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End  作者: 平光翠
第四階層 死教会
72/200

第72話 Lv2ガーゴイル

沈んだ気持ちのまま、探索を続ける。


もう少しで、あの教祖へと辿り着くはずなんだ。自分に言い聞かせながら腰を上げて足を踏み出す。

「はっきり言って奴の目的が全く分からない。今までのシリーズには片鱗すらもなかった」

「…てことはクエイフも完全初見?」

「ああ、不謹慎だがワクワクしてるのも事実。ゲーマーの血が騒いでしょうがない。ぞくぞくする」


いままでのぬるま湯のようなEndを脱してハードで鬼畜なゲームが待っている。そうではなくてはEndじゃない。まるで物語のように都合のいい強さの敵ばかりで、退屈を感じていたのも事実。


「さあ、終わりを告げるために上にいこうぜ」




〈End2階層【研究室中央廊下】〉

「わるいな、助かったぞアザピース」

「いいや、かまわないよ。だが、あの野郎お前が転移する瞬間にぶっ壊しやがった。俺は生物学をメインとしているからだからこれの修理は時間がかかりそうだ」


破壊された簡易転移装置を点検しながらうなり声をあげる。外に出ているいくつかの線が切られており機体にも無数の傷がつけられていることから、どう考えても壊れているのがわかる。辛うじて教祖を転移させることは成功したようだが、運が悪ければ失敗していただろう。


「そうだ、ちょうどいいからモルモットになってくれないか?」

「は、なにを言い出す?」


意地の悪い笑みを浮かべるながらアザピースは一つのドアを開けると、中には足を含めて全身にたくましい筋肉の付いたガーゴイルが立っていた。

「どういうことだ、アザピース!」

「べつに、造ったモンスターの強さが知りたいだけさ。せいぜい死ぬなよ?」



転移装置が壊れていたというのは全くのウソ、いや教祖の持つ子機のみが壊されただけであり、当然予備を持っているが、それはあえてを渡さずにいた。理由はもちろんこの実験のためである。


「貴様、嵌めやがったな!!」

さらに強力に打ち直されたサーベルを振り下ろすと間一髪白杖で防ぐが、通常のガーゴイルより目に見えて増強された腕の筋肉によって押され気味になる。いくら彼が武術に特化しているといえど、本職は神官。圧倒的な腕力に対して、それを返すような余力は一つとしてない。


2階層に残る死者の感情はかすかであり、彼の魔法を手助けするような聖域の空間も存在しない。つまり、死者を呼び出すことも、それらを使役することも、満足に魔法を使うことも難しい。


