13.仲が良くても
はぁ……今日も仲が良いなこの二人は。
部室でくっついている久米と櫛芭を見て、俺はそう思った。
具体的に言うとついさっき来た女子バスケ部の
「一緒に帰ろっ!」
を断るくらいには久米は櫛芭にくっ付いている。
来たのは四人。
扶助部の依頼人最高記録を超えたと思ったが、依頼では無かった。
本日も平和である。
最高記録は先週来た吹奏楽部の3人。
体育館から楽器を運ぶのを手伝って欲しいとの依頼。
本当にこの部活雑用多いよな…………。
でも滅多に乗れない高校のエレベーターに仕事のついでで乗れた。
すっごく楽しかった!!!
久米は最近、他の誰かではなく櫛芭にくっついていることが多い。
さっきの誘いの返事だって、
「未白ちゃんと帰る!」
とどストレートに断った。
「あと扶助部の活動もあるし」
久米はかろうじて付け加えた。
………出来ればそっちを先に言って欲しいな!
櫛芭に何か惹かれる物があるのだろうか。
自分とタイプの違う者に惹かれることはよくある事だ。
匂いと遺伝子の実験でそれは証明されている。
………それは異性の話だったな。
それもタイプが違うとはちょっと違う気がする………。
コンコンコン
今日も余計な事を考えていると扉がノックされた。
一日一件依頼か来客がいれば良い方なので、さっきのバスケ部の人達でやる気は無くなってしまった。
元から無いだろってツッコミはいらない。
「どうぞ」
今日は閉店だ帰んな!とも言えないので、今日も渋々仕事を引き受けることになるだろう。
ドアが開けられて、女子が一人入ってくる。
「あっ!胡麻ちゃんだぁ!」
久米が大きな声で出迎える。
入ってきたのは柊木胡麻。
俺と久米と同じ、D組の生徒だ。
いつもD組では、久米と一緒にいることが多い。
他にも陽悟などを入れて
クラスでも目立っているメンバーのリーダー格だ。
話し声や話し方を聞いている限り………かなり口が悪い。
ふぇぇ………大丈夫かな。
「珍しいね!こんなところに来るなんて!」
こんなところ………。
「私に用?それとも扶助部?」
久米が質問する。
「なんだろう……。なんていうか、雪羽でも扶助部でもなくて………」
「雨芽に………なんだけど」
ふぇぇ………大丈夫じゃないな。
「それは、どういうこと?」
櫛芭が聞く、その疑問はもっともだ。
同じクラスなのにわざわざここに来てまで聞くのは手間がかかるし、扶助部に依頼を頼むのではないのなら本当に来る意味がわからない。
………よく考えてみたらクラスで1人でいる俺に話しかけるのって結構変だな。
もしかしてそれをわきまえてここに来たの?
……やばいな。
答え次第だと俺の人権がなくなる気がする。
「その………蕉野とどうやって仲良くなったのか……聞きたくて………」
あぁそういう。
たしかにぼっちの俺が誰かと話していることでさえ珍しいのに、その相手が陽悟だと余計謎は深まるだろう。
陽悟と話している時感じる視線はこいつか。
いやこいつ一人じゃないな………。
多分陽悟を狙っている奴は多い。
柊木はその一人に過ぎないだろう。
面倒なことに巻き込まれそう………。
巻き込まれそうというか今実際に面倒なことが起ころうとしている……。
「それは、陽悟くんに直接聞けば良いんじゃないかしら?」
「違うよ未白ちゃん、こういうのは複雑なんだよ」
久米は櫛芭に珍しく先輩風を吹かしている。
「雨芽くん!答えてあげてよ!」
久米は今度は俺に話を回す。
「て言っても………俺だって分かんねぇよ」
直接聞いたわけじゃないが、陽悟はいつも一方的だ。
俺も話を返さないから俺に理由があるのか、はたまた陽悟がそうしたいのかは正直分からない。
「じゃあ協力してあげようよ!扶助部として!」
久米が代案を出す。
ぐっ、仕事は終わりの雰囲気だったのにまた仕事が増えてしまう!!
「………別に、今のままじゃダメなのか?外から見た感じ、上手くいっているように見えるけど」
実際クラスでは仲が良いように見えるから問題は無いはずだ、嘘はついていない。
柊木が答える。
「その………色々と、知りたいなって思い始めたら止まんなくなっちゃって。気持ち悪いかな……?」
全然違うな。
クラスにいる様子と今扶助部にいる柊木は同一人物か疑うレベル。
真反対だ。
いつもそんな調子でいてくれませんか?
「全然!全然気持ち悪く無いよ!ね!だから手伝ってあげよう?」
久米がこちらに目を向ける。
………はぁ、仕事増やしてるって自覚ある?
今回働くの多分俺だけになるじゃんきっと。
久米は今回の件だと役に立たないだろう。
櫛芭も他のクラスだから同様だ。
「………男子と女子じゃ、話が変わってくるかもしれないぞ」
「それも、分かってる」
柊木は答える。
「……分かった。努力はする」
ほらやっぱり渋々仕事を引き受ける………。
挿絵は手前が雨芽笠真。
奥側が陽悟蕉野です。
今回も表紙のような扱いです。
「青春エスケープ」という作品は、この2人で主人公。
というような心持ちで書いています。