第95話 新階層
国との一件から一週間後
俺たちは再び五階層に来ていた。今度はカークスとキュレーも一緒だ。
「…なんのモンスターもいねぇな。」
「ここは安全階層なのでしょうか?」
「いや、違うみたいですよ…」
俺たち全員が完全にエリア内に入ると、背面の壁が閉じはじめ、正面からは唸り声が聞こえる。
「まじかよ。ここで狂宴だと?」
不動の壁から、ホブゴブリン、ケルベロス、スケルトンナイト、ゾンビオークが同時に出現した。
さらに扉の向こうにはアザピースが立っている。
「アザピース!!」
「まて、カークス!おい、俺はお前の仕業か?」
憤るカークスを押さえながら、暗い目をする男に問いかける。
「ちがう、私じゃない。今回はお前たちを使って様子を見に来ただけだ。それなのに、たった一度でコピーされるなんて誰も思わないじゃないか……」
その言葉は嘘ではないようで、わかりやすいほどに苛立ちながら、扉の向こう側へと消えていく。
先に進んだ彼の背を睨みながら「僕にやらせてください。」とカークスが呟いた。
俺の返事を聞く前に大剣を構えると、両手を上げて威嚇するホブゴブリンに対して振りかぶる。
グシャリと骨にぶつかる生々しい音をかき消すように、騒々しい咆哮が全身をびりびりと震わせる。
さすがに5階層のモンスターだけあって骨までは断ち切れないようだ。
背後から襲い掛かる骸骨のサーベルを大太刀で受け止める。
「片手に大剣、片手に太刀って…どんだけだよ。」
どちらも中々扱いにくい武器ではあるが、それらを自在に使いこなし決して武器に振り回されることがない。
太刀をケルベロスの顎に刺して、ゾンビオークの棍棒をはじく。
横やりを入れるようにホブゴブリンの突進。
とっさのことながら大剣の腹で受け止め、目にナイフを突き刺してカウンターを決める。
棍棒による薙ぎ払いをケルベロスから抜いた太刀で武器ごとぶった切る。
武器を失ったゾンビオークの咆哮に対し、叫び声で返して怯ませると、心臓を狙った一撃。
綺麗に魔石を割ったらしく、そのままばたりと倒れこんだ。
さらにその後ろからカタカタと骨を打ち鳴らしながら、サーベルを振り回す骸骨に対して、持っていた武器を地面に突き刺し二本のナイフを取り出し、器用に相手の攻撃を弾いていく。
はたしてどれだけの武器を隠し持っているのだろうか。そんな風に感心していると、気迫のこもった叫び声と共に、軽く跳躍したカークスの連撃が炸裂した。
サーベルを構えなおす隙さえ与えられずに、鈍さの混ざった甲高い金属音が鳴り続ける。
何度も武器が左右に振り回されるがゆえに、とうとう両腕の骨が耐え切れずにバキリと折れてしまう。
痛みこそ感じていないだろうが、骸骨はうろたえてしまう。無論、そんな状態でカークスの攻撃をよけきれずに、二つのナイフがあばらを通り抜けて魔石が砕けた。
地面から大剣を引き抜いて構えなおすと、血まみれのホブゴブリンを首を断つと、一気に大量の魔力が散っていくが、カークスは気にした様子もなく向きなおる。
「あの人の呪いは…いまだに消えてくれない。消したくない。」
ナニカに追われ苦しめられるように、悲痛な顔をしながら大剣を振りかぶる。
一太刀で胸元にいくつもの傷をつけると大量の血があふれだした。
崩れ落ちる実験体を背景に、武器についた血を拭き取りながら一言
「先に…行きましょう」
「うーん。五階層…危ないかもな」
「再出現期間がどのくらいかによりますね」
レイの解体を手伝いながら、一般向けの報告を考える。
ゲームでは入るたびにモンスターがポップする仕様だったが、ここもそうなのだろうか?
