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End  作者: 平光翠
第五階層 イッツ·ア·スモールワールド
81/200

第81話 小さな世界に広がる影

「さぁて、クエイフ。早速だがやりあおうじゃねぇか。試してみたかったんだよ、攻略者の強さってやつをさ。」


キラキラと光を散らすように佇む影は、俺に向けて細い指を向ける。


「なぁ、そんな風に3人から睨まれたら動けねぇだろうが。糸も邪魔だし、潰されそうな魔力が痛々しいんだよ。わかんねぇかな?俺は攻略者との1VS1(タイマン)がしてみたいんだよ」


一瞬にしてレイの糸を引きちぎり、イヴが展開していた魔力を散らす。それでも揺らめいた輪郭は体の大きさをつかませない。


「イヴ、レイ、手出すな。邪魔だ。」


二人には悪いが、今回ばかりは本気で邪魔だった。

糸も通じない、魔力も簡単に散らされる。ならば、必要なのは純粋な知識とEndに対する本気度。


この塔は、突如として現れた影を一時的なボスと認めたのか開きかけた扉が再び閉まる。

「End流奥義【神の目】」

「おお、それはアイツも使ってたな。魔王の目とか言ってたが。」


視覚拡張をもってしても揺らめきは止まず、シルエットはぼやけたままであり、核となる部分がつかめない。


二人がゆっくり後ろに下がり十分に離れたことを確認すると、大きく振りかぶって槍を投げる。

片手であしらうように槍の軌道を逸らされるが、すでに並行して三連撃の魔法を撃ちこんであり、それらに合せるように、刀を携えて発走する。


「End流抜刀術【一閃】」

「ああ、それな、もう知ってんだわ。」


まるで食らったことがあるかのように、魔法の軌道を読んで全てを躱し、あまつさえ一歩後ろに引いて横薙ぎの刀撃を避けて、俺のこめかみに鋭い衝撃が走る。


一泊遅れて、手をポケットに突っこんだまま悠々と構えたそいつに、回し蹴りをされたことに気づく。


もし、俺の【ジョブチェンジ】を知っていたとしても、完璧に躱すのは難しいであろう、ゲーム外のPS(プレイヤースキル)があること前提である攻撃を、こんなにも簡単に崩されるとは思っていなかった。


それゆえに、集中が乱れてしまい目がちかちかと眩み始める。


視界が揺らめきぼやけた影が、目全体を覆うように広がり始めた。全身は吹雪の中に立たされるかのように冷えていくのに対して、眼球が発熱しているかのように真っ赤に燃え上がる。


