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雨上がりを待つ君とひとつ屋根の下で  作者: 秋日和
第十三章 後夜祭編
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99.積み重ねと

「頼むよ!雨芽(うめ)くんにしか頼めないんだ!」

「まぁうん、依頼は受けるよ。……つっても、ここがそういう所だからってよくまぁこんな実績も無ければ信頼も信用も何も無い胡散臭い所に頼めるな」

 手を合わせる目の前の田中(たなか)と、山内(やまうち)も隣で似たような真似をしている。

「俺も最初はなんでここにって思ったんだけど、話聞いてるうちになんかここかなぁって」

 田中が山内に話を聞いて決断したって事でよろしいか。

 目配せで言葉は要らないが、そうなると山内が誰に話を聞いたかって事になりそうだけど。

 二人はバスケ部の部長と副部長。

 そんな人に俺は現在頼み事をされている。

「お願い!頼んます!他に頼める所も人もいないし!」

 た……たのんます…。

「所も人も、俺にしかって……。大体顧問の先生は?寺内(てらうち)先生だっけ?難関の人だからよく知らないけど」

「今年の一年は上手いやつが多くてな………。上手くまとめられないこと、あまり人に知られたくて…」

 そんな事を俺に言われても……。

 ん?俺は人に含まれてないのか。

 人畜無害じゃあ何してもいいわけじゃないんだからな!(泣)

「先輩は?三年生なら一年二年の知恵もあるだろ。部内で起こってる事だし顧問より距離が近いから気づいてるんじゃないか?」

「最後の大会が近いし迷惑は掛けられないから。それにアドバイスは貰えるかもしれないけど、やっぱり付き合いに一年差があるから公平に見れるかってのが……」

 …………俺しかいないのぉ?

「まぁおおよその事情は分かったけど。具体的には何すればいいんだ?」

 この部に来た依頼はこれで三件目。

 一件目二件目以上に具体性を欠く依頼でどうにもこうにも悩ましい。

 これがスタンダードだったら俺は菊瀬(きくせ)先生に全力で待遇の改善を求めるね。

 給料が発生してもおかしくないレベル。


 これから頼む事は既に二人で話し合って決めていたようで、少しのアイコンタクトの後田中が話し始める。

「この教室を借りたいのと、雨芽くんにはその借りた日二年生と一年生の間に立って公平な立場でそれぞれの言い分を聞いて欲しいんだ」

 あぁそういう。

「聞くだけでいいのか?」

「うん。誰か聞いている人がいるってだけで言葉を選ぶようになるだろうし、自分たちで解決しないといけない問題だから」

 まぁ、下手に首突っ込ませるよりかは正しい判断か。

 この部室も最低限教室らしい所を残しているし、話し合いの場としては緊張感も生まれて最適なんだろうな。

「じゃあまぁ……ここはいつでも空いてるから日付は適当に決めるとして、最初の話に戻るけど。男子バスケ部の依頼の内容を簡単にまとめると」

「………一年生が言う事を聞いてくれないんだ…」

 だそうだ。


 その日は思ったよりもすぐにやってきた。

 田中と山内が話を持ちかけ、一年生たちも二つ返事でこの話し合いに乗ったらしい。

「初めましての人が多いかな、雨芽って言います。置物だと思ってくれて構わないから」

 一年生はまだしも二年生もね、関わりがないからね。

 近くの教室から足りない分の椅子を借りて座っていた男子バスケ部の面々は、口々に初めましてとかあれ誰とか知らない人とか暗そうとか病んでそうとか……へっへ、聞こえんなぁ!

 効いてる効いてるとか言うな卸すぞ。

「その人は信用できる人なんですか?」

 俺もそう思う。

 その人と言われている雨芽笠真(りゅうま)さんは果たして信用できる人なんですかねぇ?

 発言したなかなかリーダーシップのありそうな一年生は今回の件の中心人物なんだろうか。

永井(ながい)の質問はもっともだと思う。ここにいるみんな疑問に思っているだろうし。(そう)、説明頼む」

 永井くんか、一年生を懐柔するならまずあの子からになりそうだ。

「はい山内です。お招きした雨芽くんなんですがね、一年生のみんなは知らないと思うんだけどこの京両高校で人助けの活動を行っている方なんです!」

 おぉー、と説明に感銘を受けたのか拍手が起こる。

 うん初耳だぞ?

 少なくともつい数日前知り合ったばかりの人にこんな説明をされるとは思わなかった。

 山内ってもしかしなくてもそういう奴?

 話はまぁ盛ってもいいけど取り返しのつかない事は言ってくれるなよ?

「菊瀬先生の勧めもあってですね!みんなも困った事があればどんどん頼ろうと言われました!」

 あんにゃろー……。

 二年生も俺からしたら同級生だけど初見の人がかなり占めてるし、まさか宣伝の為にそんな事言ったのか?


