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End  作者: 平光翠
第四階層 死教会
75/200

第75話 ボスバトル前日

戦闘のイメージを整え、架空の敵と戦い続ける。


謎の声の思考映像を空中に投影させ、見えない誰かに様々な攻撃を仕掛け自分の体の動きを必死に覚える。


少しでも何かをつかめれば塔へと潜り実践してみる。それを繰り返すこと二日間。


「クエイフ様、明日の二時から地区内会の集まりがあるんですが、どうします?」

「なにそれ?」


塔からほど近く町からは少し外れている俺たちの家も、きちんと住居登録がされており回覧板などが回ってくる。月に一度集会が開かれており、今までは俺が休みといっておいた日になっていたのでイヴが行っていたのだが、今回はアイテムの補充のための休日なので買い物に行く予定があったのだ。


「あー明後日には4階層のボスと戦うつもりだったが…。前日にそんなことをしてる暇はない。と言いたい所だが、欠席すると次の集会が気まずいか」


当然生きて帰ってくるつもりでいるので、来月の集会のことを考える。


「集会って時間かかる?」

「いえ、明日は定期報告だけらしいのですぐ終わると思います。」

「じゃあ行く前にどっかで飯食ってヘーパイストスに武器の点検を頼んで、集会に出てからアイテム補充と日用品を買って…。あといかなきゃならないところあるか?」


彼女がないと思いますと首を振ったの見て、謎の声へのメモを中断する。

自動的にルートを組んでもらいながら、明日のシュミレーションを開始させて時間的矛盾がないことを確認する。


「ちょうどいい感じか…」


夕食の時にレイにも予定を伝えると、彼女は気が向いた時は集会について行っていたらしい。

知らないのは俺だけだったのか…


次の日になり、朝食を食べていると謎の声のアラームが鳴り響く。

「あ、集会」

「え?はい、2時からですね」


謎の声のアラームが聞こえないイヴが、俺のつぶやきを不審がりながら皿を片付けていた。


午前中を適当に過ごしながらこの前買った服にそでを通す。


カークスとキュレーは二人でどこかに行ってくると言っていたのですでに家にいない。

家に鍵をかけながらふと振り返るとロングスカートにピンクの服を着たイヴと、足のラインがくっきり出るズボンにシンプルで真っ黒の服に透けた名前のわからない服を羽織ったレイがいた。


「さっきは気にしなかったけど、外で見るとかわいいな」

「…これカーディガンね。知らないと恥ずかしいから、名前のわからないやつとか言わないで」


はい、ごまかすために褒めてもしっかり怒られました。


家族向けレストランで昼食を食べ終えヘーパイストスに武器を預けてから、集会所に向かうと地区のお偉いさんなのか初老の女性がこちらに笑みを向けてくる。

「こんにちわ、今日はご家族も一緒なの?」

「ええ、偶然休みが重なりまして」


いつもイヴが座っている場所に並んで座り、きっかり2時から報告会が始まった。

ごみの分別がどうだとか不審者情報がどうだとかという話も終わり、15分ほどでお開きになるがお母さま方の雑談が続き、イヴも楽しそうにそちらに混ざっている。


隣の部屋に耳を澄ませると子供の笑い声が響いており、子供連れで来た人たちが多いらしい。

「そういえば、クエイフさんって攻略者の方でしたよね?」

「え?あーはい。End1階層から3階層を攻略しました」


適当に返事をしながら謎の声に時間を聞いてみる。別段急ぎの用事があるわけではないし、イヴの楽しそうな顔を見てみれば邪魔するのは忍びない。


「レイ、いつもこんな感じか?」

「…さあ、寝てるか隣の部屋で子供の面倒見てるからわかんない」


背の小さい彼女が子供の面倒を見ているとは笑えるな、と考えていると思いきり足を踏まれる。

何とか声を出さずに済んだが、目のふちに涙がたまった。


バタバタという足音が聞こえ、突然扉が開け放たれる。

「ママ、まーだ?あ!レイいるじゃん!!遊ぼうぜー」


隣の部屋から来た子供はこの国では珍しくない茶髪の少年で、偉そうにレイの名を呼ぶ。

それに合わせたかのようにぞろぞろと子供が入ってきては机の上のお菓子に手を伸ばし、欠片をこぼしながら貪っている。


この部屋唯一の男の存在に気づき、みんなが一斉に黙るが俺の顔に見覚えがあるのかまた騒ぎ始めた。

「こーりゃくしゃだ!!」「ほんものー?」「けんみせてー」「魔石持ってないのー」「ひところしたことあるー?」「えい、必殺パンチ」「すげえ髪真っ黒だー」


親御さんの話の邪魔をしないようにお菓子の入った籠とレイを連れて、隣の部屋へと向かう。

口では「面倒見てもらってすみません」と言っているが子供から解放されてうれしそうだ。


「よーし、お前ら向こうの部屋に行こうなー。ばかズボン引っ張るなよ。剣は持ってきてないよ。ああ、本物だ、はいはいサインは後でね。いらねえじゃねえよ受け取れや」


後ろにいるレイに声をかけようとすると、最初に入ってきた少年と手をつないで話を聞いていた。

「なんだよ、レイになんか用か?」

「…いや、なんでもない」


少年に下からにらまれつつ、全員を部屋に入れて思い思いの遊びの邪魔をしないように部屋の壁によりかかる。こうしてみると140cmほどの彼女は、周りの子供たちと変わらないような気がして……。アイツはいつまでレイの手を握ってるんだよ。