「おいおい、一発で使えなくなるのか?あの女は20は耐えるぜ?」

「残念だが一撃で落ちてやるほど甘くはねえよ。」


必死に虚勢を張り、声のする方を睨みつけるが、その実全く見えていなかった。


「嘘つけ、見えてねぇだろ。」


一瞬で見抜かれ顔面への強烈な膝蹴り。

執拗に顔周りを狙う攻撃は神の目を閉ざそうとしているのか、あまりに痛烈で痛々しい。


後ろへ吹っ飛ばされながら、目を維持しようと血液をまわす。それを読んでいたのか、横腹への回し蹴りにより地面を転がされる。


「遅ぇな。ホントに攻略者か?それとも、まだゲーム感覚なのか?なんだっていいが本気でやれよ。そこの2人も殺すぞ?」


暗い色をした指を彼女達に向けて、話す度に口から光が漏れ出している真っ黒な顔は、盲目になりかけた俺の目でも見て取れるほど口の端が嘲笑により歪んでいた。


「End流抜刀術其の三【散開】」


単発の攻撃は当然のように受け止められてしまう。かと言って、攻撃を繋げようとすれば、既に対策を打たれており、簡単な顔ををして躱して行く。


「たしか、次は掌底か?」


刀を離し顎を狙った一撃を仰け反ることで避けると同時に左手を前に突き出す。


既に染み付いてしまった動きは今更止めることが出来ずに、バックステップをとってクロスボウを発射してしまい、予定調和のままボルトが影の中に沈んでいく。


「残念、それも知ってる。」


シャドモルスが反撃の為に一歩踏み出すと、即座に煙玉を放り投げて、煙幕の中に紛れ込む。


白い景色の中に浮き出る影はあまりにも目立ち過ぎており、ほぼ使えなくなった【神の目】でも、十分すぎるほど見えていた。


「火炎魔法が右、氷塊魔法が左、正面からお前の拳、だったかな?」

「【金剛殴打】!」


右手を掴まれたまま、みぞおちに蹴りがめり込み、壁に叩きつけられ背中に鈍い痛みが加わる。


既に煙は下に落ちており、すぐに霧散してしまうだろう。


「ふーん、次はトラッパーか。ボーラでも使うのかね」


足元にぶん投げたそれは、俺の狙いとは外れ、影があえて下げた左手に絡みついてしまう。


「ちょっとした筋トレにしかならねぇぞ?」


「End流剣術【US(信じられない速さ)】」

「大した事ねぇよ。十分おせぇ。アバドンの方がよほどはえぇや。」


しかし、それらは躱される前提。

「剣技【アイソンコメット】」


完全に意表を突いた背後からの不意打ちに対して、既に見ていると言わんばかりに気だるげに躱して反撃さえ許してしまう。


「あー、つまんねぇ。ほんとに攻略者か?お前が5位?冗談だろ?その大会とやらの参加者は雑魚ばっかりなのか?くだらねぇにも程がある。なぁ、いい加減辞めちまえよ。この塔も、この世界も全部投げ出して捨てちまえ。何も殺しはしねぇさ。あの女も怒るしな。だからよ、そこのアバズレ奴隷二人連れて隠居でもしたらどうだ?十分5階層まで(チュートリアル)は楽しんだろ?こっから先はお前の手に余るさ。もう少し手応えがあるかと思えば、工夫のねぇ通り一遍の戦闘スタイル。んなもん、すぐに潰れちまうだろうよ。そんだけいい女連れてるんだったらよ、家で自堕落に肉欲に溺れてればいいさ。ここの事は全部忘れろ。4つ攻略したのも十分すげぇさ。だからやめようぜ?これ以上は見てられねぇ。俺はまだ神の力はおろか、魔王配下としての力の10分の1すら使ってねぇぜ?お前やっぱEnd向いてねぇよ。この塔はいずれぶっ壊さなきゃならねぇから、お前の知りたがっている塔の秘密ってのはわかんねぇままだろうが、知らぬ存ぜぬで通せばいい。この国に居づらいと思うなら隣の軍国だとか、共和国に行けばいい。まぁ、一応異世界人って事になるんだろうから、滅国テレシスに住んでもいいしな。まぁ、長々と何が言いてぇかって言うとだな。」


