第83話 呪われた血
「そもそも呪い子とはなんなのか。それは私達も分かりません。一説によると、呪い子の成り立ちは、種族が関係していると言われています。
種族とは、我々のように生命活動の全てをを心臓による送血によって動かしている人類種、大気中の魔力を取り込み、それを核とすることによって異常な性質を得た変化種、魔石により人の醜悪な部分のみを増幅させた亜人種、相反する魔力がぶつかり合うことで生まれた混合種、全生物の中で唯一空虚から魔力を作り出すことの出来る龍種、そして、生物の枠組みから外れた者たちの総称、神。
人類種以外の全てをモンスターと呼んでいますが、呪い子とはそのどちらにも当てはまらないもの達の事です。
呪い子が生まれる原因は、世界で最初の呪い子にして原初の魔女『マレフィ』
彼女はなんの目的があって呪いを振りまいているのかは分かりません。呪い子の殆どが彼女の祝福を授かった為に呪われた血へと成り代わります。
彼女が祝福するのはどの種族にも当てはまらない生き物で、なおかつ魔女に見初められた者。
大体は複数の種族の血が混ざった生物をどの種族にも当てはまらないと見ているようです。
それと、混合種との違いとしては、混合種はあくまでそういう性質の生物であり、血は混ざっていません。
男女問わず祝福を受け呪われた者については魔女と呼ばれます。ある意味でいえば魔女種とも言い替えることも出来ます。そして、強力な呪い子については独自の呼び名をつけ、多くの国で指名手配を受けることもあります。
例えば、『原初』『最初』それらの呼び名はマレフィのことを指します。
ほかにも、有名な呪い子で言うと『滅国』でしょうか。テレシスを滅ぼした魔女です。彼女は薄く変化種の血が混じっているそうです。
次いで有名なのが『大罪』シキルリルでしょうね。こちらは禁忌に数えられるほどですから。
ただ、彼について厳密には呪われているかどうかは分かりません。彼には神の血が入っているという噂があるだけです。
更には龍を殺して食べたとも言われています。
少なくとも呪い子の条件である混ざり血であることに間違いはありませんが。
我が国では呪い子は強制的に奴隷階級へと落とされます。
と言っても、弱い呪いや有益な呪いであれば監視などで済まされることもあります。
もちろん、呪いというのは単純なものではありません。
滅国が良い例ですが、彼女が持つ強制的共感覚は国を滅ぼしたほどです。代償は処女受胎。
行為に及ばず、相手がいなくとも一族の血は保たれ、永遠に力が失われることはありません。どうも、弱くはなっているようですが。
呪いと言うからには必ず代償があります。
『静寂』という魔女は、周囲から音を奪い続けますが、代償は音崩壊と呼ばれています。
奪った音が消えるなんていうことはなく。
彼女に高負荷がかかると今まで奪った音が一気に解放されます。当然彼女自身は耳が聞こえないです。
それがゆえに、我々は呪い子を見つけ次第能力の解析と、必要に応じた対処を試みるのです。
対処というのは、貴殿の奴隷達でご存知でしょう。
呪い子は私の大切な王国にとって脅威であり害でしかない。それは例外なく、貴方の奴隷達もです。」
ここで、やっと一息。
問いかけるような口調でありながら、断定的に差別した話し方。
それもそうだろう。
一国の主としては、そこらの軍隊なんかより遥かに強い魔女の存在は恐れの対象以外に他ならない。
だがそれは、イヴやレイを貶めていい理由になっていいはずがない。
彼女達がどんな思いで今まで生きてきたのか。
何もせず何もしてもらえず、ただ知らぬ間に呪われて、勝手な祝福を受けて、だから奴隷になれと。
戦争も魔女も大罪人もイカれた教祖もいない世界の俺からすれば、それは甘い考えなのかもしれない。
魔法の使いすぎで代償の痣が浮かぶ度に、原理を超越した重圧に疲労が見える度に、ジョブを変えて吐き気と頭痛に襲われる度に、呪いを恨んだ。
魔女が原因?国の法律で奴隷化?イヴやレイが普通と同じ生活が送れない理由を、どうしようもないからと言って許容し女王が定めたからと言って強要する国家が気に食わない。
「僭越ながら女王様、俺は、俺たち最前線攻略者は国の決まり事なんて知ったことか。と言わせてもいます。
彼女たちの立場も攻略者の行く末も、自分たちで決めます。アンタらに飼われてやるつもりは無い。」
いつかEndを攻略すれば、俺を含めて呪われた3人は奴隷に落とされる。
あの塔を攻略するほど強力な呪いを持っていると、ふざけた大義名分を掲げて俺たちを殺しにかかるだろう。
考えないわけがなかった。城に来いと女王に会えと言われた時点で嫌な予感がしていた。
見えないように隠したつもりなのか、3つ目の奴隷用首輪は、忌々しい輝きを放っている。
「なるほど、国の中だけで動いてくださるのなら、我が国の国力増強に繋がると思い、あえて静観をしていましたが、私に対する無礼が何を意味するかお分かりでしょうか?」
「言われなくともわかってるよ。直兵になれ。それか死ねって事だろ?どっちもやだね。」
いくらEndが世界各国の悩みの種であっても、まだ完全攻略者ですらない一介の探索者ごときに特例の市民権?
