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End  作者: 平光翠
第4.5階層 死教会の幕間
78/200

第78話 天才との出会い

俺たち三人は、国営放送局のスタジオに呼ばれていた。

なんでも4階層を攻略したので本格的に取材に応じて欲しいとの事だった。


階層を攻略する度に呼ばれてはいたのだが、1階層の攻略時は視聴者からの反対が多く企画が無くなり、2階層はトドメを差したカークスとキュレーがどうしても嫌だと言うので断り、3階層はテンキクズシ達のことがあった為断っていた。


しかし、周りの声や同業者への呼び掛けのことを考えると、出演しておいた方が何かと得だろうと思い、会見を開くことになった。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします。企画立案をしたレボルです」

「今回司会進行を担当させていただきます、現場担当部のママネです」


ママネといえば、魔導テレビでよく見かけるリポーターであり、女性ではあるが様々な極所に突撃取材をしていることで有名だ。


「では、早速あちらの方で取材を始めさせて頂きます」


案内された椅子に座ると、既にカメラが回っているのか独特の駆動音が鳴る。

イヴとレイは精一杯のオシャレをしてきたらしく、かなり可愛らしい格好ではあるが、その表情はガチガチに緊張していた。


「では、改めてお名前の方お願いします」

「はい。パーティーリーダーを務めています、クエイフ·ルートゥです。背の高い方が後方支援及び魔法攻撃担当イヴ。赤い髪の方が斥候遊撃担当のレイです」


彼女たちは緊張のあまり、俺が言ったことを全く聞いていないようで、下を俯いたまま黙っている。


「今回、4階層を攻略したということですが、その特徴などを教えてください。」

「はい、今から言う内容は国で出している書籍に載せられていますので、そちらを参照していただいても構いません。特徴としては、敵の多さですね、ゴブリンたちとは違って全く違うモンスターが複数体で襲ってくるので、対策が難しいです。それと、ゴーストの攻撃は絶対に喰らわないでください。精神が破壊されます。」


「精神が破壊されるというのは具体的にどういうことでしょう?」


さすがプロ。俺が話したいことを掴んで質問を重ねてくる。


「最初に嫌な思い出が蘇ります。ただ思い出させる程度ではなく、追体験することになります。次に感じたことの無い恐怖、そして自分が1番起きて欲しくない事態の空想、最後にはゾンビに食われるか、植物に寄生されるか、スケルトンにバラバラにされていることでしょう。」


その悲惨な事態を想像したのか、ママネが唾を飲み込む。


「では、その対策は?」

「まずは銀の武器です、最低でも1%は含んでいて欲しいですね。そして、液体銀も有効です。聖水も使えなくはないですが、戦いに使うものではありませんし、あまり持たない方がいいかと、魔法はだいたい全て有効です。」


「他に危険な相手は?」

「プラントガールです。男性の皆さんは気をつけてください。彼女達の寄生対象は男性のみです。必要がなければ口を開けないことを徹底してもらえれば、避けられなくはないです。」