「狂える少女の祈り、呼び覚まされよ【焦がれる少女の霊(クリムゾン)】」


羽を焼き焦がす火炎魔法も、あまり効果がないようで一瞬火が付いた程度でおわってしまう。

むしろ、魔法を使うための一瞬を利用され横腹に鋭く痛恨の蹴りが入れられる。


だが、それを食らっていたら、死の教祖は名乗れない。


またも白杖でガードし、回転させ肩へと突進させる。

サーベルで防がれながらも、杖の先端に集まった魔力が爆発した。


「どうだ、これが()()()()()()というものだ」


怯んだ悪魔の喉元に突きを繰り出し、相手が下がった瞬間に畳みかけるように横薙ぎにふるう。


骨のきしんだ音が鳴り響くが、その眼はまだ生きている。


唯一、彼の苦手とする闇魔法を放たれ即座にかわすも避けた先にサーベルが向けられる。

杖で弾き飛ばし武器を失わせるも、すぐさま返してきた筋肉依存の攻撃は修道服を通して重い一撃が与えられる。


ガーゴイルが一瞬羽を広げると、首を絞められながら壁際へと追い詰められた。


思わず漏らした悲鳴に悪魔的な笑みを浮かべるが、神官にとってはそれすらもブラフ。


「低級悪魔が神官に勝てるとでも?おもいあがるな、三下が」


顔面に白杖の一撃をくらい、苛立ったようにガーゴイルは叫ぶ。


だが、そんな意味のない行動に対して、極めて冷静に顎への一撃をくだす。


心臓に突き出された杖から光の魔法を三連続で食らわせ、軽い跳躍をしてからこめかみに回し蹴りを与え脳を震わせると、掌底の構えを取ってガーゴイルの魔石を震わせる。


()()()()()()武術、【翡翠掌底(間伐というエゴ)】」


この世のすべてはエゴで出来ているという間違った真理を説きながら、その暗い藍色の体を吹き飛ばす。


魔石の魔力が失うことがトリガーなのか、死体が地面に触れた瞬間に転移して消え去る。

「アイツ、今度は何を企んでいるんだ?」

ただ一人神官だけが2階層に取り残されていた。




〈End4階層【死教会】〉

ゴブリンゾンビの目に黒い刃を突き立てながら、先ほどまでのことを思い出す。

英雄だとか人類の希望と呼ばれていても、だれ一人救えたためしがない。

テンキクズシも、あの青年と少女も、カークスとキュレーだって救えたとはいいがたい。

いつかこの二人も、救えずに終わる日が来るのかもしれない。


誰も救えない、助けられない俺が、英雄?笑わせるな。


勇者の資格も持ち合わせていないような俺が、どうして希望と呼ばれるのか。


「クエイフ、しっかりして!」


間近に迫ったゴーストが俺の精神を支配し、仄暗い感情を増幅させる。服の上に貼り付けていた札が身代わりになったかのように真っ黒の煤となり、ぎりぎりで耐えたが多少乗っ取られそうになる。


「あぶねぇ、持ってかれるとこだった。」


幸いにも、全てを支配される前に取り返したため精神以外に目立ったダメージはない。


白いモヤから逃げて、振り向きざまに液体銀の入った瓶を投げつける。


辺りに飛び散った液体は、俺に衰弱の言葉を吐かせ続けていたゴーストを蒸発させ、感情をかき消していった。


天井から伸ばされたプラントガールの蔓に腕を取られるが、腕力で引き寄せ落ちてきたところに蹴りを入れて魔石を砕く。


ゾンビの下顎を肘鉄で震わせたところで、弱々しく翼をはためかせる音が身廊に響く。


「ガーゴイルか…?いや、だが…」


成人男性よりも一回りはでかい体を浮かせようとすれば、黒い翼は広がり大きくなる。それで風を掴めば空を切る音はもっと大きくなるはずだ。

実際に見た中で1番小さくても俺の目線、だいたい165cm以上あるように見えた。それでも羽の大きさは随分なもので魔力を使って飛んでいる以上そう小さな音になるとは思えない。


「…虚技【拡張視野】」


レイの指先から細い糸が伸びており、その先端に眼球が取り付けられている。彼女が片眼を閉ざすとチートで作られている偽の視神経に光が加わり、正常な目としての働きを見せる


「…ガーゴイルで間違いない、けど飛んでない?」

彼女が言うには超低空飛行で、ほとんど足が地面に着いたままの状態で走りながらこちらに近づいているらしい。その分足の筋肉は遠くで見てもわかるほどに膨れ上がっているとのことだ。


「プラントにそこまでの強化能力があったか?いや、あいつらはあくまでリミッターの解除をするだけ、ならば強化されるのは飛行能力と魔法能力、そして剣術だろうな。つまり…」


〔あなたは、その不審なガーゴイルをLv2だと判断し、転移の準備をする。〕


確かに、逃げておきたいのはやまやまだ。そんな不穏なモンスターなんて情報が出揃ってから戦ったほうがいいに決まっている。今までの俺ならばそうしていただろう。


「イヴ、レイ、迎撃の準備を。俺たちはただの探索者じゃねえ。ここで逃げに回るのは、勇者の器じゃないだろ。」


二人の返事を聞いて、急いで作戦を組み立てる。正直勝てる算段は全く整っていない。


完全に飛行を諦めたのか大理石で整えられた床を大きな音を立てながらこちらに向かってくる。


このLv2がアザピースによるものなのか、はたまた魔王の差し金なのかはわからないが、どちらにせよ敵のターゲットは俺たちに他ならないようで、まっすぐな身廊を直進し続けていた。


