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End  作者: 平光翠
第4.5階層 死教会の幕間
79/200

第79話 太陽陰る日

皆さんどうも、お久しぶりです。

なんか書きたくなったので再開します。


影に沈んだような薄暗い部屋が突然明るくなる。


影のない男が部屋の明かりをつけたのだ。朝刊をちらりと一瞥すると、お手本のような二度見をする。


「あいつら、4階層もクリアしやがったか」


新聞に大きく掲載されている知らせに舌打ちをすると、ゴミ箱に叩きつけようとして踏みとどまる。

言うまでもなく自分以外の3人が文句を言うからだ。


あの3人の手でバラバラに切り抜かれる前に記事に目を通すと、わざわざクエイフ達の写真を表にして机に置いておく。

日課である朝食を作っていると、部屋から目をこすりながら魔王がやってきた。そのまま、流れるよう壁にかかったエプロンを着てシャドモルスの料理を手伝う。


「メニューは?」

「お前のはウィンナーとトースト、アバドンはクリルエッグ、アスモデウスはハニークロワッサン、俺はエンテル麦とウィンナー」


この4人、というより主にアバドンとアスモデウスは食に関しては面倒なのだ。

アバドンは偏食家であり、朝はクリル鳥しか食べたくないと豪語している。事実起きてから約3時間はクリルエッグやクリル鳥の肉しか食べない。

アスモデウスは朝は甘い物、昼は低たんぱくなものしか食べない。それもこれも美容のためなのだ。

そのくせ二人とも料理は嫌いだというので面倒さも極まっている。


それに対し魔王は好き嫌いがなく、シャドモルスは朝は出来ればご飯がいいという程度。

「クロワッサン焼き始めたぞ、終わったらお前のトーストを焼いてくれ」

「ああ、ところでクリルエッグは今日買いに行くのか?」

「いや、ペッパークリルチキンがあるから、明日買いに行く」


真っ黒の布地に大きく魔王と赤い刺繍がなされたエプロンにしわを作りながら魔王が問いかけると、同じく黒い布に影という刺繍の入ったエプロンを身にまとう彼が答える。


お互いを労うためにお揃いで買ったエプロンはほぼ毎日使われており、彼らの苦労が見て取れる。


「次はどうするんだ?4階層じゃ死体の群れに囲まれて手出しができなかったろ、あのくそ博士とイカレ神官も睨みをきかせていたしな」

「5階層も手は出さないつもりだよ、最も今までと違うステージであれば考え直すけどね」


それに対して納得したのか適当に返事をすると、調理道具の片づけついでに雑談をする。

「そういや、新聞読んだか?」

「ああ、見たよ、クエイフの写真だろ。あとで切るからハサミも出しておいてくれ」

「いや、そっちじゃなくて裏面の番組表。今日あいつら会見を開くらしいぞ」

「は!?何の会見だ?何時から?ちょ、テレビ…」


急いでキッチンから出ると、そくざに魔導テレビをつけて彼の雄姿を確認しようとする。

急ぎ足の彼女をしり目に、苦笑いを浮かべながら後ろから声をかける。


「アイツらが出るのは昼頃だ。こまかい意図や理由まではわからんが4階層を攻略したかららしいぞ」


少し残念そうな顔をしながらキッチンに戻り、中途半端な洗い物の続きをする。


「ふうむ、何となくだがこのタイミングでクエイフ達が会見なんてものを開いたのかは概ね予想がつく」


少し思案顔の魔王に対して、片目で意味を尋ねると彼女は話し始める。


「表向きの、一般大衆に向けての意味は純粋に情報公開をして、危険を減らすためだろうな。そのついでかどうかは分からないが、私達への牽制も含めている。あの悪巧みコンビに対してという見方も出来る。それと、恐らく、いや、推理というより妄想に近いが、3人目が動き出している可能性がある。」


「3人目?誰だそいつ」

「ああ、お前は気づかなかったか?私達が遊び半分で四階層に行った日、一階層が妙に綺麗だったんだ」


そう言われ、過去を回想すると確かに不自然な死体の道が出来ていた。

その時は気にも留めず進んで行ったが、確かに思い出してみれば違和感があった。


ゴブリンの体に小さな穴が開けられており、そこから黒い煙が漏れているという、一体どんな武器を使えばあんな傷が出来るのか不思議な有様だったが、そんなくだらないことをいつまでも考えていられるほどEndはぬるくはない。