「この間な、ご飯の時キャロットを食べられるようになったんだ!」

「…へえすごいね」

「うん、あとな今度父さんと一緒に国営マードレパークに行くんだぜ。お土産買ってきてやるよ。何がいい?」

「…なんでもいいよ。ああ、あそこのお土産って言ったらクッキーとか?」


なんだかイライラさせられるが、子供相手に嫉妬することもないだろう。

女児のおままごとに付き合ってやりながら、ちらちらとレイたちの様子を見てみる。


「なあ、レイはどんな奴が好き?」

「…イヴ姉とクエイフ」

「クエイフってあそこにいる攻略者?そうなのか…」


残念だったなと心の中でどや顔をしながら3股をしているクズ男の役を演じる。

……最近の子はこんなすさんだおままごとするの?


報告会という名の井戸端会議も終わったようで子供と一緒にママさんたちが帰っていく。

おそらく今夜はお父様方には俺が集会に来ていたぞと圧力をかけられることだろうから、ここで謝っておこう。


「なあ、レイ。俺が大きくなったらクエイフよりも強くなるから結婚してくれ!」

「……ごめんね、いくら君が強くなってもクエイフには勝てないと思うから、違う人を探したほうがいいよ。」


去り際に世紀の大告白をするが、彼女は速攻で断ってしまった。

「…クエイフ、見すぎだから。そんな心配しなくてもクエイフ以外になびかないよ。」


そんな心配してねーよ、子供相手に嫉妬するわけねーだろ、あの子は俺よりいい男になったんじゃないか

いろいろな答えを思い浮かべるが、そのどれもこれもを飲み込み。

「そうか」と短くつぶやく。


うちのお姫様方は色恋沙汰に困らないらしい。


雑貨店で魔法瓶と砥石を選びながら棚をみていると、隣にいたレイから手を差し伸べられる。


一瞬、なんのつもりかと彼女の顔を覗き込むが、そっぽを向いており仄かに耳が赤いことから何となく察して、その柔らかい手を握る。


しかし彼女は満足しなかったようで、ただ手を重ねただけの行為から、恋人繋ぎへと変化させてしっかりと握りしめる。


結局、家に着くまで離してくれず周りの人々にチラ見されたりイヴの怖い笑顔を浴び続けたが、まぁレイの手の感触はしばらく忘れなさそうだ。


……To be continued?





〈End4階層【死教会·○○○○の○○○○】〉

そこは4階層の最終地点、ボス部屋でありながらも神官が儀式を執り行う場でもあった。


一心不乱に祈りを捧げ、白杖に付けられた鈴が気味の悪い音を立てている。

後ろから近づく白衣の男に気づくことなく、己の信じる女神の名前を呼び続けていると、その魔力に呼応しているのか周りの壁が更に眩さを増した。


アザピースが床に魔方陣を描き始め、紺色の低級悪魔(ガーゴイル)の羽、魔力を得た死体の眼球、藍色のプルプルとした液体、群れることを辞めた獣の爪、そしてイヴの魔力を一時的に封じたあの時の首輪を要所要所に置いていく。


儀式の邪魔をされていても気づかない彼はその首筋に注射針を打ち込まれるが、女神との交信の方が大切なのか何の反応も見せない。


神官の儀式が終わりを迎えた辺りでアザピースの目的も達したのか、様々な場所に置いてあるものを片付け注射針を隠す。


「む…。またお前か?ここ1週間毎日のように邪魔をしに来ているな。何か用事か?」

「いや、あの女の復活の様子はどの程度か見に来ただけさ。その調子だともう少し、()()()()()()()()()んじゃないか?」


書いた覚えのない魔方陣を女神の奇跡と信じて疑わない愚鈍さがアザピースを救うが、もちろん彼はそれも織り込み済みであり、もしなにか疑われてもその女の名前を出す予定であった。


「ああ、()()()()()()様。もう少しでございます。正しい命は、あと数日で……」


神官が恍惚の表情を浮かべると、陰でアザピースも嫌な笑みを浮かべる。『アヴ·ホース』の名を呟きながら……


……To be continued





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