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4 結婚? の約束

「私の過去がバレたら、これまで築き上げてきたものが完全に崩壊するから……。だって、キャラが違うのは当然として、出身地すら詐称してたわけでしょ……。渋谷から鹿石町よ。五輪代表から県大会予選落ちぐらいの降格だし!」



「おい、それは鹿石町の皆様に失礼だからやめろ!」



 気持ちはわからなくもないが、ちょっと前まで住民票が鹿石町にあった人間として、素直に受け入れがたい。



「そりゃ、鹿石町のほうが渋谷より谷は多かったけどそういう問題じゃないでしょ……。たしか町の山林に渋谷しぶたにって名前の谷もあったけど、だからって渋谷出身ってことにはできないし……」



「当たり前だ。新宿とか赤坂とか青山って地名は全国各地にあるけど、勝手に東京の新宿や赤坂や青山に互換はできん」



「私の計画は完璧のはずだったのよ。人口の少ない鹿石町の学生なんてたかが知れてるし、しかもその学生が同じ高校に引っ越してくるなんて、ほぼありえない確率でしょ……。なのに、まさか高校の二学期になって、あなたがやってくるなんて……」



「こうやって偶然によって破壊される時点で、その計画は完璧でも何でもないけどな」



 あと、北海道や沖縄の学校に転入するのなら、ほぼ重なる可能性はないが、同じ県内での引っ越しだからなあ……。ワンチャン、過去を知る奴と出会うリスクはあったぞ。



「余計なことは言わなくていいの。とにかく、あなたは私の過去を黙っていればいい、それだけのことよ。そうすれば、私のクラスでの地位は守られるから」



「ずいぶん身勝手なことを言っているようだが、むしろ、すがすがしくて好感が持てた」


 これで金を出すから黙ってくれなんて言われたら、それこそドン引きした。

 元幼馴染なわけだし、お願いをされるほうが気楽ではある。



 俺もまさか幼馴染を脅すほどのクソ野郎じゃない。自分が小学校まで守ってきた幼馴染を不幸にしても、幸せになんてなれないからな。



「わかった。お前が鹿石町の陰キャだったって事実は絶対に言わん。安心しろ」



「よかった。私の気持ちが通じたみたいね」

 観鈴は助かったという顔になる。



 その時の観鈴の表情は(性格は別としても)たしかにかわいかったし、スクールカーストのトップに君臨するだけのことはあると思った。



 同じカーストの女子と比べても頭一つ分、観鈴は美しい。

 もしかすると、それは陰キャだった過去があるからこそ、中学に入ってから自分を磨き上げてきた差かもしれない。

 人間、苦しい時期を知っていると、より努力したりするものなのだ。



 うん、俺とお前、立場は違うが、これからも楽しく生きていこう。同じ鹿石町出身の人間として、ひっそりと応援してるぞ。堂々と応援するとバレるし。



「じゃあ、お前は陽キャとして楽しく高校ライフを過ごしてくれ」

「ええ、言われなくてもそうする」



「俺もカーストの中位で、あわよくば、そこそこかわいい彼女をゲットできるように努力する。せっかく新天地に来たんだし、振られるリスクぐらいは背負ってやっていこうと思う」



「待って」

 なんか、観鈴の声が冷たい気がした。



 さっきの、俺に壁ドンした時と同じぐらいに冷たい。



「……りゅー君、今、彼女をゲットするって言わなかった?」

 観鈴の声がふるえている。ところで、どうしてそこで「りゅー君」が復活するんだ?



「言ったけど、何か問題があるか? そりゃ、彼女を探しもするだろ。お前みたいなカースト上位の女子高生は年上の大学生と付き合うらしいけど――」



 ドンッ!


 また、観鈴の手が俺の後ろの倉庫の戸を叩いた。

 しかも、今度は両手でだった。

 に、二刀流!?


「……ちょっと、待ってよ。話が違うって。本当に違うって。ありえないし!」



 観鈴の顔が近い。

 百歩譲って顔が近いのはいいとして……その顔が涙目になっていた。



「なんで、泣いてるんだよ……?」

 原因不明とはいえ、女子を泣かしたということで、俺も戸惑っていた。




「りゅー君、卒業式の日、私に言った言葉、覚えてないの……?」

「ええと…………」

 全然出てこない。



「……少なくとも、将来結婚しようなんてことは絶対言ってないと思う」

 それだったら、いくら小六でも覚えていそうだ。



「りゅー君、こう言ってくれたんだよ。『いくら遠いところに行っても、俺が観鈴を一生かけて守る』って」



「昔の俺、かっこいいこと言ってたんだな……」

 そんなセリフ、なかなか言えないぞ。小学生だから許された発言だ。



「なんで他人事なのよ!」

 涙目で観鈴はむっとしていた。



 不謹慎だけど、その涙目も絵になるぐらい観鈴は美少女だった。



「私は思ったの。あの言葉は将来結婚しようって意味なんだなって」



「違うぞ! そんな深い意図はなかったはずだ! それは観鈴の事実誤認だ!」

 おそらく、それは中学校で困ったこととかあったら手紙を書いてくれたりしてもいいぞとか、それぐらいの意味だったのだ。



 だいたい、観鈴に恋愛感情を抱いてなかったのに、結婚の約束をするわけがない。

 俺にとって観鈴は妹のような立ち位置だったのだ。妹と結婚したいと思う奴はあんまりいないだろう。



「私だって、その言葉を信じ続けてたわけじゃないよ。一生会えなくても不思議はないし。でも、りゅー君のあの言葉があったからこそ、自分を変えて、陽キャとして生きてこれたの。ずっとりゅー君に心配かけさせるわけにはいかないって思って」



 えっ? 俺の言葉が結果的に観鈴を陽キャにさせたのか?



「でも、私たちはまたこうして出会った! 奇跡的に同じ高校になった! なのに、ほかの女子と付きあおうと思いますって宣言はどうなの!?」


 倉庫がみしみし言っている……。

 観鈴のやつ、パワーも陽キャになる時に上がったのか?



「おい、冷静になれ! お前の言ってることは論理的におかしい! お前、さっきまで過去バレのほうを恐れてたし、陽キャの地位を失うことも恐れてただろ!」



 こういう時こそ、理性的な話し合いが大切なのだ。



「そうだよ。今の地位を失うとかありえないし!」

 よし、ここは同意したな。



「だったら、俺と付き合うっていうのも矛盾するだろ。過去がバレるリスクが高まるし、だいたいカーストが低い俺が付き合ったら、お前の立場にも影響する!」


 自分からカーストが低いというのは悲しいが、これは相対的な意味でのものだ。観鈴の今のカーストがクラスでトップだから、比べれば俺の立場は低く見える。



「そう。だから、りゅー君は誰とも付き合わなきゃいいんだよ♪」

 不敵な表情で観鈴は笑った。

 悔しいが、その顔もまた魅力的ではある。



「りゅー君は誰とも付き合わずに陰ながら私を守って♪」



 こいつ、どこまで自分勝手なことを……。



「おい、観鈴、いくらなんでもそんな権利はお前に――」



 観鈴は壁ドンしていた手を、俺の両肩に載せた。



「私もこれまで付き合ってこなかった。りゅー君がどこかで見守ってくれてるんだって信じて。告られたことなんて何度もあるけど、好きな人が遠いところにいるって答えて、断ってきた」



 そんな変なところで、義理堅くなくてもいいのに……!



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