「では、次にイヴさんにお話し伺いたいと思います。どういった魔法を重点的に使いましたか?」

「わ、私が使ったのは早さを重視した魔法を使いました。特に風魔法は杖との相性がいいので、よく使っていました。」


「レイさんはどういったことを意識していましたか?」

「え、えと、一撃必殺が通じないので、ジョブに関係なく近接戦を強いられると思います。自分のジョブが制限されても対応できるようにしていました」


ほどなくして取材が終わると謝礼を受け取り放送局を出る。


帰る道すがらレストランで昼食を済ませて家に戻ろうとすると、ジーニアス商会の前を通りがかり、偶然居合わせた設立者ジース・ニアディジーに呼び止められる。


「ハロー、攻略者ことクエイフ・ルートゥ」

「何か用か、ジースさん?」


染めたことがわかる茶髪に偉そうにこちらを見据える目、横に控えているメイド服の女性に絶対の信頼を寄せているのか、周りに護衛らしき人物は見当たらない。


「うちの商品はお気に召したかい?」

「ああ、いい()()だ」


俺が着ている服を指さし、何もかもを見透かしたかのような笑みを浮かべる。

Endの公式大会でも冷静かつすべてを計算しきったプレイングである程度の順位を獲得している男は、一体何の目的があって俺に近づいてきたのだろうか。


「さて、腹の探り合いも面倒だ、簡単に言おう。僕が君たちに接触したのは敵になりうるかどうかだ。誰が塔の頂上にたどり着くかなんてどうでもいいんだ。情報さえ手に入ればね」

「なるほど、Endを攻略し終えてこの塔の秘密を聞くときに同席させてくれって話か?」


ニヤリと笑うと握手を求めてくる。それに返すと取引が成立したのか、手の中に何かが仕込まれた。


「なんだこれ?」

「拳銃だ」


黒く無骨なデザインのそれはドラマの中でしか見たことのないようなフォルムで、本物かどうかがわからない。

驚きのあまり落としてしまうが、それよりも早くメイド服の女性が拾い上げる。


「坊ちゃまの作品を落とさないでください」


拾ったそれを手渡されしっかり握っておくように言われる。


「中の弾丸は一発限り、単純な威力でいえば核爆弾ぐらいはある。扱い方を間違えるなよ?」


それは、自分の技術力を誇る発言でもあり、もし万が一E()n()d()()()()()()際には彼が塔を破壊することもありうるという発言でもあった。


「僕はね、退屈だったんだよ。向こうの理論はほとんど解き明かしてしまったからね、どれもこれもつまらない。だが、この世界はわからないことが多すぎる、楽しいことばかりだ。天才の予想もつかない事ばかりで、そんな世界を旅するのはたまらなく楽しい。もし誰かがEndを攻略してしまっても十分楽しめる。君はどうするんだ?」


塔の中ではありとあらゆる可能性を考えている俺に、考えもつかないような仮定を持ち出す。


攻略しきったら…。

Endを終わらせたら俺はどうするのだろうか…。


知らない男の発言におびえる二人の少女のことを思いながら答えの出ないことを考える。

きっと、俺はその時までに決断を済ませているのだろうか。


「ところで…娘は元気でしょうか?」


突然後ろから現れた七三分けの男が、笑顔を張り付けたまま現れた。

「田中…!?なんだ急に?」

〔お父さん…!?〕


急に謎の声が反応し驚いた声を上げる。さらにその声と発言内容に俺が驚く。


「お父さんとかいるんだ!?」

〔ええ、私にこの仕事を教えてくれた方です。声だけの存在なので血縁関係はないのですが、いろいろと面倒を見てもらいました。〕


その後、田中と呼ばれた男と謎の声が話し始めたこときっかけに、一つ思い出したことを話しておく。


「魔王の正体、わかったか?」

「いいや、会ってすらいないからわからないな」


特徴的な笑い方と俺に対するいびつな感情の話をするが、やはり心当たりはないようで首をかしげる。


「トップ10の中に入っていない奴か?いや、それだとクエイフ・ルートゥを知る機会がないか…」

「ああ、それと家でカークスとキュレーが住んでるぞ。遊びに来いよ」

「何!あの二人がか!相変わらずラブラブなのか?」

「そりゃもう驚くぐらいにな」


俺たちがゲームの話をしている最中、イヴとレイそして給仕服のメイという女性も何やら話し込んでいる。


余り店の前で長話をするのも良くないかと思ったので途中でお開きにして、連絡先を交換する。


二人と別れて家に戻ると、手をつないだカークスたちもちょうど帰ってきたところだった。

さきほど、ジースに二人の話をしていたので少し苦笑いをしながら五人で家に入る。


さて、明日は五階層の準備を整えようか…


……To be continued

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