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7/11

7 通学の車内で遭遇

 翌日、俺はごく普通に家を出て、ごく普通に電車に乗った。

 ただし、鹿石高校で体験してきた普通とはまったくかけ離れているので、まだ慣れない……。


 まず電車が長い。それに本数も多い。10分待たなくても次のが来る。


 鹿石高校に通学で乗っていた列車(電化されてないので電車ではない)は二両だった。

 なお、その一本に乗れなかった場合、確実に遅刻するので必ず同じ顔と遭遇する。



 あれ、スクールカーストの底辺みたいなところにいたら、かなり居心地悪かっただろうな……。俺は話せる奴がいて、そこまでの苦痛はなかったが。



 ちなみに鹿石高校に行く時に乗っていた列車も混んではいた。学生が一斉に使うから、混みはするのだ。


 まあ、東京近辺の鉄道と比べると知れているはずだが、東京ほどの混み方じゃないのは海ノ塚市でも同じだ。


 俺は昨日とは違う時間の電車の違う位置の車両に乗った。

 どの時間の車両にどんな奴が乗っているのか、いろいろ確かめてみようと思ったのだ。

 選択肢が多いから、同じ高校の奴がたくさん乗ってるところもあれば、まったく乗ってないところもあるんじゃないか。


 今のところ、同じ高校の奴に顔を合わせたくないなんて事態はないが、今後何があるかわからんし、一人にしておいてほしい時もあるかもしれない。

 選択肢は増やしておくほうがいい。



「あっ、りゅー君……尾崎君じゃん」

 思いっきり観鈴が乗っている車両だった!



「あ、ああ……おはよう……」

 まさか、こんなにタイミングよく遭遇してしまうとは……。



 観鈴は仲のよさそうな、ほかの女子二人と奥のドアのあたりで立っていた。

 どちらも、ギャルというほどではないが、醸し出している空気がいかにも陽キャでスクールライフを満喫してますってものだった。そういうのは、敏感にわかる。



「何? あの男子、観鈴の知り合い?」

 シュシュが目立つ、髪を軽くウェーブかけた女子のほうが聞いた。



「ああ、同じクラスに転校してきた男子。鹿石町ってところから来たんだって」

 その観鈴の言葉を聞いて、ああ、これはとくに面識なかったという設定でいくのだなとすぐにわかった。俺は逆側のドアのあたりに立つ。



「鹿石町ってどこ? つか、何県?」

 まあ、知られてないよな……。

「同じ県らしいよ」


「マジでどこ?」

 残った一人の女子がそう聞いているようだ。カバンにポ○○ンの小さい人形がついてたやつだな。どうせ、田舎だよ! 悪かったな! 全然知られてないさ!



 そのあと、シュシュをしていた女子がウィキで検索をかけたが、まったくぴんと来ていなかった。そんな目立つものはないからな。



 俺はとくに聞こえてないですという態度で、窓のほうを見ていたが、しっかり聞こえていた。



 都会の奴らは贅沢だよな。何両目に乗るか、どの電車に乗るか選べるんだから。

 俺の最寄り駅の鹿石高校生は7時48分発のに乗るしかなかった。せいぜい、前の車両か後ろの車両かの二択しかなかった。ちなみに、それぞれ後ろ側のドアしか開かなかった……。



 俺はそのあとも観鈴とほか二人の話を聞きながら電車に乗った。


「そうだ? 沙羅さら、彼氏と別れたって本当?」

 これはポ○○ンの奴の声。


「らしいよ。なんか、束縛がきついタイプで嫌になったんだって。自分のものって感じで接してくるっつーか」

 これはシュシュの奴の声。



「それは地雷だよね~。しかも、大学生の男って暇だから、常に連絡とかしてきそうだし」

 これは観鈴の声だ。


 ……うん。観鈴の声だということは認識できるのだが、まだ俺の中で頭に残っている、泣き虫の観鈴の姿と上手くつながらない。



 もし、あの頃の観鈴がこんなセリフを言ってたら、マジで悪霊がとり憑いたのではないかと疑ったと思う。いや、小学生の女子の彼氏が大学生の男だったら、単純に事案だが……。



 なんか複雑な気持ちだ。

 俺のいないところで立派に成長したなという想いと――

 こんなに性格の違う別人になっちゃったのかという想いと――



 ずっと連絡をとっていたわけでもないし、保護者面するのもおこがましいのは承知してる。

 でも、やっぱり複雑な気持ちではある……。



「ところで、観鈴は彼氏って作らないの?」

 ポ○○ンの奴が言った。


 自分の耳が一時的に倍の大きさになったような気がした。もちろん、気がしただけだ。


「え~。そうだな~。ほら、彼氏ができると時間がかかるじゃん。今でもそれなりに忙しいしさ~」


 なんか、ほっとしたような気がした。

 いかん、また保護者面みたいな気持ちになってしまった。


「そうだよね。観鈴ってけっこう勉強も真剣にやってるもんね。そんな時間ないよね」

 これはシュシュの奴の声。そうなのか。情報提供ありがとう、シュシュの奴。



 昨日、観鈴は付き合わないようにするから見守っていてほしいと言っていたが、彼氏がいないっていうのは本当らしい。

 もっとも、過去にはいたかもしれんが…………いちいちそんなこと考えなくてもいいな。


「ところでさ」

 シュシュの奴の声がちょっと小さくなった。ちょうど電車が地下区間に入る直前のところだった。

「あの、転入生の男子、まあまあかっこよくない?」


 びくっとした。お前、小声にしても、聞こえてるからな! 一種の逆セクハラだぞ! まあ……かっこいいと言われてうれしい面もなくもないけど……。


「あ~、悪くはないかもね」

 ポ○○ンの奴も同調してきた。

 おい、だから、聞こえてるんだよ! 聞こえない範囲でしゃべれよ!


 独特の気持ちだな……。まったくうれしくないわけでもないが、品定めされているようでもあるし……。


「大学生との合コンでJKならだれでもいいって感じの大学生見ると、同じ高校生のほうがいいのかもとか思っちゃうよね。田舎出身なら真面目なのかもだし」

 シュシュの奴が言った。おい、それ褒めてるのか、田舎者だってディスってるのかどっちだ?


「観鈴はどう思う? 私が付き合う選択肢に入れてもいい?」

 その流れでシュシュの奴が、そう尋ねた。



 おい、これ、観鈴の返答次第ではあの女子が俺を恋愛対象に入れるかもってことか……?

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