先生の言葉が何度も頭の中に響く。


 どうして、か。


 俺があの場で出した答えは綺麗事だ。

 誰にでも分かる模範解答。

 でもそれはきっと俺の答えじゃない。


 ……そう、俺の答えじゃないんだ。


 もう一度目を地上に戻す。

 やはりあの時と何も変わっていない。


 沢山泣いた女の子がいる。

 この公園で何度も、何回も泣いた女の子。

 小さい時から数えたらもうどのくらい泣いたか分からない。


 俺はきっと……ずっと過去を見ている。

 逃げてしまった過去に、自分を置いてきてしまっている。

 俺はずっと、助けるなんてことはできていない。


 どうしてだろう。

 分からないことがある。


 泣いていた女の子。

 たった一度だけ分からない。


 他は分かる。

 痛いから。悲しいから。苦しいから。

 次の日には教えてくれた。

 そして今となっては思い出だとも言っていた。


 でもこの公園で最後、あの娘が泣いた最後の一回、その理由がわからない。


 そして、理由は教えてくれなかった。

 何も言ってはくれなかった。


 この公園に来るたびに考えている。

 考えても……考えても……分からない。


 同情。慰め。思いやり。愛情。

 何かが違う。

 ずっと、分からない。


 なのに更に問いが増えてしまった。

 罪滅ぼしなら……これが罪滅ぼしなら。


 助けるとはなんだろう………。

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