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GoodLuck4myFather【こえげき台本】

作者: GON


僕:

父:

母:



僕:人は誰しも、正しく生きたいと願っている。筋の通った生き方をしたいと思っている。

  我が父は、ひたすら自分の探求心に忠実に生きたし、その意味で筋が通っていた。

  パソコンが便利だと思うと、どうやって動いているのか確かめる為に

  ドライバー片手にバラバラに分解して確めた。


父:ふんふん…ココがこうなっていて、…おぉ!そうか!!で、ココがこう繋がって…ん? 

  あれ? これ、何処だっけ?  


僕:修復不可能になった。

  なるほど、分解は不味かったと解ると、今度はOSもソフトも何もかもフォーマットしてしまった。


父:ほうほう…こういう仕組みで、動いてるのか。じゃぁ、こう設定したらっと…おぉ!

  じゃぁ、これだと、どうかな?…ん? あれ?

  

僕:只の箱と化した。

  僕が小二にあがる前の話なので、もしもそのお金でYahoo!の株でも買っていたら…

  断っておこう。この物語は、うちの父の恋の話である。

  事の始まりは父が28才の冬のこと。

  医大を出た彼は、実家の近くの府立医大に勤務していた。

  家でゴロゴロと寝正月を満喫していた所、たまたま見ていたテレビ番組で、

  福娘コンテストというのがやっていた。


母:67番。遠坂といいます。薬剤師をやらせて頂いております。

  どうしてこの仕事を選んだかと言うと誰かの為になる仕事に就きたいと思い・・・


僕:同郷で同じ業界の人が出ている。

  少しは応援をしたかもしれない。


母:え?まさか?ほんとに?


僕:彼女は準福に選ばれた。


母:えぇ、本当に光栄です。この喜びを、まず両親に。そして、職場の同僚たちに。

  そして、やっぱり大切な患者さんたちに。福娘に選らばれたからには、より一層患者さんたちの幸せを


僕:始まりはそんな些細な事だった。

  父は知らなかったが、彼女は同じ職場でもあった。

  仕事初めに病院に行くと、医局は騒然としていた。

  「我が病院から福娘が選ばれた」と野次馬が騒いでいる。

  父も同僚の佐野という人に連れられて会ってみる事になった。

  断っておこう。これはわが父親の恋の話だ。

  冴えない医者と、小さなコンテストに選ばれて浮かれている、田舎娘との、恋の物語である。

  さて、我が愛すべき父親は、母と出会い、そして、デートをすることになった。


父:うーんと、はて?デート?デートってどうやるんだ?


僕:なったはいいが、何をどうしたらよいのか分からない。

  分からないで済む事でもないので、生真面目な父は、勉強する事にした。

  聞く相手もいないので、教科書を読む事に決めた。

  …教科書?


父:そういやぁ、従兄弟の子とかが、こんなのを読んでいたよなぁ…


僕:少女漫画である

  本屋に駆け込み、2日かけて読破した


父:ふむふむ…それで、それで?…あぁ…うんうん…う、ぇぐ、ぐす…オスカ~~~~ル!!

  さて、お次はっと…スケ番デカかなぁ~?エロイカも捨てがたいし…よし!ポーの一族にしよう


僕:よって、ここから語るデートの内容は少女漫画を参考にして計画され、実行されたという事になる。

  父の結論は、女というものが望むのは、ロマンチックな場所、ロマンチックな言葉、

  ロマンチックな音楽。

  さらに、相手の男がそれらを良く知っているだとか、深く関わっていると、その男の事をロマンチックな存在として認識する。

  まぁ、ついつい混同してしまうのだろう。


父:つかんだぞ!!女の子の心理!

  キーワードは『ロマンチックに』だ!!


僕:父の考えたデートプランは、琵琶湖にドライブだった


母:素敵なお車ですわね


僕:2月だった。


母:今日はどちらまで?


父:んふふ。楽しみにしていてください。素敵な所にご案内させて頂きますよ。


僕:寒かった。


父:んっん~~~!!こっちきてみてくださぁ~~い!!どうです?すごく綺麗な夜景でしょ~?


母:いえ、ここからで結構ですわ。充分に綺麗な景色ですので…


僕:かけたのは、映画の「ベン・ハー」だった

  212分にもおよぶ大作である

  それをいっきに流した

  テープで

  セリフも全部

  それを聴きながら父が発したセリフは


父:「いい映画デスよね」


母:…ははは、はぁ?


