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1 転校先に気になる女子がいる

新作のラブコメ始めました! よろしくお願いいたします!

「今日から、この高校に転入してきました、尾崎竜太郎です。よろしくお願いします」

 俺は新しくクラスメイトになる奴らに、型通りの自己紹介をした。



 高二の二学期から環境の違うところに転校っていうのは、なかなかハードルが高い。



 でも、決まってしまったものはしょうがない。親父の勤めている会社の営業所が、県の北部から南部に変わってしまったのだ。



 担任の若い女性教師が「尾崎君は、どこから引っ越してきたのかな?」と聞いてきた。


 俺の自己紹介がシンプルすぎたから、もっと情報を引き出そうとしてるな。たしかにあまりにも情報量が少ないと、クラスの奴らも困るか。気をつかわせてしまって申し訳ない。


「県の北部の小さい町から引っ越してきました。鹿石しかいしって町なんですけど、知ってる人いますかね?」



 案の定、男子の誰かが「聞いたことないな」と言った。

 だろうな……。超マイナーな地名だからな……。



 親父は今の会社に入社する時に、「この県にしか営業所はないので、頻繁な転勤なんかは必要ありません」と会社から言われたらしい。

 ウソではないが、ほとんど詐欺に近い。



 なにせ、県の北部と南部では鉄道で三時間も離れている距離だ。

 県の北部は日本海側の気候で、南部は瀬戸内海側の気候。何もかもが違う。むしろ、まったく違う文化圏のところが一つの県になっているのがおかしい。



「慣れないことばっかりなんですけど、仲良くしてもらえると嬉しいです」

 無難な言葉で自己紹介を締めくくった。


 こういうところで悪目立ちをするとよくない。まずはどこの男子のコミュニティに入っても無害な奴ですよということを示さなければならない。

 そういう意味では俺の自己紹介は大きく間違ってないとは思う。



 教卓の横から軽くクラス全体を見渡すが、男子は普通だな。やけにオシャレな奴らが多いってこともないようで助かった。



 一方で女子は……鹿石高校の女子より、はっきり言ってレベル高いな。

 鹿石高校で口にしたら炎上必至の発言だが、ここは鹿石高校じゃないし、どのみち誰にも言うつもりはない。



 俺が引っ越してきたのは、県南部の海ノ塚市。

 人口七十万人の、大都市と言っていい都市だ。


 昔から港町だった経緯もあり、海外のものが伝わってくる玄関口だった。そのため、ファッションセンスが全国的にも高いと言われている。といっても、ファッションセンスなんてデータ上で示せないと思うので、事実なのかどうかは謎だけど。



 だが、女子の様子を見ると、正しい気がしてくる。クラスの女子の半数が、鹿石高校のスクールカースト最上位の奴より、輝いて見える。


 いわゆるギャル的な奴らとは違う。化粧も髪の色も派手さはない。せいぜい、少し茶色が入ってるぐらいだ。



 だが、自分たちこそが女子高生の鑑だとばかりに堂々としている。ごく自然と、放課後、タピオカを飲みそうな感じがある。



 まあ、女子のことは二の次だけどな。

 よほど、モテる自信がある男でないかぎり、まずは男のコミュニティに所属することを考えないとダメだ。


 でないと、どこのコミュニティに属すこともできない奴だとみなされて、女子からもろくでもない奴と思われる。


 コミュニティに属することができないってことは、原則としてスクールカーストの底辺とほぼ同じ意味になる。



 中には一匹狼的な人間もいるだろうが、そうなるためには成績とか以前に、容姿レベルがすごく高くないとダメだ。人間、顔が十割ではないとしても、顔が九割五分ぐらいは占めるからな。すっごくキモい顔の奴が主人公の話って、ほぼエロ系しかないだろ。




 幸い、無難に二学期の始業式の日を過ごしていたら、放課後に男子たちから話しかけられ、いかにもカーストの真ん中ってグループに所属できることになった。


 やけに体育会系というわけでもなく、やけに暗そうな感じでもなく、たいていの流行りの話題にそこそこについてこれる、そういう感じの奴らだ。


 オタクネタもまあまあ通じる。予想していたが、オタクの地位が相対的に田舎よりは高いな。



 俺としては女子と気軽にしゃべれるような立場に行くつもりもなかったし、そんな地位に行けるとも思ってないので、これで満足だ。


 どこにでもいる、ごく一般的な男子生徒として生きていこう。

 田舎から引っ越してきた奴としては十分な好待遇だろう。




 で、授業開始日の翌日の間に、クラス全体のだいたいのカーストを把握した。

 女子の中では、竹原たけはらという奴がトップらしい。


 髪型いわゆる黒髪ロングなんだが、文学少女的な黒髪ロングや、委員長的な黒髪ロングとは違って、キャラ付けははるかに陽キャだ。


 笑い方ひとつとっても、それがわかる。「マジウケるー!」と本当に口に出していた。


 女子のカースト上位のグループは常にその竹原の席の前に集まってくる。


 カースト上位の男子グループと気楽に話をしている点、それを誰も奇異に思わない点、さらに似たような雰囲気の女子が他クラスから話に来る点、その他もろもろの様子からこの女がトップだとわかった。



 で、俺の読みは当たっていた。

 同じコミュニティになった男子の飯田君が「竹原さんが女子の中ではカーストトップだから」と教えてくれたのだ。



「ああいう奴、いるんだな。JKのお手本みたいな奴。鹿石にはいなかった」

「あそこまで極端な女子はこっちでも少ないけどな。本人いわく、小学校を卒業した時に東京の渋谷区から引っ越してきたらしい」

 そう、飯田君は言った。

 

「なるほど。渋谷から来たなら納得できる。…………ん、引っ越してきた?」



 ふと、俺の頭に引っかかるものがあった。



「うん、少なくとも小学校が一緒だったって言ってた奴は誰もいないみたいだし。オレの地元の小学校にも竹原なんて苗字の奴はいなかった」



 飯田君の言葉に同じコミュニティの男子も、自分の小学校にもいなかったと同調する。



 みんなにとったらどうということのない話題だったのだろう。

 だが、俺にとっては違った。



 ただの偶然かもしれないが……竹原という苗字の女子が小学校卒業と同時に引っ越していったことがあるのだ。

 で、たしか引っ越し先は県の南部の海ノ塚市だったような……。



 竹原観鈴みすず――俺の家の近所に住んでいた女子で、幼稚園も小学校も同じだった。いわゆる幼馴染に入るのだろう。



 もっとも、今、クラスの後ろの席でしゃべっている女子生徒とは雰囲気が似ても似つかない。竹原観鈴はどっちかというと、おとなしい……いや、むしろ暗い女子だった。ポジティブという言葉とは無縁なキャラで、演劇とかでも地味な多人数でやる役しかやらなかった。



 たんなる人違いか?

 しかし、苗字と引っ越し時期がかぶるなんて偶然があるか?



 あとでクラスの名簿でも見れば名前が幼馴染と同じかどうかはわかる。でも、手元にすぐ名簿があるわけじゃない。


 これは確かめたほうがいいよな。



2話目はすぐに投稿いたします。

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