「あれがどうかしたのか?」

「あれは私の世界の銃の傷跡によく似ている、いや、私自身は見たことがないが、私の『謎の声』がそう推測しているということは、そういうことなんだろう」


あまり興味なさげに相槌を打つと、アバドンが自室から出てくる。

奈落での事務処理的な仕事が忙しい彼は、昨日も夜中まで仕事をしていたのか、眠そうな目をしつつ、ヒトの姿に戻りきれていない格好のまま、だらしなく椅子に座る。


その姿と時計を一瞥した魔王が、アスモデウスの部屋の扉を思いきり蹴飛ばすと、美顔ローラーを片手に彼女もやってくる。


「シャド…。新聞…。魔王…。アイツら?」

「ああ、らしいな。新聞に書いてある通り取材に応じるんだとか。目的はコイツ曰く、俺たちへの牽制とリスクの低下だとよ」

「え?ねぇねぇ、レイちゃん出るの?何時から?」


テメェで新聞を読めと吐き捨てながら、エンテル麦を腹の中に収める。

イラついた顔を隠そうともせずに、さらに乗せられたクロワッサンを、はちみつの入ったボトルに沈みこませる。


つやつやと気味悪く輝き始めたところでパンをちぎり、蠱惑的に長い舌にのせると塩酸に触れたかのように溶け始めた。


その向かい側では、アバドンが握りこぶしほどのクリルエッグを炒めた塊を一口で平らげ、いち早く自室に戻り奈落の仕事を再開する。


「皿ぐらい片付けろ……。はぁ聞いちゃいないな」


丁度よく自分の食べ終えた皿に重ねながら、塊の乗っていた食器を片付ける。


魔王は食が遅く、いつも1番最後に食べ終わるため、半強制的に洗い物をさせられていた。


そのまま各自が思い思いのままに過ごし、バラバラのタイミングで昼食を取る。


しかし、料理が出来ない2人の代わりに作らされるシャドモルスはずっとキッチンにいるままであった。


会見が始まり、3人がテレビにかじりついているのを確認すると、興味のない彼はEndへと赴いた。



〈End3階層【ネザートロワーム】〉


自分がどこにいるのか分からないほどの暗闇の中、何かを探すように、その影は歩いていた。


向かい側にいた冒険者の一団をみると、女性だけで構成されたパーティのようで、上等な鎧を身につけた戦士のような2人組と、その後ろから小さな歩幅で魔法使い風の少女が歩いてくる。


「とりあえず、あれで間に合わせるか…。ホントは体重の多い男の方が都合が良かったが」


3人いれば同じだろうと思い直し、真っ暗な地面に沈み込む。


「やっぱり、4階層は私の剣を新調してからでいいと思うのよ。焦るとろくなことがないしね」

「でも、そこまで待つならルルが対魔魔法を覚えるの待っててくれてもいいじゃん…」

「ええー、あんた2週間前に剣へし折ったばっかりでしょ?それにルルちゃんが魔法覚えても使いこなせるようになるまで、どのくらいかかるの?」


4階層に行く算段をつけている彼女たちの前に、オークが立ちはだかる。

それぞれが武器を構える音に合わせるかのように、ビキリと壁が割れては爆弾とコウモリが生まれてはいやらしい笑い声が響いた。


シャドモルスは、影の中で都合がいいとほくそ笑む。

コイツらが負ければ死体を奪え去ればいいし、もし勝ったとしても、それなりの消耗があれば攫うことは容易い。


長い剣がオークの皮膚を貫き、風の魔法が傷口に付与(エンチャント)されて肉を削ぎ落とす。


さらに双剣使いの少女がボムマンの導火線を切り刻み、フライバットの飛行を妨げる。

攻略者(クエイフ達)が教える手順を守りながら、安定した戦闘をこなし、それでいて自分という非常事態(イレギュラー)に対応出来る余裕を残している彼女たちに影ながら舌打ちをする。