僕:このデートの一週間後に父は母にプロポーズした


父:ちょっと、待ってくださいよ!!京子さん!!


母:通してくださる?仕事ですので。


父:何事もやってみなければ分からないじゃないですか?

  何もしないうちに結論を出すのは早すぎる。

  一度試してみませんか?


母:…少し考えさせてくださる?


父:なにを考えると言うのです?


母:えぇ、別の方からも、お声を掛けていただいておりますし…それに、会って間もないではないですか?


父:愛に時間など関係ない、ではないですか!


母:えぇ…それはそうですけど…でも…お互いの事を、よく知りもしませんし


父:これから知っていけば、いいではないですか!ちなみに結婚式は洋式?和式?


母:えぇ?…ウェディングドレスを着るのが子供の頃からの夢で…こう、白のふわぁっとしたドレスを身にまとって…


父:会場の希望とかは、ありますか?


母:は?…あぁ…でしたら、海の見える教会がいいわ…

  丘の上に立つ二人。皆から祝福されて、勿論、

  空は透き通った青さ!そこで二人は永遠の愛を誓うのよ!

 「ジャックリーン幸せにするよ」「あなたといられるだけで幸せよロバート」…


父:新婚旅行で行ってみたい所は?


母:オーストラリアに行ってみたいわぁ…

  いまだ未開の大平原!地平線に沈みゆく夕日!そこで二人は人間本来の本能を思い出すの!

  「ジャックリーン君はどんな時でも綺麗だね」「あら、野性味溢れるあなたも素敵よ。ロバート」

  「キスしていいかい?ジャックリーン」「ええ!して!ロバート!激しく!」


父:ふむふむ。次の大安吉日はっと…ありゃ、ぜんぜん時間ねぇじゃねぇか!?


母:ひと時の間を異国の地で過ごす二人。

 「あぁ~ら?ロバート。コアラなんか抱っこしちゃって、かわいぃ」

 「な、なんだよジャックリーン。いいだろ?別に。みてみろよこのコアラ。すごくかわいいだろ?」

 「あら?あたしより?」

 「勿論、君のほうが何百倍もかわいいよ。ジャックリーン」

 「あぁ、ロバート」

 「キスしていいかい?ジャックリーン」「ええ!して!ロバート!激しく!」


父:式場、今から予約して、間に合うかなぁ…?もう、ちょっと、何してるんですか?急がないと!!


母:え、あ?はい?え、えぇぇ~~~!?


父:さぁさぁ、はやくはやく!!


母:ちょ、あ、まって~~~!!ロバーート~~~~~!!!



「鐘の音」


僕:あぁ、神様。どうかこの二人に祝福を…


     ちょいと間


僕:今まで恋をしたことの無かった男が、彼女に出会って、恋に落ちて…

  わからないなりに努力して、ライバルを蹴落として、ついに彼女を勝ち取った。

  ちょこっとおかしなラブストーリー。

  これがBoyMeetsTheGirlボーイ・ミーツ・ザ・ガールの物語のままだったら、

  どんなに良かったことだろう。

  父と母の結婚生活は、14年間続き、そして終わりを迎えた。

  父は、…父であった。

  他人を思いやれない人間だとは思わないが、他人に合わせることはしない人だ。


父:子供も生まれたことですし、転勤ばかりのこの病院はやめて、どこかの病院に移りましょう。

  子育てには、どこかで落ち着いた方がいい。そうだ!都会に行きましょう!

  小さいうちから、都会で育てば色々な刺激を受けていい!!


母:私は、家族が一緒にいられれば、それでいいんですけれど…


僕:しかし、母たちはそんな風には考えない。

  医者の奥さんになれば、人生は万々歳!!そう考えてしまう。


母:お金も溜まってきた事ですし、どこか郊外にでも、家を買いましょうよ


父:こんな都心のど真ん中に住んでいるのに、何を言い出すんですか?

  それより、ヨットを買いましょう!夢だったんですよねぇ。

  家族で船に乗るの。素敵だと思いませんか?


母:えぇ、それはとても素敵だとは思いますけれど、家族も増えた事ですし、

  こんなアパートじゃぁ、そろそろ、身狭かなぁって…


父:こう見えて、船舶免許持ってるんですよ!!僕!

  いつか、皆で太平洋を横断なんかして!!どうです!?野球チームを作るなんてのもいいですけど、

  これだって充分、夢がありませんか?