「何度かやってみるしかないかなー。」
「冒険者が入るのはしばらく先になりそうですね」
解体を終えて全ての素材をしまい終えると、アザピースが消えた先へと向かう。
階段を上ると、音楽室のような扉が鎮座しておりかすかに光が漏れている。
「見たことない扉だな…。もしかして!新しいエリア!?」
シリーズごとに同じ階層でも全く特徴が異なる別階層に分かれていたりするが、たまに既存の階層とは違う階層の時がある。
ゆっくりと扉を開けると、大きなファンファーレが鳴り響き、それらが俺たちを出迎える。
扉を開けると、鍵盤のような床に、所狭しと壁面に並べられた楽器たちはまるで博物館のようだ。
まるで見たこともない景色、どんなモンスターが登場するかとワクワクしていると、俺たちの前に銀色のスライムが現れる。
「スライムですか…?師匠こいつは…?」
「アイアンスライムか。防御力が少し高くて伸縮性の落ちたスライムだよ。そこまで強くはない。」
しかし、俺は気づかなかった。楽器というものの性質を。
定石通り火力の高いハンマーでたたきつぶすと、奇妙な弾力と共に銀色の液体は霧散する。スライムの特性である融解性も薄まっているため、本当に大した相手ではないと、思ってしまった。
いや、思わされたのだ。
当然、液体から少し外れて、金属の性質を取り込んだアイアンスライムは、俺が叩いた瞬間にそれなりに大きな音を鳴らす。
それは決して爆音というわけでもないだろう。
だが、博物館の展示コーナーのつもりなのか、たいして大きくもないその部屋には、見知った楽器とどこの民族の物ともわからぬような楽器も並んでいる。
キィィィィィィン、という怪音。
急な展開に驚いて耳をふさぐも、それを貫くような打撃音が鳴り響く。
音の共鳴。
ある周波数の音は、同じ周波数に同調し互いに増幅させる。
本来であれば真空中でもない限り音は摩耗し拡散して相手に届く前に波長が掻き消えてしまう。
音というのは全方向にほぼ等しく拡散する。もし、摩耗するよりも早く、全ての拡散先に波長を返す物体があれば?
音は鳴りやまない。
極めつけはこの鍵盤だ。踏みつけるたびに空気の力で音を鳴らして、魔力が揺らめき辺りを飛び交う音を変化させる。
この空間は、一度鳴った音が鳴りやまない。
どれだけ綺麗な楽器の音も、ここまで騒がしければ憎悪も膨らむ。
しかし、それをぶち壊すのがこの塔だ。
「ハープドラゴン…!」
「龍種。それも、純正の!!」
End外にもモンスターはいるが、その全てが元End産だ。
殆どの個体は息絶えており、魔力の下がった子孫たちが幅を利かせている中、いまだEndで存在を許されている個体を、『純正』あるいは『純血』とよぶ。
当然、それらは恐ろしく強い。
ポロンポロンと、羽をはためかせるたびに聖女の歌声のような音色が紡がれる。
龍としての強さはそこまでではない。だが、あのハープのような翼から奏でられる音は状態異常を引き起こす。
わざとらしくズレた波長でハープが奏でられると、音が脳につたわり、それに反応して下半身ががくがくと震え始める。
「行動不能状態か…。まずいぞ…!!」
手を使って地面を這いずる俺たちを嘲笑うかのように、ハープドラゴンの口内は赤く染っていく。
龍種はほかの種族と違い、体内に魔力生成器官が存在する。
全生物の中で唯一、無から魔力を生み出すことの出来る超常生物。
それが龍だ。
しっかりと魔力を蓄えたのか、真っ赤に燃え盛る獄炎の息吹は俺を捉えている。
ゴロゴロと転がりながら避けようにも範囲が広すぎて避けきれない。
「レイ、音だ!音を探せ!床の鍵盤は音の変調効果があるハズだ!」
アイツのハープの音色をかき消すような音があれば。
たった一瞬でも脳に伝わる音の信号が無くなってくれれば。
普段であればどの床がどの音を変調させるのか完璧に知っているだろう。
だが、この階層は初めての階層。
知っているはずもない。
だから、
「お前が頼りだ、レイ!」
「……うるさいなぁ!もう見つけてるよ!これでいいんでしょ!!」
這いずりながら黒鍵を思い切り叩く。
瞬間、ハープの音はなり止んだ。否、掻き消されたのだ。
音同士のぶつかり合いによって無音と成り代わった。
「レイさん、どうもありがとうございます。あとは、僕達が行きましょう」
「カークスは左を!イヴ、トドメは持っていけ。」
一呼吸にも満たない間の構え。
左右から発送した2つの刃はハープを両断する。
次にドラゴンが放ったのは、火炎ではなく叫び声だった。
聞く者全てを怯えさせるような強制気絶咆哮。
その場にいる全員が行動を止めてしまう。
だが、それを素直にくらってやるほど俺たちは甘くない。
「…見えない音でも、存在はしている。なら、ズラして殺せる!【無音の死神】」
イヴの周りに張られた結界が咆哮を殺して静寂を産む。
ただその中で彼女の詠唱のみが響いていた。
「終わりを告げる鐘の音。響く断罪の声は嵐のよう。紡げ【大風の刃】」
リン、と鈴のように空気を切り裂く音が響いてドラゴンの首がねじ切れる。
魔石はそのままに致死的損傷を負った肉体は、回復を諦めたのか力なくゆっくりと崩れていく。
レイが解体を終えたら先に進もう。
……To be continued?
そんな彼らの様子を1匹のバッタが見ていた。
しかし直ぐに他のモンスターに踏み潰されてしまう。
まるで、誰も気にとめない道端の石ころのように………
……To be continued
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