第94話 魔女の行く末
魔王たちを撃退し、アルデリオン含め直兵たちと王宮に戻る。
それぞれが仲間の死体たちを抱えながら、生きていることをお互いに慰めあう。
すでに伝令が走っており、俺たちが国に戻る頃には凱旋のようになっていた。
「帰ってきたぞ!『英雄』の魔女だ!」
町の人の叫ぶその声が、チクリと胸に刺さる。
『誰かのための英雄なんかじゃない。私だけの、魔王だけの勇者だ!』
思い出されるのは魔王の声。
「……様。クエイフ様。サイン、書いて差し上げてください。」
考え事をしながら歩いていると、不意にイヴから声を掛けられる。
ふと見てみれば少年が恥ずかしそうにペンとノートを差し出していた。
「サインか。そんなにすごい人間でもないんだけどな。…名前はなんていうの?」
「エストロ!」
「そっか。エストロ君は大きくなったら何になりたい?」
「魔女を倒すの!お父さんが『波際』の魔女に殺されちゃったから。」
子供の無邪気な一言。何の重みも感じさせない口調であり、周りの人間も特に気にしている様子もない。
それでも俺は、与えられた魔女の称号に首を絞められた気がした。
〔マードレ王国城内 謁見の間〕
五日程前にきいたものより、いくらか質の落ちた音楽。
ふと見れば、指揮者が前とは違う。急なことだったので準備不足になってしまったのだろうか。
「攻略者クエイフ・ルートゥ。貴方を『英雄』の魔女とし、王命をもって最重要人物とします。」
女王の威勢のいい声。それもこれもユーリの差し金だろう。
最重要人物とは、ユーリやアルデリオンを指す言葉であり国にとって重大な危機に瀕した際に最前線で戦うことを義務付けられている。その代わりに個別な特殊措置が与えられる。
「さらに、イヴ、レイ、それぞれを『魔力』の魔女、『死神』の魔女とし、身分を『英雄』同様に最重要人物まで引き上げます。」
女王がそう告げると、即座に首輪が外される。
「改めて確認させてもらうが、End探索に口は出さない。人命にかかわらなければ隠したいことは隠させてもらう。そして…」
「万が一、再び魔王が動くことがあれば、そのときはよろしくお願いしますね。」
「ええ、了解しましたよ。」
その後、お披露目という名の政治交渉に利用されることになるが、立食形式でフロア内にいるだけでいいとのことだったので、謹んでお受けすることにした。
もちろんドレスやタキシードなんて持っていなかったが、攻略者という肩書のおかげで多少雑な格好でも許されるらしい。
女王の言う通り、パーティが始まると会場のほぼ全員が彼女のもとへと集まったため、本当にいるだけでよかった。
「お初にお目にかかります、私―――家当主の―――――と申します。此度の……」
しかし、向こうであぶれたのか俺に話しかけてくるやつもいた。
ただ残念なことに、寿司に似た魚料理に夢中になっている俺はほとんど話を聞いていなかったが。
小太りの男の話を聞き流していると、段々と雲行きが怪しくなってくる。
「こちらは、私の娘ですが年ごろなのに特定の相手が見つからないんですよ。冒険者ともなれば家のことはからっきしでしょうし、お相手も獣やモンスターばかりでしょう?よろしければ……」
「あ、あー。そういうのは…」
最初から二人とは別行動をしていたのか裏目でたのか縁談を申し込まれているようだった。
視線をさまよわせてイヴに目を向けるも、かなり離れたところで食事を楽しんでいる。
マズいな…。Endとは別の意味逃げられない。
「クエイフ…。どうかしたの?」
俺のうろたえる姿に気づいたのか、どこからともなくレイがやってきて自然な様子を腕を組んでくる。
「そ、それでは、私たちはこの辺で…」
「え、あ、ハイ…」
男とその娘は何かやばい人を見るような目でそそくさと立ち去っていく。
もしかしなくても、よくない勘違いをされたのではないだろうか…。
「……馬鹿なこと考えてないで助けに来たことに感謝したら?」
「あー、ありがとうついでにもう一つ。アッチも助けてもらえる?」
小さく目立たないように指さした方向にはイヴがおり、貴族と思しきお坊ちゃまどもが何人かで取り囲んでいた。
「…チッ。私は誰にも声かけられないのに。」
「…大丈夫だよ。お前もかわいい」
「…うるさい。でも…ありがとう。」
照れたようなそういうと、彼女の気配が消える。
「やるなぁアイツ。」
