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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十三章 後夜祭編
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100.5.健やかに

 配られたのは部活一覧表。

 多分生徒会が作ったものなんだと思う。

 新しい物を見る度に高校生活が始まったんだなーって。

久米(くめ)さんは入る部活決めた?」

「んー柊木(ひいらぎ)さん。それね、この後決めようかなーって」

 今日は新入生歓迎会、そして部活動紹介が体育館で行われる日。

 入学式を終えてすぐ、一年生の為に行う先輩たちの発表式のようなもの。

 朝登校する時も熱心な運動部は…文化部もいたか。

 そうして一年生を是非我が部活へと呼び込みを毎日行なっている。

 校内で聞こえる吹奏楽部の練習音や、すれ違う部員達の姿などもあって男子女子問わず教室は色めき立っていた。

 仲の良い子たちは他にも楽しみがあるようで…。

「私はそれよりもオリエンテーション合宿ってのが気になるなぁ」

「もうすぐだよね。まだまだ先だと思ってたのに案外早い!」

 私は、部活に入らなくても学校生活は充分満喫できるかもしれないとか考えたりして。

「でもなんかそれ全然遊びはないらしいよ。勉強漬け」

「は?どこ情報?」

 ………考えなかったり、して。


 放課後体育館に行くと、装飾を完璧に施した煌びやかな空間が出来上がっていてすぐに部活動紹介が始まった。

 初めはこの京両高校にある全ての部の概要を生徒会が説明し、十分くらい経っていよいよ部一つ一つの発表が始まりそう。

 生徒会が司会に変わりプログラムを進行する。

 時間は各二分、だから部の演目はコロコロ変わった。

 その中で私の目を引いた部活は……。


「一年生のみんなぁ!バスケ部の体験入部にようこそー!」

「みんなって言うか、まぁ五人いれば言うか、そうか」

「そうだよ五人も来てくれたんだよ!これで部員数二倍だあっはっは!」

「うぅ…悲しくなるから人とか数とか使うのやめようよぅ…」

「結局一年言い続けたねそれ……。私はもう慣れたよ…」

 体験入部に来た私たち一年生五人を、女子バスケ部の先輩たちは総出でお出迎えしてくれた。

 会話から分かる通り、女子バスケ部員は五人。

 それら全ての人が同学年、

「ごめんねぇ。後輩ができるかもって今みんな迷子になってるの、感情が」

「うんうん、二つ下なんて孫と言っても過言じゃないからね!」

「いや過言だろ」

 揃って三年生なのである。


「ねぇ何するみんな!一昨年の事思い出して!」

「お、一昨年……ぐふっ…おぇ」

「あはっ!吐きそう?(らく)吐きそう?」

「なんで嬉しそうなのお前」

 そんな感じでわちゃわちゃと。

 体育座りで見ていた私たち一年生五人は、これは現実かとお互いの顔を見合わせた。

 そうしていると目の前で屈み視線を合わせてくれる三年生の先輩お姉さん。

 髪を耳に掛ける姿は、大人びた魅力溢れるTHE女性って感じの…私も二年後はこんな風に成れる……?

「先に自己紹介しちゃうねぇ?…私が副部長の平良紗幸(たいらさゆき)。で仕切ってる子が部長の嵐野千透(あらしのちと)

「なんか言い方感じ悪くない?私嫌われてる?」

「嫌いならとっくに辞めてる」

「へっへ。もー!さーちゃんったらぁ」

「嫌いになりそう」

「ごめんねー!!!」

 あっちで話していた所から瞬きする間に距離を詰めヘッドスライディングの如く副部長に部長は抱きついた。

 すくっと立ち上がり肩から腰、腰から足と拘束を解いて一瞥もくれず紹介を平良副部長は続けるようだ。

 憐れ……。

「吐きそうになってるのが渋谷星楽(しぶたにせいら)。それを笑ってるのが唐石衿可(からいしえりか)。突っ込み入れてくれる唯一の良心が如月凛(きさらぎりん)。そんな感じ」