地面に這いつくばったまま、顔のみを上げて惨めな気持ちを咬み殺すことしかできない俺に対して、声高々に無意味だと宣言すると、突然に一泊置いて


「塔から出ていけ」


低い声で静かに怒鳴った。


出ていけだって?ふざけるな、俺が今までどれだけの思いでこの塔に向き合ってきたと思っている。いまさらやめられるはずもない。


「お断りだ。ばーか」

「だよな、じゃ、殺すか」


緊急逃走用に残していた最後の煙玉を地面に転がした。


それを見てため息を着くと、本気で殺す気になったのか、こちらに手を伸ばす。

それを阻むように影との間に再び白いカーテンがかかっていくと、あえて俺はそこから動かない。


「End流……いや、我流」

「今度は何をするつもりだ?亀みてぇなスピードで何が出来る?」


煙の中をひた走り、とっくに見えなくなっていた目をゆっくりと閉ざす。


「フェイク抜刀!!!右は嘘さ。本命は左!」


何も持たない右手を横一文字に振るうが、それに合わせるようにバックステップを踏まれる。


そして、それを読んでいた。それを待っていた。それを願っていた。


抜刀術に対して1歩引くというのは限りなく有効な手であり、むしろそれ以外に無いとも言える。


煙幕を貼ってから近接連撃を繋げようと思えば、必ず一撃目は【一閃】しか有り得ない。それしかゲームのPSコンボは繋げられない。


たとえゲームでなくとも、煙に視界を阻まれた状態で使えるのは、一撃のみで、刀を失ってからでも確実に近距離戦にもちこめるこの攻撃しか有り得ない。

だからこそ、シャドモルスの選択は完璧すぎるほどに正しかった。


あくまで、俺以外には。


俺だけが使える奥の手。嘘つきと謗りを受けようともやめることのない、止まることの無い、たったひとつだけの技。


空っぽの右手を凝視し、驚嘆の声を漏らす。

左手から鞘の走る音が鳴り響き、余裕ぶった笑みを腹から切り裂く。


「なんだ、そりゃ!?」


やっとの思いで与えた致命傷は、ぼやけた腹が赤く染まるほど深く切り込まれており、紛れもなく決定打となった。


「あの女……教え忘れたか?」

「いーや、これは俺しか使えないさ。多分な」


しかし少なくとも、魔王にはない技術であることに間違いはなく、足りないことだらけの俺がこいつや魔王に対しての勝機があるかもしれないという可能性であった。


「【神の目】!」


一瞬の隙に回復した視覚をもう一度酷使する。

眼球の筋肉が悲鳴を上げ始め、全身の血が抜けていくような虚脱感。


刀から【蟻金属半剣(アントラントソード)】に持ち替えて、腹を押さえてうずくまったままの影へと切迫する。


「【兜割り】」

「だから、遅いんだよ。クソが……」


回復しきれてはいないようだが、片手で俺の剣を受け止める。

「だよな、だからソードマンにはチェンジしてねえよ。End流膝蹴術【電気石打】」


一瞬で剣を手放し、いつかの反撃のように顔面への一撃を叩き込む。

今の俺では電気とまでの速さはないが、二度も虚を突かれた攻撃に対して、茫然とした表情で直撃した。


顔を抑えたまま、片手を無造作に振るうがすでに俺は次の攻撃準備を整えていた。


「我流抜刀術フェイク抜刀……」

「あああ!こい、攻略者!もう喰らわねえさ。すんでのところで見切るぐらい簡単だ。スピードもなければ、工夫もない、単調な攻撃。喰らうはずがねぇ」


刀を受け止める気でいるのか両手を前に突き出し、黒い靄が広範囲へと広がる。


短い金属音。


決着は一瞬だった。


俺が間合いにとらえ鞘から走らせると同時に、シャドモルスは一歩前へ抜きんでる。

しかし、すでに読んでいた。


普通に考えればなるべく距離を取って安全に反撃をするところであっても、この男は必ず、踏み込んでくるとわかっていた。


純粋な自尊心(プライド)の問題もあるかもしれないが、一度後ろに引いたことにより致命傷となった攻撃を、もう一度後ろに下がってやり過ごすというのはいささか難しいことだろう。


「残念、()()()()()()。本命は……!!」

「クエイフ・ルートゥ!!!!!」


トン


それはあまりにも静かな音であった。


直前の怒号に対して、というのもあるのだろうが、それを差し引いても、小さく弱い音だった。


「End流掌底術其の二【両肩翡翠(りょうけんひすい)】」


遠く、はるか後方に吹き飛ばされ、壁際へと追いつめ、そしてうなだれたまま動かなくなった。


肩へと加えた衝撃は首を伝わり頭蓋を揺らす。さすがに影で出来た体と言っても頭はあるようで意識を失っていた。

しかし念には念を、ということでレイの糸により捕縛してもらおうとする。




「見つけた。」


それはあまりにもおぞましく、きれいな声であった。

あの凄惨で歪な笑い方からは想像もできない、美しい声。

一国の王女が僻んでしまうほどの、気品のある声。


最悪にして最恐。


魔王の登場だった。


「シャドモルス。お疲れ。なかなか楽しんでいたみたいだけど、ハメをはずしすぎじゃないか?さあ、帰ろうか。って、おいおい、そんなに怯えるなよ、クエイフ。そんなにかわいい顔をされると






殺したくなる。」



動けない。あのへらへら笑う女を前にして、体がみじんも動かない。

感情すらも沸き立つこともない。


四階層への通路に向かって、影を抱えたままゆっくり歩く。


結局、姿が見えなくなりしばらくするまで、俺たち三人は悲鳴すら上げられなかった。



5階層イッツ・ア・スモールワールド攻略完了……To be End

6階層ロックンロールミュージアム攻略開始……To be continued

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