死神の名は伊達じゃないようで何の音もたてずにイヴの方へと向かっていく。
彼女なりの成長に驚いていると、一通り用が済んだのかパーティもお開きになる。
家に帰ると明かりは消えていて、カークスたちは寝ているようだった。
彼らを起こさないように夕食や風呂を済ませてそれぞれの部屋に帰っていく。
たった数日の出来事であるが、いままでの何よりも非現実的で、奇妙なほど現実的で。
俺がEndしか見ていない間でもこの世界は動いているということを実感できた。
ウトウトとまどろみの中にいると、部屋の外からカークスの声が聞こえる。
「すみません、師匠。少しいいですか。」
「…?いいぞー」
どうやら寝ていたのはキュレーだけのようで、彼はおかしなことに鎧を着ている。
「どした?夜中に一騎打ち?」
「いえ、Endでしか話せないことがあって…」
彼に連れられて激戦の跡残る一階層へと戻ってくると、お互いに何も話さないまま付近のモンスターと戦いを始める。
運悪くモンスターパーティとかち合ってしまい、半刻ほど連戦が続いた。
「師匠は…」
アクアスライムを切り殺しながら、目を伏せたまま言葉を選ぶように何かを告げる。
「師匠は一体何者なんですか…?敵ですか?味方ですか?僕にはあなたが分かりません…。」
懇願にも似た呟き。
「俺は……」
「僕達に何を求めているんですか?何が目的なんですか?どうして僕達を恐れているんですか?」
言えない。言えるはずもない。
本人を前にして、お前たちはゲームキャラでストーリーによく関わってくる奴らだったから保護している。
そんなことを言ていいわけがなかった。
「……俺は、Endで何人も死んだのを見た。目の前で死んだ奴もいた、いつの間にか死んでいる奴もいた。俺が殺したやつも…数え切れないほど。」
この世界によく似たゲームがあると言うことは、イヴとレイには包み隠さず教えているが、それ以外に知っているのは魔王とジースぐらいだろう。
「俺は今までずっと、遊びの域をでなかった。でも、お前達を見て思い出したんだよ。俺が殺してきた命も確かに本物の人間だったかもしれないって。」
この2人を守る理由?
そんなもの簡単だ。
贖罪
何度も2人を守りきれずに殺してしまった。
何度も2人を自らの意思で殺した。
彼に殺されたことだってある。
その殆どはわざとだ。
見たかったから。知りたかったから。
どうせゲームのシナリオだと舐めた態度で殺し回って気まぐれで生かして、命を弄んだ。
魔王も天才も似たようなものだろう。
だからそれぞれ歪んでいる。
「師匠は……。クエイフ·ルートゥは塔を攻略出来ますか?」
なにか思い詰めたように、涙を流しながら問いかける。
手に持った剣先がカタカタと震えており、今にも潰れてしまいそうだ。
「約束しよう。必ず終わらせる」
だって、そうだろう?
ゲームは終わるのが楽しいんだ。
「いつか、あの男を……殺しますか?」
「因縁は…お前でケリをつけろ」
「僕達は生きてていいんですか?何も出来ないのに…」
「お前の剣は俺より強い。だから、十分だ。」
「あの子は…本当に僕の妹ですか?」
核心を突くような一言。
ゲームの頃には気づく片鱗すら見せなかったというのに。
「俺がそうだと言ったら信じるのか?違うと言ったら信じるのか?違うだろ!お前の目で確かめろ。その為にEndがある。」
ああ、Endは今日も…誰かを殺している。
……To be continued?
男は飢えていた。
足りない。
自分はまだ、神の領域に達していない。
あの攻略者を一目見た瞬間、Endはああも人を磨くのかと打ち震えた。
ああ、神よ!音の神よ!
どうして私に才能を与えたのか?力のない愚者であれば、こうも悩む必要もなかったというのに。
「残念だけど、神様はそんなもの与えた覚えはないってよ?」
「…なら、どうして?なぜ私は音楽の才能に恵まれた?なんの意味があって?」
どこからともなく聞こえる女の声に、責めるように問いかける。
「それは、塔の果てに答えがあるかもね。」
ならば登ろう最果てへと。
目指す先のその向こう側へと。
この人ならざる力を持って。
だがその前に、示さなくてはならない。
Endに。科学者に。この女に。
……To be continued
というわけで、これから一話一話が短くなってしまうかもしれません。