 うんうん頷く私たちと目の前で転がってる嵐野部長。

 憐れだ…本当…。


「ううぅ。みんなは友達ぃ?一緒に来たのぉ?」

 泣きながら聞いてくる事にはわざわざ聞き返すのはかわいそうなので、今度は首を振る。

 振った先を見ると背の高い子にチラリと視線を送る子も。

「へぇ。みんなじゃあここが初対面って事になりそうか?」

 如月先輩が渋谷先輩を、次に嵐野部長を起こしてそんな事を言った。

「おー?じゃあバスケの経験ある人ー?」

 唐石先輩が聞いても誰も手を挙げる者はおらず。


 そう、私たち一年生はどうやら…部活で友達を作るとか、放課後に好きな事をとか、そんなのの為じゃない。

 ただ単に見惚れた先輩を知らず知らずのうちに追いかけて、ここに集まったみたいだった。


 嵐野部長はパッと明るい表情になって、

「じゃあ一年生のみんなにも自己紹介してもらおっか!」

 そうして今度はこちらが話す番になった。


「はいはいはいっ!私は私は!前田色圃(まえだしきほ)って言って!部活動紹介かっこよかったし私背高かったから!来るしかないなって来ました!」

 なんだか後半は繋がってるような繋がってないような、話の脈絡が。

名倉曽佳(なぐらそよ)って言います。紹介を見てバスケやってみたいって思って。それにその時…」

「え?私?」

 前田さんを見て名倉さんはふっと微笑む。

「やりたいって思った事をやらなきゃダメだなって思いまして」

「ほほーう」

 唐石先輩が嬉しそうに頷く。

 他の先輩方も同じように笑顔で頷いた。

 初対面か聞かれた時に言い出せなかったのは名倉さんが一方的に前田さんを知っていたからか。

 きっと部活動紹介の時に活き活きとした前田さんを見て決心したのだろう。

「えぇっと、清水菫(しみずすみれ)って言いまーす。先輩達かっこよかったんでー、次はバスケをやってみようかなーってやって来ましたー」

 次はバスケ……たしかに体育座りから見える脚、すごく筋肉質で引き締まってるような…。

「じゃあ次は私!平野咲(ひらのさき)です!本当は自分で部活作っちゃおうかなーなんて妄想してたんですけど!紹介見てビビビっときたんで来ました!」

 じ、自分で部活を…?

「えぇっ!自分で部活!咲ーおもしろい事ゆーねー!」

 嵐野部長、流石に気になるよね。

 平良副部長も満更では無さそうな顔で平野さんを見ている。

「はい!入学する直前なんて思いっきり迷走しててアイドルになろうとしてましたもん!スクールの!」

「あの伝説のアイドルに!?」

 ノリいいな部長。

「伝説を知らないから罵倒も否定も出来ないのがな」

 罵倒と否定しかないんだ如月先輩……。

 まぁ私も盛り上がってる話詳しくないからなぁ。

 ……アニメだよね?

「じゃ、じゃあ……次はあなたの話を聞きたいなぁ」

 吐き気も治ったようで渋谷先輩は柔らかく話のルートを作ってくれた。

 まだ体力が回復してないって、それで声に力がない可能性も?

 あなたの……あなた…あなた。

 私か。


 …え、何を……話そう。

 中学の事?小学校?それよりもっと前?

 いやいやいや、昔話をしにきたんじゃないんだって。

 みんなそう、今まで話してきた四人の子たちはこれからの高校生活でやりたい事としてバスケを挙げた。

 私だってそうだ、バスケがやりたい。

 やりたくなってしまった。

 たった一つ思い当たる事と言えば、かっこよかった……から。


 ここに来た理由。

 あの部活動紹介で私が見たものは……。

「嵐野部長と、目が合った……気がして」

 …………。

「愛の……告白?」

「この可愛さ、罪深いわね」

「あはははは!そうか告白かー!」

「お、おお落ち着け!まだこ告白と決まったわけでは!」

「ひゃ、ひゃあ……」

 か、かっかか…かっこよかったんだもん!!!

「告白じゃないですー!!!」

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