そんな都合のいい話があるわけがなかった。
それを渇望するような態度を見せれば、餌にされ奴隷と同じような目に遭うことだろう。
先程の男のように。
「攻略者舐めんなよ、たかが国の兵士なんて、Endに比べれば大した事ねぇよ。その証拠にアンタらが国として動いたEnd任務は全て失敗してるだろう?ありとあらゆる計画が全部あの塔で台無しになってる。探索者になりうる肉体と、冒険者となる肉体と、一国に仕える兵士の肉体とでは、根本的な作りが違うんだよ。」
一瞬の判断、逃げるか追うか、矢を右に避けるか左に避けるか、たったそれだけで優勢にもなれば劣勢にもなる。
長期的な戦い、戦争に向けて訓練をした兵士と、短期的で連続する戦い、それでいて集中力は長く維持する必要がある探索者や冒険者、違いが出て当然だ。
はっきりいえば、1人で強いだけの俺は戦争では使い物にならないだろう。
戦闘力で劣るつもりは無い。勝るとも驕れない。
ただ純粋に考え方が違う。思考過程が全くの別物なのだ。
「そっちの忠告はありがたく受けとっておく。そんで、こっちからも忠告だ。後ろの兵士をさげさせろ、俺の入軍は諦めろ。以上!それとついでに、Endなんかで活躍するやつは、魔女の力なんてなくても呪われてるんだよ。こんな風にな。」
予めソードマンだと言っておいたが、ジョブチェンジによりソーサラー風の格好へと変身する。
天井に向けて爆発魔法を唱え、豪華なシャンデリアをぶち壊す。
「俺の呪いはジョブチェンジ、才能も努力も踏みにじる最低最悪の呪いだよ。代償は酷い倦怠感と頭痛。ああ、それと、依存的な優越感と、そこから来る傲慢って所かな!」
アーチャーへとチェンジし、家に放っておいたクロスボウを女王へ向けて射出する。
もちろん、それを見過ごすほど直兵は馬鹿ではない。
玉座の間では直兵であっても武装は許されておらず、兵士としてのプライドである飾り剣を腰に提げているのみで、当然、国お抱えの鍛冶師が打つようなものでは無く魔力を持たない金属で作られている。
その程度の、武器とも言えないような武器で、それなりに腕のある鍛冶師の打った魔力を込めたボルトを弾き飛ばされる。
「王国最強近衛兵アルデリオン·リードマイヤー……。」
「おいおい、姫様に危ねぇもの向けるなよ。」
元々は先代女王の子供、つまりは今の女王を誘拐した罪で投獄寸前だったがその実力を当時5歳の女王に認められ、将来直兵となることを条件に死刑を免れた男。
誘拐の目的は未だに不明。それに触れることは王命により禁じられている。少なくとも金が目的ではないことは確かであるが…。
唯一、現女王を『姫』と呼ぶことを許されており、直兵の代表的存在でもある。
「なるほど、あなたの意思は分かりました。では、リード殺しなさい。」
「了解。」
「きちんと言い直すこと!」
「へいへい、女王の御心のままに。」
彼が言うと同時に、周りの兵士も飾り剣を出して武装しはじめる。
さすがに多勢に無勢であるが、致し方ないだろう。
Endという自由と生きがいを奪われるくらいなら、国の一つや二つ潰しても構わない。
「罪人クエイフ·ルートゥ!女王の命を脅かし、許可なく武器を向けた罪により死罪を課す。執行人アルデリオン・リードマイヤー推して参る‼」
……To be continued