「始末するなら魔法使いからか?いや、付与魔法(エンチャント)は使えるみたいだが、支援(バフ)回復(ヒール)が使えるかどうかだな…」


彼女たちの影の中で呟くと、手だけを表に出して地面に亀裂を入れる。


その痛みに反応するかのように影は増えていき、次第に形状が変化して別個体の異形の生物と成り果てた。


突如背後に現れたマルシェオンブルに対し3人は驚くが、中でも双剣使いはいち早く反応した。


魔法使いの腕を掴み、後ろへと引き寄せながら自身は前へと発走する。


引き抜いたままの武器を影の爪へと打ち付け、攻撃と防御を同時に行う。すぐさま、長剣による援護が飛び、相手の射程から外れながら杖を構える少女の元へ戻る。


「危なかった!何の予兆もなく現れるなんて…」

「ルルは何も出来ない…。どうしよ……」


どうやら光魔法の適性はないらしく影に対する有効な魔法を打てないことを嘆いていた。

「ルル、あんた自分のこと守れる?」

「多分?」

「なら、上出来!」


自身に防御魔法をかけさせると、前方で戦う少女を援護するために双剣を構えながら走り出す。

念の為にと後ろから飛ばされた攻撃力上昇の魔法は、彼女の筋肉に圧力をかけ、剣を持つ力を強めた。


「カーシャ、どいて!」


後ろから名前を呼ばれた長剣使いの少女は、爪の攻撃を抑えている剣を下げて、斜め前方へと転がっていく。

さらにその後ろから、二振りの剣が爪を弾いて魔石へと命中する。


弾けた影の残骸が暗い地下の壁に叩きつけられ、それを押し返すように新たな影が生まれ落ちる。


歩く影が汚い産声をあげると、まるで街中で偶然学校の友人に会ったかのような顔をして小さなゴブリンが4体と2体のオークが現れる。


そして、ルルの防御魔法を破り捨てる轟音が響き、それがボムマンによるものだと気づいた時には、既に異形の馬鹿騒ぎ(モンスターパーティ)は始まっていた。


鍾乳石からたれた雫が爆弾へと変わっていき、即座に爆発する様はまるで祝福の花火のようでもあり、純粋な地獄の訪れであった。


「ここまでは想定外だが好都合。死体を食われる前に回収しなきゃならなくなったのは面倒だが、3階層程度なら直ぐに片付くだろう。」


影の予想ではこの量のモンスターを相手に、彼女達は対応しきれずに死ぬだろうと予測する。

もしこの場に、魔王がいたとしても同じ判断を下すだろう。


しかし、人の醜さは時として異形の想定を超えていく。


とある神官が、文字通り命を賭してまで否定した生への執着は、3人を突き動かす、いい発火剤になってしまったのだ。


奇妙なほど冷静に、驚くほど的確に、殺すべき相手を、優先すべき順位を、見間違うことなく即座に殺し回る。


後ろで杖を構えながら戦況を見守る少女は、傷ついた体を癒し、疲れ果てた体を震わせる。


剣を振り払い、爪を防ぎ、導火線を切って、獣の肉を抉っていき、影を霧散させる。


塔が彼女たちを殺しに掛かろうとも、3人の勇気はそれを許さない。

それでも、たとえ許されざることであっても影の思惑は絶対的であった。


永遠に増え続ける怪物たちを、やっとの事で退けようとも、彼は現れる。


勇者よりも先に塔を攻略し、その頂きで偉そうに彼等彼女等の到着を待つ、不遜の魔王は、その配下は


地獄の果てに現れる。


まさに、一瞬。



魔法使いの影が分離していき、彼女の後ろにソイツが佇んだ瞬間、振り向く間もなく小さな首は吹っ飛んでいく。


サッカーボールのように転がる頭に気を取られ、勝者の笑みを凍らせると、鎧の上からもわかる膨らみの中央に赤黒い穴が開き、つい先程まで動いていた心臓が影の腕の中に吸い込まれていく。


激情に駆られ、叫びながら双剣を構え直すも、2本の影槍が両腕を吹き飛ばし、剣ごと飲み込んでいく。


「これだけ手に入れば新しい魔物で、色々ぶっ壊せそうだな。ハハハハハ、温い仕事だぜ。あいつらのお守りに比べりゃな」


意地汚く笑いながら、魔法使いの頭、戦士の心臓、双剣士の両腕を、影の中にしまい込むと、()()()を別な袋に入れて影の中に放り込む。


「はてさて、コイツらは何を壊してくれるかな……?」


……To be continued

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