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3 本当に同一人物だった

 放課後、俺はすぐ竹原に言われたとおりの場所を目指した。



 といっても、転入二日目のことで、学食がどこにあるかわからず、探し回ることになったが。竹原は遅刻したらすごく怒りそうだから、早く到着したかった……。



 自販機は学食の入り口の右手にあった。古い青色のベンチが数脚置いてある。


 まだ、竹原は来てなくて、自販機の周囲も無人だった。多分、運動部の奴らが部活帰りに使ったりするのだろう。まだ放課後すぐだから、来る奴もいないのだと思う。



 しばらく待っていると、竹原がやってきた。



 こうしてサシで会うと威圧感がある。ある種、不良に会うぐらいの怖さだ。

 俺が一学期までいた鹿石町ははっきり言って田舎だったので、不良っぽい奴のカーストが高かった。


 ただ、「不良っぽい」というのがミソだ。今時、本物の暴走族なんていないし、リーゼントの奴なんていたら、ギャグになってしまう。半グレ的な雰囲気とファッションで来るのだ。



 絡まれたら怖いが、カーストが別だと会話自体がまず行われないので、案外無害だった。まあ、クラスの奴を毎日カツアゲして、それがバレてしまったら、すぐに退学になってしまうので、そりゃそうか。



「あのさ、学食の裏来てくんない?」

 呼び出しておいて、さらに命令か。文句言いたい気もしたが、ここで言ってもしょうがない。まさか、そこに不良のお友達がずらっと並んでるわけでもないだろうし、付き合うとしよう。




 学食の裏は人気もなく、閑散としていた。

 別の校舎との間にできた隙間といったスペースで、小さい倉庫が置いてあるぐらいだった。こんなところに用がある生徒はいないだろう。



 俺は竹原にただ、ついていった。

 で、竹原が倉庫の前で止まったので、俺もそれに対峙するように立つ。

 結果的に倉庫を背にする形になった。



 すでに不穏な空気はさんざん感じていたので、もしや告白されるのかなんて妄想は一ミリも抱かずにすんだ。


 で、実際に不穏なことになった。



 竹原の右手が俺の体の横を通過して、倉庫の戸に当たる。

 バンと音がした。


 一種の壁ドンだ。


 もし、ガチのケンカになったら女子の竹原に負けることはないと思うが、それでも威圧感はある。


「ねえ、どういうつもりなの?」

 眉間にしわを寄せて、竹原は言った。



 これがフィクションなら「かわいい顔がだいなしだぞ」なんて言うところだろうが、現実にそんな言葉が出てくるわけもなかった。



「JKはなんでも省略しすぎなんだよ。それじゃ、何を聞きたいのかわからんな」

 そう強がって言ったが……正直、そこそこ怖かった。


「あんた、鹿石町の小学校の写真を出そうとしたでしょ。あれは何? 強請ゆすりってやつ? 正体バラされたくなかったら、何かやれってこと?」

 いや、立場的にむしろ俺が脅迫めいたことをされてるんだが……。



「なんで俺が小学校の写真を出したら強請りになるんだよ。それと、ちなみに言っておくけど――」

 俺はスマホを出して、写真一覧を出した。



「――小学校時代の個人的な写真なんてスマホに入れて持ち歩いてないからな。大体、小学生の時はスマホ持ってなかったし。小学校の全景は検索して出てきた画像を保存して使っただけだ」


 竹原の表情が少しやわらかくなった。安堵したらしい。



「そっか。なら、直接的な証拠は入ってないのね。……よかった」

 わざとらしく、竹原は胸を撫でおろしていた。こいつ、まあまあ巨乳だなとその時、気付いた。


「おい、勝手に安心するな。正体がどうとかって何のことだよ?」

 そう尋ねはしたが、俺にもほぼ真相にたどりついていた自覚はあった。



「まだわからないって言い張るつもりなの、りゅー君?」

 その呼び名ではっきりとわかった。


 俺を、りゅー君と呼ぶのは今のところ、この世界で一人しかいない。


「やっぱり、お前、あの観鈴なんだな」


「そうよ」

 ゆっくりと、観鈴は壁ドンした時の手を元に戻した。



「小学校まで鹿石町に住んでて、中学校に入ると同時に完全な中学デビューを果たした、竹原観鈴だよ」



 急に観鈴のまとっていた雰囲気が変わった。

 さっきまでの攻撃的な部分は消え去ってしまった。その分をやけに弱々しい雰囲気が包む。



 表情も笑みを浮かべてはいるものの、どうにも儚げだ。

 その表情は俺がよく知っている観鈴に似ていた。


 いや似ているという表現はおかしいのか。

 なにせ本人なのだから。



「私は、小学校までの陰キャをなかったことにして、渋谷出身の陽キャとして暮らしてるの。今のクラスの様子を見ればわかるでしょ?」


「ああ、痛いほどわかる。あと、お前、メガネやめたんだな」


「あんな、いかにも陰キャですってメガネ、すぐにコンタクトに変えたわ。髪型も三つ編みからストレートに変えた。マイナーチェンジはしてるけど、基本的に今もそのままね」



 トリックのバレたミステリの犯人みたいに観鈴はぺらぺらしゃべってくれた。




 そう、小学校までの観鈴は陰キャという表現はどうかとして――

 典型的な気弱な奴だった。




 いわゆる「クラスの目立たない奴」というポジションだ。


 小学校の時点でモテる・モテないって話をしてもしょうがないが、まあ、モテる見た目ではなかったし、友達だってそんな多いほうではなかった。


 そんな観鈴の面倒を俺は見ていた。



 理由は単純で。幼馴染だったから。



 俺が常にケアをしていないと、どんどん観鈴が孤立していってしまいそうで、怖かったのだ。俺って一人っ子なのに、兄のような立ち回りをすることになってしまった。



 でも、そんな幼馴染の仕事も、観鈴が転校していったのと同時に終わりとなった。



「引っ越した先でイジメに遭ってないか、けっこう本気で心配してたんだけど、すべて俺の杞憂だったようだな。その点は本当によかった」


 表現がアレだが、目の前のこいつはイジメをやる側ではあっても、イジメに遭う側のキャラじゃない。



「そんな懸念もあったし中学デビューすることにしたんだ。想像以上にデビューは成功しちゃった。髪型を変えて、コンタクトにするだけで、こんなに雰囲気って変わるんだね」

 たしかに、俺の知ってる観鈴の雰囲気は種晴らしされてからも、ちっとも感じられない。



「それで、りゅー君…………あなたにお願いがあるんだけど」

 りゅー君って表現は封印された。


 まあ、人前でそう呼んだら明らかに何かあると思われるからな。


 何をお願いされるかは読めていた。

 幼馴染だから以心伝心でわかるみたいな理由ではなく、文脈から想像がつく。



「私が田舎出身の陰キャだってことは秘密にしてて」



 やっぱり、そういうことか。

夕方にも更新できればと思っています!

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