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End  作者: 平光翠
第5.5階層 小さな世界の幕間
92/200

第92話 その時彼らは?

〔天才少年とメイド少女の場合〕


それは、クエイフ逮捕直後のことだった。


貴族の邸宅のような豪華な屋敷。

本来なら数十を超えるメイドや執事が働いていそうな場所であるが、髪を三角巾でまとめた少女が一人で掃き掃除をしていた。


鼻歌を歌いながらホウキを動かしているが、かすかに足音が聞こえると、ぴたりと手を止め雇い主であるジースが道を通るまで、頭を下げ続ける。


「ああ、メイ・カーレン。掃除を続けてもらって構わないぞ。」


主が見えなくなるまで頭を下げ続け、またも掃除を再開する。

どうやらジースは執務室に向かったようで、かすかに何かを書くような音が聞こえる。


時刻は陽の刻11を半分過ぎたころであり、普段なら昼食の用意をし始めるころであるが、今から仕事を始めたということは、もう少し遅いほうがいいだろう。


そんな風に考えてまた放棄をかけ始めると、部屋から慌てた様子で少年が飛び出してくる。


「メイ・カーレン。街に出るぞ!急いで準備しろ!」

「はい?かしこまりました。」


身をひるがえして姿を消すと、全く同じような姿で戻ってくるが、この一瞬で着替え武装を完了させていた。


「着替えをお持ちいたしました。」

「いや、一刻も早く向かいたい。着替えなくていい。」


ですが、と口を挟もうとも思ったが、そこまで彼を駆り立てる何かがあると思いなおし、何も言わずに従う。屋敷を出て街を出ると、わかりやすいほどに人だかりができていた。


「お坊ちゃま、何があったというのですか」

「簡単に言えば、最前線攻略者クエイフ・ルートゥが逮捕されたということだ。そろそろ来るぞ。」


町中に取り付けられた費上昇の拡声器を指さすと、若い男の声でマイクテストが始まる。

音質のチェックが終わると、盛大な前奏ののち国歌が流れた。


「国民の皆様、ごきげんよう。マードレ王国女王、リオン・E・マードレでございます。突然お時間をいただき申し訳ありませんが、すこし耳を傾けていただければと思います。このたび、End攻略者であるクエイフ・ルートゥの逮捕についてですが、罪状は国家反逆罪になります。原初の魔女から祝福を受け、世界中から呪われた存在である魔女をかばい立て、王命に背いた反逆者となった彼は、すでに英雄などではありません。いまこそ、我々がEndを攻略するのです!この件を受けマードレ王国は……」


そこまで聞くと、従者に声をかけてジースは屋敷に帰る。


「お坊ちゃま…。いかがなさいますか?」

「いや、あの男の考えが読めない。わざわざ捕まる意味は…?呪い子をかばった?カークスたちがそうだったのか?いや、あの二人か?」


メイの問いかけを無視して何かを考え続ける。


「お坊ちゃま、失礼いたします。」

「ああ。」


彼を抱きかかえて家へと急ぐ。

天才にとって場所というものは重要であり、自身の部屋にいる時が最も思考能力が高まるのであった。


それを理解している少女は主のために環境を整えようと奔走する。

しかし、それはだらしない格好をした二人組の男に阻まれた。


「おいおい、えれー上玉のメイドさんじゃねぇか。」

「ガキのお守りか?」


ジースの前であるため舌打ちこそできないが、彼がいなければ思いきりぶん殴りたい気分であった。

一歩踏み出した彼女を、天才の手が止める。


「礼を言おう。君たちのおかげで一気に思考が加速した。やはり人間、様々な視点を持つべきだな。」


懐から二丁の拳銃を取り出すと、ノータイムで発射する。

幽鬼弾(レイスバレット)


射出された弾丸は攻撃力のない弾。

かわりにゴーストに通り抜けられた時のように、精神的ショックを負わせる特別な弾丸。


もっとも、携帯している拳銃はかなり威力を抑えているため、連続発射可能という利点こそあれどEnd内では使い物にならないガラクタである。


しかしそれでも、Endの魔力に当てられたことも無い一般人は生気を失ったような顔つきへと変わった。


そんな彼らを無視するようにジースは傍らの少女に話し始める。


「僕の頭脳は追い込まれれば追い込まれる程賢くなる。原理としては並列思考能力と言うのかな。」


彼が天才と呼ばれる所以でもあるが、別の思考能力を持った人格が脳内に同席しているのだ。


「絵の天才、走る天才、泳ぎの天才、歌の天才、作曲の天才、彫刻の天才、数学の天才、語学の天才、努力の天才…。世界には様々な天才がいるだろう。だが僕は、その全ての才能を持っている。そして今彼らから学んだんだよ。その場しのぎという才能を。」


ジースからすれば、自分が通ろうとしている道に、普段どんな人間がいるかというのは簡単に想像が着いてしまう。


そのため、ガラの悪い人間が付近にいると思われる道は避けて来た。だからこそ、難ある性格の彼でもカツアゲに会うことすらなく生きてこれた。


生まれて初めてカツアゲというものを体験した彼は、さらに上へと成長する。


「理解した。ああいう連中はその時その時のことしか考えない。考えられない。欲に忠実で、目先の害を嫌う。マードレ王国からしてみれば、クエイフ·ルートゥは最初から殺すつもりだった。End攻略という将来的な手柄を捨ててまで、目先の国を脅かすかもしれない強さを排他した。そのためにわざと2人を貶めるような発言をしたのだろう。それにまんまとのせられたが、誰かの差し金によってとめられた。」


