103.交わされる挨拶も
土曜日を挟んで日曜日。
「や、どーもどーも!」
「縁さんもいるんですね!?」
びっくりして敬語になっちゃったよ。
「必死に考えたコースと聞いたのだけれど。まぁ、楽しませてもらおうかしら」
櫛芭さんもさぁ、本当に元気ないんですかねぇ。
そんな様子から色々と思う事はあるが、大前提を縁さんに耳打ちする。
「なぁ縁さん、今日のこと。櫛芭のことどうやって誘ったんだ?」
それを聞いて縁さんもまた俺に耳打ちして返し、
「えぇと、テストで煮詰まってるし、気分転換しない?って」
「今日って必要だったんだよな?」
「もちろんです!それは間違いありません!」
ほんとだろうな?
「話は終わった?折角こうして休日に約束したのだし、早く行きましょう?」
………。
細かいことはいいか。
「ま、じゃあ行きますか」
折角新宿に来たんだしな。
紅葉広がる新宿御苑。
そういえば修学旅行と似通う景色になりそう来てから気づいた。
東京?京都?そのー、ネタ被ったな。
「綺麗ね」
きれいなものは何度見てもいいでしょう。
ネガティブなことは言ってはいけない元気にするんだから。
「東京の息詰まる空気にはこういうのも必要かなーって」
俺23区外住みだけど。
「あなたのせいで一気に現実に引き戻された感じがするわ」
夢見るのは寝ている時だけでいいからなはっはっは。
「私はこうしてお姉ちゃんとお出かけできるのが夢みたいですよぉ」
「なんだ寝言か?」
「失礼ですね!」
ナチュラルに俺省いているからジョークかと思ったぜ。
「最近はまた、差し上げたくない気持ちが強くなってきてですね」
「え?なんかくれんの?」
そうかもうすぐハロウィンか?
「へっ」
あ、違うっぽい。
場所は変わってNEWoMan新宿。
昼食兼……まぁ適当に歩こうと思ってたけどいや何敷居が高いのなんの。
流行の最先端がここに揃ってるんですねぇ。
いや前新宿に来た時にお前伊勢丹入ってるやんって?
あれはほらあれだよ。
背伸びの必要がなかったからだよ。
「何気取った顔してるんですか恥ずかしい」
「見透かすな恥ずかしい」
評価が下されてもう覆らない相手と、これから査定入るやつはこっちも気構えが違うんだから。
「あなたたちって時々仲がいいのか悪いのか分からなくなる時あるわね……」
誰のせいでこんな事になってると。
「私たち仲悪いんで」
「えぇ…」
不仲営業とか犬も食わんぞ。
あいつら絶対仲悪いとか会話に間があるとかTwitterがFFじゃないとか。
うーんなんかどっかの掲示板っぽくなってきたな。
「お腹も減ってきたし、少し遅めだけど昼ご飯にしましょう?」
興味ないならこの話カットでよかっただろ。
「……どこに行けばいいのかしら?」
「まぁ、店の中で済ますなら上だな」
フロアマップは前日に全て叩き込んであるぜ!
「なんだかもったいないわね」
「え?」
まさかお前櫛芭おい。
「外、行きましょ」
可愛く言うなよこの野郎!
歩いただけじゃんこの滞在時間、店を馬鹿にしてるだろ!
「ははっじゃあそうするか!」
「お、雨芽先輩。なかなか余裕ある男性じゃないですか」
めっちゃ無策だわ背伸びで足つりそうだってんだ俺な!
はぁ、夢の170cm代………。
スラっとした立ち姿。
俺とさほど変わらない身長も立ち振る舞いがそうさせるのか、目測が狂う事もしばしば。
長く伸ばして手入れの行き届いた髪。
自分のステータスが足りていないとそれはもう自己中心的な思いで気圧されている。
袖から見える真っ白な手。
その指で……ピアノを…。
「お姉ちゃんをそんな目で見ないでください!」
「そそそそんな目て見てんちゃうがわな」
「雨芽くん今、何…?」
「誤解だよ?」
背は高い方だけど俺より低くてよかったくらいしか考えてないよ!
男の意地だよ!