「来たぞ!」

「見えました!【フル・フラッシュ】」


眼前に放たれた光球が破裂し、網膜を焼き尽くすような光がガーゴイルの目を襲う。


「全く、お前はイレギュラーばっかりだな!!」


思い返してみれば、こいつと初めて戦ったのは二階層だった。


何かと縁のあるモンスターだが、前のイレギュラーよりも強さが段違いだ。


目が眩んでいるであろうそいつに真っ黒の刀を袈裟斬りに振り下ろすが、殺気を感じとられたのか寸前で躱されてしまう。


すかさずレイが背後に回ろうとするが、見えないはずの糸を断ち切られ仕方なく方向転換をする。


「さすが強化種、一筋縄じゃいかなそうだ。レイ、いけそうか?」

「全然ダメ、少し細い糸を伸ばしたけど、自分が動く瞬間に合せてバレないように切られてる。多分風とかを利用してる。もっと細くはできるけど、そこまでいったら私を支えきれないし、助力がないからパワー不足で殺しきれない。」


レイは隙を見せないかと機を伺いながら周りを動き回るが、ガーゴイルは俺に目を合わせたまま彼女を死角に入れさせない。


蟻影刀に使われている影金属(オンブライト)の特性は形状変化、あと2m近づくことができれば刀を抜く瞬間に長さを変えて間合いに入れることは出来るが、一歩踏み出すだけで闇魔法による牽制が来る。


「レイ、少し攻めよう。このままこうしてると不利になるのは俺たちだ。」


ただでさえこいつに手を焼いているというのに他のモンスターの乱入なんてもってのほかだ。


一気に三歩詰め寄り、相手が魔法を使おうと手を伸ばした瞬間イヴからのカウンターが入る。


サーベルによりカウンター魔法が打ち消されてしまうが、その刹那に死神は切迫する。


確実にうなじをとらえた必殺の一撃だが、奴は即座に反応し体を回しながら背後に蹴りを入れる。


その小さな体に筋骨隆々の足がめり込んでいき、肋骨の折れる音と内臓のはじける音が響く。


だが、俺とイヴは彼女の口がかすかに動いていたのを見逃さなかった。


「…虚技【偽音(ぎおん)】」


声は出さずに発したその言葉は、俺たちに向けられた言葉であり最大の隙を生み出すきっかけとなった。


「イヴ!!レイを連れて逃げろ!!」


わざとらしく慌てたような俺の怒号に、すぐに察しがついたのか彼女も慌てた様子でレイを受け止め逃げ去ろうとする。


「End流抜刀術…」


ガーゴイルが二人を逃がさまいと気を取られた一瞬、その隙は俺が走り出し十分に近づいてから刀を振るのにはおつりがくるほど十分だった。


柄に右手を構え腰を落とす。相手は慌ててバックステップを踏むが時すでに遅し。


不自然に空いた一歩を埋めるように左足を前に出す。


前に使った時からひそかに練習を再開していた超絶技法。


「フェイク抜刀!」


だが、次の瞬間には俺の左腕が吹き飛んでいた。


悪魔の持つサーベルには滴るほどに俺のと思われる血が垂れており、それらがまだ爛々と赤く輝いているのがあまりに非現実的で、何度目かわからない腕を切られる感触は今までと全く同じで、それが逆に切られたという現実感におぼれさせる。


吹き飛んだ腕が力を失って刀を手放し両方が地面に落ちる瞬間には、レイの糸により俺の体と落としたものが絡めとられ引っ張られる。

彼女たちのもとへ引き寄せられるさなか、ガーゴイルの「剣技が甘い」とでも言いたげな嘲笑が目に留まる。


ああ、まただ。何度も繰り替えす。こうやって救えなくなるんだ。誰かを諦めて失ってしまうんだ。


「【フル・ヒール】少し痛いとは思いますが、我慢してください」


だらだらと流れ続ける左腕の血にイヴの魔力が流し込まれ、切れ端に残留していた血と結合して回復し始める。俺の腕には傷跡が輪描くように残ってしまったが、そのうち回復するだろう。

