101.回る日々
下校時間になり、俺と久米は一緒に校門を出る。
「わたし、戻って良いのかな」
そう言うと不安そうに足を止めた。
まだ、俺の言葉が支えになるなら何度だって言ってやるさ。
「……大丈夫だと思う。待ってるって言ってたんだ」
失礼、これは平野の言葉だったな。
俺なりの言葉を足すならば……
「それにこういうのは切磋琢磨して、競い合っていくもんだろ。まぁ…綺麗事だけどな」
いつものように、駅まで歩いていく。
俺のふざけたアドバイスも今は心に響くようで、久米は目尻を拭う。
駅までもう少しというところ、久米は再び足を止めた。
「どうした?」
「雨芽くん。部室での話、大体合ってたけど、一つだけ足しとくね」
足すって……?
「俺、間違ってたか?」
「間違ってたわけじゃないけど……言葉通り足りなかったって、感じ?」
そういう感じなのか。
改めて久米の目を見ると自分だけが知っている事を得意げに話すように、その目は幼い悪戯っ子の色で。
「たしかに、扶助部の話を聞いたのはバスケ部だけど、行こうって思ったのは陽悟くんのおかげなんだ」
「陽悟?なんで陽悟が……」
『……今回のさ。仕事のこと……何も思わないのか?』
『いや、こっちは何も。笠真の方は問題ないんだろ?』
『当たり前だろ!君以外誰がいるんだよ!』
そうか、そういう事だったのか。
「まぁ、あくまで行こうって思った。それまでだけどね」
それからはちゃんと、自分の目で決めたんだと、久米はしっかりと言い切った。
「最初は陽悟くんに相談したんだ。そしたら笠真に頼んでみたら、って言われたの」
あいつ…人に言う時は雨芽にしろよ……。
「聞いて誰のことだか分からなかったよ。笠真って誰?って。そしたら雨芽くんだったの。話したことだってなかったのに」
案の定過ぎて……。
ってか容赦なくグサグサ言うじゃねぇか、おい。
「でも」
「……でも?」
これだけは聞いて欲しいと言うように、久米は言葉をためた。
「陽悟くんが、笠真ならなんとかしてくれるってこういう意味だったんだね」
陽悟のやつそんなことを……。
不意に駆け出した久米は二、三歩だけ前を歩きそして振り返ると、
「それにやっと分かったよ!」
今日一番の笑顔で久米は教えてくれた。
「暗くてまっすぐなやつ!ってこと!」
「……え?なに?なにそれ?」
文化祭から出来ていなかったいつも通り。
だがそれは今日で終わる。
「私が居なくても扶助部は大丈夫?」
結局久米は俺の問いに答えてはくれず、有耶無耶にしようとする。
「あぁ平気だ平気。なんの心配もない。初めは一人だったからな。三人も二人も一人も変わんないさ」
「そこは、雪羽が居なくなって寂しいよ。とか言ってくれても良いじゃん、少しくらいもうー」
言えるかってんだ。
大体陽悟の受け売りのさっきがそうだけど、その口から笠真って呼ぶのやめて欲しくてこれ。
内心穏やかじゃないよ。
「まぁ未白ちゃんもいるし、大丈夫だよね!」
駅に着いた。
ここで別れ、来週はまた違う関係になる。
俺は、久米に求められた言葉は言えない。
俺がその言葉を言える日は多分来ないんじゃないかと思う。
無責任で、身勝手な行動は周りを傷つける。
だから、代わりの言葉を言おう。
「安心して行ってこいよ。俺は、大丈夫だから」
「…………うん!」
反対車線に見送るあの子が、どうか自分らしく生きれるように。
手を引くことはできなくても、道を示せれば…俺は……。