「行きたい場所とか食べたいものとか、あるのか?」
「何でも大丈夫よ」
ダメな夫になりそうだこの子!
そのドヤ顔やめてくれ。
「お姉ちゃん!多分雨芽先輩が言いたいのはそういう事じゃなくて!」
「あ、いいよいいよ。もううん。分かってるから」
適当に歩こうぜってな感じで店を出ることにした。
三人で店を出てそれから。
適当にと言っても最終目的からしてそう新宿駅近辺を離れることはできず、ゆっくりと街並みを見ながら歩く…。
……が、まぁ日曜日の新宿のこの人の多さじゃそうも言ってられないわけで。
正しくは、せかせかと互いに互いを気にしながら歩いていた。
こうも気を配る事が多いと、ふとたまに。
あれ?自分は今右足を前に出しているんだっけ、左足を前に出しているんだっけと、身体の状態がおかしくなったように言う事を聞かなくなってしまう事がままあった。
少々大袈裟かもしれないが、人混みというのは呼吸もしづらいし判断も鈍るしぶつかるしといい事がまるでない。
道路も大して広くない上電車の音もでかいし車の音も重なるし。
はぁ不満が溜まる溜まる。
櫛芭も、縁さんも……あれ?平気そうね?
もしかして慣れてないの俺だけか。
櫛芭も大した事だと考えてないからあれだけ気軽に外に出ようと…?
もしかしてこの街で浮いてるの、俺だけ!?
僕だけがつらい街。
「んー。なんかこれだって所ないですねー」
縁さんが首を捻りむむむっとなっている。
気づいたらそこは俺が使ってる新宿駅。
待ち合わせには人も状況も違うから使わなかったけど、ここの広場も負けず劣らず人が多いのなんの。
涼しくなってきたから余計にね。
「裏の通りとか行ってみるか。ポツポツ飲食店あるだろうし、ラーメンとかそう」
「おー。いーんじゃないですかラーメン」
まぁ家系はまだしも二郎系食わすわけじゃないし、多分気構え的にもそんなんだし。
女の子をそんな所に連れてったら法律では裁けない悪って感じがするんだが。
そうして適当な道から大通りを外れ、ぶらぶらと周りを見渡しながら歩いていると……。
何やら歳の離れた男女の組み合わせ。
少し浮いているような、見れば一対一だと思った組み合わせは側に関係ありそうな女性があと二人。
おじさんと呼べるほどの年齢に見える男性が元気に大きな声で話しかけている。
「えー!別れちゃいなよぉそんな彼氏はさ!」
パ、パパ活だ!
間違いないパパ活だ!
俺のパパ活センサーが目の前の集団に反応している!!!
まさか…俺にもあの伝説の装置が備わっていたとはな……。
こうして使う機会が訪れる事になるとは…街を歩くとは分からないものである。
まぁそりゃこんなアングラな都市真っ只中。
考えてみれば当然の存在なのか?
道脇にいるキャッチとか、少し上にある看板とか正にそういう所謂夜のお店って呼ばれてそうなやつだし。
街全体がそれをよしとした雰囲気を纏っているって事で。
全く風紀が乱れているぜ!
「仲がいいのね、あの親子」
「え」
「え」
櫛芭さんまじか。
「え……。あの、その。遠慮のいらない関係、のような。何かおかしな事を言った……かしら?」
「なぁ縁さん。君たち……いや櫛芭ってどう育ったの」
「父も母も綺麗なもの美しいものを与えて育てようという傾向が強くてですねぇ」
「じゃなんでこんな姉妹間で開きがあるの」
「私はダメって言われるほどやりたくなるタイプなんで」
末っ子属性極まれり。
我慢ってもんを知らん。
俺も人の事は言えないが。
「外で恥かく前に教えてやった方がいいんじゃないか」
「そうですね……。お姉ちゃんも、もう大人ですし…」
妹に遠い目をされる姉とは………。
「お姉ちゃんあのね……」
あの人たちは、から始まった説明をそれはもう櫛芭は目を丸くして聞いていた。
「そんなの!……そうなの?本当に…?」
そんなのおかしいって言おうとしたんか、分からんでもないが。
「お姉ちゃん汚しちゃった……」
縁さん…。
「ふへへ」
おい。