 顧問の先生と三年生は頼れない、直接話し合えば荒れる危険性がある、一年生二年生の友達を連れてくれば公平性や部内の事情を口外しない事を保証できない。

『つまり、自分たちとは関係のない人、関係があっても、そこに距離がある人を欲しているのだ!』

 一体あの人どこまで考えて……。


 考えても仕方のない事は一先ず置いておく。

 この場にいて男子バスケ部の話を聞かないのもそれはそれで退屈になりそうなので、興味の持てる範囲で耳を傾けてみる。

 って言っても各々の関係性が分からんのがなんとも。

 誰か男子バスケ部員の相関図pdf化して送ってくんないかな。

 そうすりゃこの会議も少しは面白くなるのにとか思っちゃう俺今すっごい部外者。

 しばらくの会議の目的を決める時間の後、口火を切ったのは永井くんだった。

「僕たちは練習の機会の均等化を求めます!」

 非常に耳の痛そうな要求だ……。

「一年生のスキルが上がれば必然的に練習全体の質が向上しますし、実践形式のゲームもできる事が増えると思います!」

 学年毎に取り入れられている練習の形。

 現在の二年生が一年生だった時も、もちろん三年生が一年生の時だってメニューはほとんど変えずに行っているんだろう。

 やる事と言えば基礎練に含まれるボール回しや体幹、体力作りなどの地味に感じるもの。

 その積み重ねがミスを減らしたり、チームメイトと過ごす時間を増やしてコミュニケーション要らずの連携を生み出したりするんだが。

 もちろん一年生もそこは経験者、それを分かっていての主張だと思う。

 俺が脳内で考えてみた通りのありきたりなものと二年生の回答は同じく、一年生の不満を募らせるだけだがそう答える他無いみたい。


 二年生にもプライドがある。

 このバスケ部で一年長く練習を積んできた実績があるのだ。

 それを省略して一年生と一緒に練習をするのは許すのが難しいという感じか。

 それを正直に伝えるのはなかなか出来ないのがこの件を複雑にしてそうだ。

「雑巾がけの時も途中まで参加して後半は一年生しか拭いてないと思います!それでやっている感を出すのはやめて欲しいです!」

 もう次の話題か。

 じゃあ全部一年生に任せればいいのかと逆ギレするのは簡単だが、それでは根本的な解決には結びつかない。

 暗黙の了解と年々従ってきた後輩の義務。

 正しく見れば直されるべきそれは、声を上げる一年生も正しく評価されるべきだと思う。

 ただ、それに従って一年を終えていよいよ二年生になった人たちが矢面に立たされるのは、同じ二年生という視点を抜きにしても部外者からは理不尽に映る。

 自分たちも嫌だったのだろう。

 でも、直して欲しいと思っていても口を閉じて耐えて一年を過ごした。

 後輩だからと従うには充分耐えられるレベルだったから。

 暗に一年生にも我慢して欲しいという気持ちは伝わってると思うが……。


「外周のコースがひび割れも多くて走るのに適さなくて危ないと思います!昔からずっと走ってるという理由だけで連れて行かないで下さい!」

 ま、また次の話題……。

 物事が解決する前に先に進んだんじゃ会議の意味がない。

 永井くーん、声出してけみたいなテンションじゃないんだよ部活じゃないんだからさぁ。

 …いや部活ではあるんだけど。

 二年生も如何に永井くんと話をつけるかみたいな会議が別個で行われてるし……二年生と一年生で対立構造ができちゃってるよぉ、ふぇぇ。

 そんなところに熱意込めて何を成し遂げられるんだって話ですよ。

 まぁ普段の行いを知らない俺が言うのもなんだけど、苦労してんのかな。

 もっとこう……大局観を持って、大局を見ろ大局を。


 ………ん、今永井くんと話してた子…。

 二年生の方々は……無反応……。

 俺が気にしすぎなだけか?

 うーん、杞憂だといいけど………。


――――――――――――――――――――――――


 金曜日、放課後。

 約束したのは昨日だから、当たり前だけどすぐにその時は訪れた。

 誰よりも早く部室に来て、いつものように窓側の席に座る。

 あとは待つだけだ。

 今日、久米(くめ)は必ず来る。

 ここに座り待つ気持ちはどうにも、この一週間で随分と変わったものだ。


 扉が開いた。

 覗かせた顔は俯いていてうまくその感情は読み取れない。

 そっとした手つきで元通りに閉めて、声も発さず扉に掛けた手を見つめていた。

 しばらくその状態が続き、口を開いて何かを言おうにも声が出ない。

 互いに無言のままどれ程の時間が過ぎたか。

 久米は意を決したように歩を運び、席に着いた。

 窓側から二番目、今週は櫛芭が座っていた席だ。

 向かいに見える席には、今週は誰も座らない事が確定したかもしれない。

 三人でなければ使わないと、そういう事なのかもしれない。


 悪戯に待たせても仕方がない。

「今日話すことってのはな………」

 どうやら本題に入ることさえ出来れば声は出るみたいだ。

 緊張はしていない。

 場を和ませたり、間を埋める言葉は不要だからあの時無意識に自分を律して黙したのだと今は思う。

「……俺が思う、久米らしい答えだ」

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