母:はは、えぇ。それはたいそう 夢のあるお話です事で…


父:あ、船長の座は譲りませんよ~~~。あ、来週、船の展示会あるんですよねぇ。

  早速行ってみましょう!!


僕:それから毎週日曜日は、家族で船に乗ることになった。母と姉は、

  いつも船酔いに苦しんでいたが、父の目はいつもキラキラと輝いていた


父:ったく、あの、医院長、なに考えてやがるんだ?


母:あら、今日も喧嘩なされたんですか?


父:いっつもいっつも、「経費だ!」「点数だ!」って。


母:経営者っていうのも、大変なお仕事ですからねぇ…


父:僕は、もっと、一人一人の患者さんと、きちんと向き合って行きたいんです!

  それを、あの狸親父…いっつも金勘定の事ばかり…そうだ!


母:どうされました?


父:僕たちの病院を建てましょう!幸い、アナタは薬剤師だし、僕は医者だ!

  ちっさな病院ならやっていけますよ!


母:え?病院ですか?


父:…はぁ、病院を始めるのって随分金のかかるものなんですねぇ~


母:こんな、都会のど真ん中に建てなくたって良かったじゃありません?


父:いいや、男たるもの、田舎にくすぶってたんじゃぁいけません!

  都会で成功してこそ、一人前の男ってもんです!


母:男たるものですか…生活費、私の貯金を切り崩して出してるんですよ…


父:いやぁ、アナタの作る料理は実にうまい!!


母:褒めていただくのは、嬉しいですが、それも、底をつきかけています…

  大体、高価なものを買いすぎなんじゃありません?


父:つい、欲しくなって買ってしまうんですよねぇ~…いやいや、

  これからは仕事一筋で頑張っていくつもりですよ!!


僕:病院ができた頃、僕たちも、片づけやら手伝った。これから頑張るぞ!!

  と、そこには、夢が詰まっていた



母:あなた、最近お仕事頑張りすぎなんじゃありません?

父:いやいや、家族の為にも、今頑張らないと!!


母:あなた、マー君が市から絵の賞をもらったんですよ

父:え?あ、賞?…それはすごい!!頑張ったんだね

母:展示してあるみたいなんで、今度の週末見に行きましょうよ

父:あぁ、…今度の週末かぁ…ちょっと、時間が…


母:あなた、お兄ちゃんが、学校で苛められてるらしいの

父:……ん?何ですか?…今日はちょっと疲れてて…また、今度に…


母:あなた、


母:あなた、


母:あなた、


母:【電話】…え、あ、かぁさん?…うん。わたし。…ううん、なんでもない。

  …ちょっと、こえ、聞きたくなって。…ううん。…そんな、えぇ、…とうさん元気?

  …ふふ、あんまり、無理しちゃだめよって、言っておいて。

  …わたし?私は元気よ。子供たちだって…えぇ、今度のお盆には帰るわ。

  …え?あ、別にそんな事…あの人だって、良くしてくれている。…良くしてくれているわ。

  …でも疲れちゃった。…かぁさん。私、疲れちゃった


僕:小2の終業式の日だったから、よく覚えている。

  友達と春休みの遊ぶ約束をして家に帰ってみると、母が荷物をまとめていた。

  他の兄弟たちも荷物をまとめている。

  伯父もいた。

 「どうかしたの?」と聞くと、

母:あなたも早く用意をしなさい!


僕:といわれた。

 「どこかにいくの?」と聞くと、


母:口答えするんじゃない!


僕:といわれた。うすうす、感づいてはいたのだ。

  父が珍しく僕にゲームソフトを買ってくれた。

  母の口数が減った。

  僕の賞状をもらった絵が破り捨てられていた。

  一番上の兄貴が、引きこもってしまった。

  なんというか、あれか… 

  僕たちはその後しばらく、母の実家で暮らすこととなった。

 

母:どう?おばぁちゃま達のおうちは?こっちはのどかでしょう?夏にはあの川で鮎釣りができるのよ。

  あの山は、毎日登っても飽きないわ。TVばっか見てるより、ずっと健康的ね。

  ねぇ、こっちに来て、お母さんと一緒に景色でも見ましょうよ!