それに対してイヴにはとぐろを巻いた蛇が全身を駆け巡ったかのようにアザができており、白くきれいな頬にも紫紺の跡が走っている。


「サンキュー。手間かけさせてわりぃ。痛むか?」

「大丈夫です。腕が吹き飛ぶよりはマシですよ。それに、昔は進んで痣を出してましたから」


その黒い跡にやさしく触れながら頬を撫でる。それがあっても失われない肌の滑らかさを楽しみながら、レイの赤い髪に指を通す。


「二人は逃げろ。俺一人でケリをつける。」

「バカ!」


余りにも強すぎるLv2に対して、失いたくない彼女たちを遠ざけようとすると、レイからの鋭い張り手が俺の顔を襲う。


「イヴ姉といいクエイフといい、どうして一人で戦ってる気になってるの?私は、3人で戦ってる。パーティのみんなで戦ってる。だって私ひとりじゃ勝てないもん。殺すための隙を作ってくれないとまともに戦うのですら厳しい。だから、3人いるんでしょ!今までは一人で勝てる奴だった、これからは3人じゃないと戦えない。今までのゲームとは違うの。そこを理解してよ!イヴ姉も、クエイフの言うことを聞いてれば大体うまくいく。でも、進んで死のうとするのは止めていいんだよ!」


「ああ、そうだ。これは31作目だ。現実的過ぎて忘れてた。あまりにも楽しすぎたんで忘れちまってた。これはEndっていう最高のゲームなんだ!つーわけで、派手に行こうぜレイ!」


「くれぐれも死なないでくださいね、クエイフ様!」


遠くから飛ばされる魔法をイヴが打ち消し、3人で突っ込んでいく。


続けて展開されるドス黒い魔力の塊を糸によって逸らし真っ白に塗られた壁へと直撃する。


「イヴ、次の魔法にカウンター、レイは俺の後ろについてろ。」


着実に距離を詰めていくと最後に苦し紛れの魔法が放たれる。その時を待っていたと言わんばかりの眩い光魔法がイヴの手から離れていく。


「【対抗する(カウンター)完全光球(フル·フラッシュ)】!!」


相反する2つの魔力がぶつかり合いガーゴイルと俺たちのあいだで爆発が起きる。それに合わせてイヴの纏っていた魔力が大理石の床へと滑っていき煙が吹きでる。


煙の中を突っ走り、不思議そうにサーベルを構えるそいつのもとへ向かうと、またも右手を柄に添える。


「End流…いや、我流抜刀術」


他の誰にも負けない。嘘をつくという簡単な行動。

本物の刀なんて持ったことがない。棒切れやプラスチックの玩具でしか練習したことがない。覚悟も理由も必要もない技術を、ただ嘘をつくためだけに磨いてきた。


「紛い物で結構、偽物上等じゃねぇか。フェイク抜刀!!!」


右手を前に突き出しサーベルを押え付ける。寸前で放たれた真っ黒な魔法を()()()()()()()()


「レイ、引き抜けぇぇ!!!」

「正面からお命頂戴失礼します【紛い物の死神(クエイフリーパー)】」


左から赤髪の少女が走り抜ける。

俺の刀を鞘から引き抜き、雑な構えのまま虚をつかれたような顔をしているガーゴイルの喉元へと突き刺す。


「私も死神の気分を味わってみたいです【エクスフラッシュ】」


いつの間にか背中に回っていたイヴがガーゴイルの魔石へと手を伸ばし悪魔に対する最高の攻撃、退魔魔法をかける。


ボロボロと体が崩れていき筋肉が目に見えてしぼんでいく。

藍色の肌は灰色へと変化していき、木っ端微塵に割られた石のようだ。


『悪いね、まだ実験途中なんで壊されると不味いのさ。』


突然壁から出現した腕が死にかけのガーゴイルを反対側へと押しつぶす。即座にイヴが魔法を放つが聞いていないようで1分もしないうちに元の壁へと同化して消えていく。


「まさか、この塔は既にアザピースによって改造されているのか?いや、そんなはず……」


ただ戦闘の跡のみが残った4階層で、3人は呆然と佇んでいた。


……To be continued

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