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End  作者: 平光翠
第六階層 ロックンロールミュージアム
98/200

第98話 魔王達のアフター&科学者達のビフォー

二話合同です。

大量の楽器を退け一息ついていると、

「魔石の分離か……」


小さな声で魔王は漏らす。


「おい、馬鹿なことを考えるなよ?俺達は異形の生物。人の形を模してはいるがモンスターなんだ。アイツらも当然そのはずだ。つまり、魔石が体から離れた時点で死んでしまう。そこに転がってるアントル達みたいにな。」


アスモデウスに魔石のみを抜き取られ、そのままの形で崩れ落ちて死んでいるアントルを指さしながら、影が魔王を諭す。


「わかってるさ。だが、何かトリックがあるはずなんだ。それが読めない……。」


アントルの死体を触りながら先程ショフィークの首を切った感触を思い起こす。


「あれが偽物というわけじゃない。だが、何か……」

「魔王。やめておけ、それ以上踏み込むな。不老不死なんて有り得ない、そう思いたい気持ちは分かるが、アイツらは本物の不死身だ。怪物だ。異形を外れた異常だ。考えない方がいい。」


深くまで考えようとする魔王に対して、背後から抱きしめつつ彼女の目を塞いで思考を逸らす。


「お前……。何を知っている?シャドモルス」

何かを隠すように誤魔化す陰に対して怪訝な顔を浮かべる。

思えば破壊神のためにと口にする割には肝心な部分を魔王に任せるなど、どことなく怪しく信用しきれない男であった。


「さぁな?だがこんなナリでも神だ。邪神シャドモルス。影と死を司る。ヒントはここまで、あとは自分で考えろ。」


飄々とした顔で告げる。あくまで白を切るつもりらしい。


影は知っている。魔王という女はたとえ答えのない問題であっても暴いてしまう。

その力で。魔王の力で。圧倒的な力で。


そんな彼女を1番そばで見ていたからこそ、()()()()()()()()()()()()まで話してしまう。


きっと自分一人で見つけてしまうから。

だったら自分が教える立場でいたいから。


「なぁ、シャドモルス。お前って変形してるとき、魔石どこにある?」

「ヒヒッ!さあな?」


へたくそな魔王の真似をしながら、彼女よりも楽しそうに笑う。

つられたように笑い始め、両者ともに狂ったように叫び始めると、それらの音はアバドンの地獄に飲み込まれていく。


「ヒヒッ!戻るぞ。六階層は私たちが貰う。あのクソ女とクソ科学者に聞かなきゃいけないことが増えた。」

「そう来なくちゃな。アバドン、手筈通りに準備を進めろ。」


カエルの顔面から元の無表情に戻ったアバドンは、軽く頷いて返事をするとアスモデウスと共に六階層から出ていく。


床にはガラクタのような楽器が広がり、その分スカスカとなった壁の展示品たちを見つめながら2人きりの空間で魔王は告げる。自身の魔石とは別の()()()()()が高鳴るのを感じながら。


「シャド、私は見つけるよ。この塔の行く末(ゲームクリア)を」

「クハハッ!笑わせるな()()()()()()()。お前達にはムリだ。この塔は必ず破壊神様がぶっ壊す。」


いつもの凄惨な笑みが消えた少女に対して、ドス黒く光の見えないような悲惨な笑みで、影は返した。


……To be continued?




それは、魔王たちとの交戦の前であり、クエイフ達が六階層に到達するほんの数時間前のこと。


「ここが……End?こんな所が?」


ある男は塔へと挑戦していた。

冒険者でもなければ探索者でもない。特別秀でた戦闘技能がある訳でもないその男は、国の目を盗み門番達をかいくぐり、Endへと登っている。


マードレ王国は人類未到達区域に踏み入ることを原則として許可していない。

既に攻略された階層であれば国から許可証を貰えばEndに立ち入ることを許される。当然、厳しい審査があるが。


それほどまでに厳重に封鎖された場所であるが、彼には才能があった。


少なくとも、Endで通用するかどうは別として、容易く侵入する程には強いと言える。


どうしてそこまでしてEndにこだわるかと言えば、その男は数日前、初めて攻略者を目の前にして人類の境地を悟った。

人はここまで高められるのだと。


少なくともクエイフ·ルートゥは、一階層の攻略後と五階層の攻略後では人が違うのではと疑うほどに、変化していた。


もちろん男にも誰にも負けない自信のあるたった一つだけの技能があった。だが、人の体では限界がある。


もっと上を目指さなくては。

神と同義に至らなくては。


救えない。救い難い。救われない。


数日の用意をかけて、慣れない悪事に手を染めながらここまで来た。


振るったことも無い短剣と、飲んだことも無い回復薬で疲労をごまかし、叫び声で枯れる喉を水で潤しながら、ついに二階層へと上り詰める。


とっくの昔に限界だった。

自分ではスライムにすら勝てない。


そうそうにトラップを踏んでしまい、持ってきた武器も刀身の半分はスライムを殺した時に溶かされてしまった。


ゴブリン達に追いかけ回されて、文字通り命からがらここまで来た。この塔に必要な才能を自分は持っていなかった。


「死ぬなら別なところで死んでくれ。研究の邪魔だ。それとも、この天才科学者アザピースのモルモットになりたいのか?」


朦朧とした意識の中、無造作ながら綺麗に見える白色混じりの茶色の髪、老けた顔ながら端正さの目立つ目元、お手本のように薄汚れた白衣を纏う男に出会う。


「アザ……ピース…?」


聞いたことの無い名前だった。だが、コイツが人では無いことは分かった。


なにより、科学者の遥か後方にいるであろう誰かの気配は、少なくとも人が出せるであろうそれとは、全く毛色が違っていた。


「む?お前クリスティアン·マストロベトか?たしか、王国の……」

「俺を……この先に、連れて行ってくれ…。頼む…」


アザピースの話を遮り、彼の足元をガバリと掴む。


この細い足は、男にとっての藁だった。

これ以外に掴むものが無い。最後の希望。


「いいだろう、ショフィークの復活祝いだ。派手に奏でてくれよ。マエストロ?」


彼に肩を貸しながらフロアボス専用の階段を使って上へと登る。


()()()()()()()()に向けて。


……To be continued

ここで、94話の後半の方へと続きます。

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