  都会も、便利だけど、こっちは、こっちでできる事がいっぱいあるわ。


僕:これが恋の結末。


父:うちに帰ったらね、もぬけの殻ですよもぬけの殻。


僕:結局は、相容れないものだったという事。


父:わっかります~?こっちは、一体誰の為に一生懸命働いてたんだって話ですよ


僕:どんなに努力しても、運命にはあがらえない。


父:ま、家族をかえりみない僕がいけなかったんですよね~…

  はは、やってみたかったなぁ~家族で太平洋横断…

  

僕:正直者は損をするというが、正直者はその正直さゆえに不幸になってしまうのである。


父:べっつにね、そんな事しなくたって良かったんですよ。只、家族で笑っていられれば。

  笑って、一緒にご飯が食べていられれば。

  妻の作った、ハンバーグ!あれなんか、本当に美味かったなぁ~。

  ほんっと、僕なんかに、もったいない位の素敵なお嫁さんで…


僕:高嶺の花は高嶺の花でしかない


父:好きだったんだけどなぁ~。頑張って、背伸びしたんだけどなぁ~


僕:夢から覚めてしまうと、待っているのは現実しかないのだ


父:【歌「あなた」】もしーも~私~が~


僕:高望みの結末など、わかりきった事だろう


父:家~を~建てたな~ら~


僕:イカロスは地面に落ちた


父:小さな~いえを~建てたでしょ~


僕:バベルの塔は崩壊した


父:家のー外では~坊やがあそ~び~坊やの横には~


僕:信長は、光秀に殺された


父:あなた~あなた~


僕:高望みなどするものではない


父:あなたが~い~て欲しい~……はっ、好きだったんだよなぁ~…


僕:…本当にそうか?

  この結末を知っていて、何故僕が、この長い恋物語をわざわざ語る?

  父は人生において常に自分の思うように生きてきたのだ。いつだってそうだ。

  周りはふりまわされるだけ。


父:・・・こんなの、俺らしくないよな。。


僕:そう。 あんたらしくない。


父:おとうさん、、がんばっちゃおうかな


僕:あぁ


父:おう!佐藤か!?…久しぶりだな!!今から来い!!

  …あん?仕事?休め休め!!そんなもん!!…数少ない友達の頼みという奴だ!!

  お前には、随分貸しがあっただろうが!!つべこべ言わずに、さっさとこい!!


僕:父は行動を起こした。いつものように。いつものやり方で。

  …そう。 自分が思うように。 自分が信じる道を突き進む。 

  大阪から母の実家まで、3時間の道のりを車を飛ばしてやってきた父は、


母:ちょ、え?あなた!?…どうして!?こんな所に!!?


父:よし!!とりあえず、二人おさえた!!佐藤!!さっさと、車を出せ!!


僕:……僕と姉を誘拐した。


母:きゃ~~~~!!!あなた!!!!何やってんのよ!!!!


父:何ためらってるんだ!!佐藤!!いいから、さっさと車を出せ!!

  えぇいい!!使えんやつめ!!かわれ!!俺が運転する!!


母:あなた~~~~!!!!今度という今度は、許さないわよ!!!!


父:うるへぇい!!うるせい!!俺の子供だ!!俺にだって、幸せになる権利くらいあらぁ!!


母:今まで、散々好き勝手やってきたじゃない!!


父:だったら、お前も好き勝手やりゃあ良かったじゃねぇか!!


母:皆が好き勝手にやったら、どうなってたと思うの!!


父:「何事もやってみなくちゃわかんない!!」やる前から、あきらめてんじゃねぇ!!


母:じゃぁ、私も、好き勝手やるわよ!!


父:オウオウ!!いいじゃねぇか!!好き勝手!!上等だねぇ!!

  出会った頃よりも、今の方が、美人に見えるわ!!


母:おだてたって、もぅ笑ってやるもんですか!!かぁさん!!父さんの車のかぎ出して!!

  私だって、車の運転くらいできるわよ!!


父:ペーパードライバーが、無理すんなよ!!


母:なっめんっじゃないわよ!!っつ、うわぁ!!ぶつけちゃったじゃない!!


父:いつだって俺のせいか!?


母:大抵は、あんたのせいじゃない!!


父:田舎娘が、いきがって、事故んなよ~


母:もう、事故ったわよ!!


父:へっへ~~、追いついてみろってんだ!!おしっり、ぺん!ぺん!


母:だぁ~~~~むかつくぅぅぅ~~!!!


僕:ありえないって? でも、実話だ。

  頭がおかしいって? 僕が一番知っている。

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