「クエイフ氏の方も2人を守るという目先の利益に囚われてしまい、自身が捕まるという選択をしたのでしょうか?」

「いや、違うな。他の誰かが考えたんだ。誰だ…?恐らくそいつはEndで何かをしでかすぞ。何か目的があるはずだ。クエイフ·ルートゥをEndに登らせようという目的が。まぁ、その前に魔王が動くかもな。」


まだ見ぬ魔王と、いつか対するであろう誰かを待ちわびながら、天才は街へと埋もれていく。






〔剣の兄と女神の妹の場合〕


それは、クエイフ逮捕直後のことだった。


「お兄ちゃん!大変!!!」


家で素振りをしていると妹が慌てた様子でやってくる。

木の剣を投げ捨て慌てて声のする方に向かうと、妹から容赦のない一言。


「うっ。お兄ちゃんちょっと汗臭い…」

「え!?あー。お風呂行ってこようかな……」


妹の心底嫌そうな顔に傷つきながらもシャワーを浴びる。


温かい水を頭からかぶり、濡れた体のままキュレーの元へと戻る。汗の臭いこそ落ちたもののだらしない格好に違いなかった。


「それで?なにがあったの?」

「あ!そうだ。大変だよお兄ちゃん!!師匠が…!捕まっちゃった!!」


「え?は!?」という声が出る前にフリーズ。

一泊以上間が空いてから、やっとのこと絞り出した声はなんとも情けないものであり、自分から出た声とは到底信じられなかった。


「な、なんで…?」

「よくわかんないけど、こっかはんぎゃくざい?だって」


妹からの情報では理解が及ばないため、魔道テレビをつける。大々的に放送していたのは魔女を貶めるような話ばかりだった。


だが、それだけでピンとくる。


「イヴさんとレイさんか…。」

「あの2人がどうかしたの?」


いや、大丈夫。と妹を抱いて慰めながら、自分の師匠へと思いを馳せる。


思えば、最初から信用なんてしてなかった。

する必要も無い。


「大丈夫。お前のことだけは必ず守るから。お兄ちゃんが必ず。」


塔を攻略するだなんて息巻いているから、余程強いのかと思えばさしたるものでもなく、そのくせ塔の内部構造は怖いほどに知っている。


自分達を保護したのもなにか別の目的があるのことは分かりきっていた。


彼が何を隠しているかなんてどうでもいい。


この小さな妹を守れるのなら。











〔バケモノと怪物の場合〕


それは、クエイフ逮捕直後のことだった。


「テンキクズシ様、少々よろしいでしょうか?」


マードレ王国から少し離れた森の中。

元々は『蔵書』の魔女が住んでいるとされていた準人類未踏破区域。


人類未踏破区域は誰も行ったことない土地だとするなら、準未踏破区域は()()()()区域である。


元々は軍国ガンガチアの領土であったものの、魔女が住み着いたことにより権利を放棄し、魔女に渡してしまった。


そんな魔女もとうに死んでしまった為、誰も立ち入れないだけの危険な森とされている。

そこに目を付けてさらに奪ったのが、モンスターでも人間でも魔女でもない異形のバケモノ、テンキクズシであった。


そんな彼女に仕えているのは、自分の意思でモンスターを辞めた怪物オルクス。


「どうしたオルクス?」

「こちらの伝え書をご覧下さい。」


獣のような見た目ではあるが、極めて紳士的な手つきで、世界中にばらまかれたクエイフ逮捕ということを報じている紙切れを持ってくる。


「伝え書、きちんと読むのは初めてだな。場所によっては新聞なんて呼び方もするらしいが…。」


軽く目を通すが、あまり興味が無いのかすぐに猪人の手に返してしまう。


「あの男、馬鹿なヤツだとは思っていたがここまでとはね。モンスターを魔王から庇ったかと思えば、魔女をも庇うのか…。」


部屋の隅に転がる骸に目を向けながら、大きなため息をつく。


「王国は気をつけた方がいいね。魔王(あの女)は必ず動くよ。その時、世界は一変するはずだ。」

「では、その混乱に乗じていけば、テンキクズシ様の目標である死書が手に入るかもしれませんね。」


彼女は機嫌良さげにワインを要求する。


「楽しいことは全部やろうじゃないか。私は知りたい。酒の美味さも、性の楽しさも、知識の趣深さも、この世界の行く末も!何もかもが知りたい!!ああ、生きてるって、最高だ!!!!」


割れたワイングラスになみなみと注がれた液体を一口で飲み干すと、恭しく後ろに立つ獣へと跨る。


口に含んだままのワインを、オルクスに向かって強引に飲ませると、何度目かも分からない濡場が始まった。












Endだけが知っている。

人類の歴史を。人間の過ちを。それによる呪いを。塔を作りあげた女神を信じる愚者を。魔女に見初められることなく大罪を冠した魔女を。魔王が成り立つその日のことを。


Endだけが知っている。


英雄が勇者と呼ばれる日のことを。



……To be continued


なんでクエイフ達の話じゃねえんだよ!

と思うかもしれませんが、明日長編をやる予定です。

結構長くなります。多分?

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