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End  作者: 平光翠
第四階層 死教会
62/200

第62話 ロマンス≒ネクロマンス

地下から脱出するように、塔の階段を上っていくと、洞窟的な床が唐突に、大理石を敷き詰めた荘厳なものへと変わる。

それこそが、4階層『死教会』へ到達したという証拠であり、3階層の完全攻略を意味していた。


「ここは、その名の通り教会だ。ゲームでは棺の中は開けられなかったが…今はこの通り。だが、開けても意味は無いな。あんまり無礼なことはしない方がいいか。」


棺の蓋を開け放つも、その中にはアイテムはもちろんモンスターも居らず、更には死体も入っていなかった。

さすがに謎多き『End』も無意味に命を冒涜するのはお気に召さないようで、空の棺に蜘蛛の巣が張っていた。


そこかしこに、女性が十字架に磔にされている彫刻が飾られており、何を意味しているのか不明だが、透過した大理石の床の中には生き物の骨が埋められている。


ステンドガラスに描かれているのは女神…なのだろうか、脳髄や心臓を抱えており、あるものは魔石と思われるものを抱えていた。

ガラスの先の景色はぼやけていて見えないが、恐らく塔の外ではないことが分かる。

今俺たちのいる場所は、いわば玄関のようなものでかなり奥の方に一際大きな女性の像が見える。


ここは、ほかの3層に比べると次の階層までの道筋がわかりやすい。そう、真っ直ぐに行けばいいだけだ。

あの女神像の両サイドに扉が着けられており、そこから教会の裏手に行くことでボス部屋へと辿り着く。


「けど、そう簡単に行かせてくれないのがこの塔なんだよなー。まぁ、言わずとも分かるだろうけどね…」

「…だろうね。でも、きちんと探索した方がアイテムとかの見逃しがないでしょ?案外レアなものがあったりね。」

「フッ、だといいな。」


塔の中の宝箱は、ゲーム制作会社の意地なのかシリーズごとに入っているものが違う。

一作目の1階層、普通に進めば最初の宝箱になるであろう、その中身は回復薬である。

だが二作目では、地形は変わっていないし宝箱の場所も変わっていない。しかし中身は回復薬が2つである

三作目では、地形変わらず場所も変わらず、スライムのドロップアイテムでステータス上昇効果のある食べ物(?)プルプルゼリーが入っている。

四作目では、アイアンヘルムorマジックローブが。

五作目では、地形が変わり場所が変わったため、上級回復薬が2つ入っている。

まぁ、これ以上はどうでもいいとして、とにかく宝箱の中身が違うというのは31作目でも適用されており、宝箱の中身は俺も楽しみだ。


前室─教会の玄関口─から1番近い扉に向けて廊下を歩き出すと開いている扉の先から、槍を構えた四足歩行のアリが現れる。


「アントル1!」


盾を構えて突進し、黒い甲殻にヒビが入る。すると、直後に俺の体が吹き飛ばされた。

「!?…!!!?」


〔貴方はアントルの尻尾による痛烈な一撃を受け、認識を改める。自分の思っていた以上に4階層のモンスターは強化されており、そのダメージは重い。まるでLv2(人為的な強化)のようだ〕


謎の声の思考を取り纏めるような声が聞こえる。そう、この謎の声というチートは、あくまで自分のもう一つの思考であり、理性的な部分でもある。

そのため、俺が知らないことは謎の声でも教えてくれない。

道案内をしてくれるのも、敵の情報についても─魔王が付けた名前は別として─俺が知っているという前提が必要だ。

たとえば、街中で地図をちらりと見たり、そもそも『End』のモンスターを全て暗記していたりという、そういった前提の元働いている。


つまりは、本当にLv2であるかは分からない。

だがしかし、


「イヴ、レイ、この一撃が重く動きが早いのは、もしかしたらLv2の可能性がある。ゲームにはいなかったが、可能性は十分に高い。気をつけろ!」


ある種俺の直感とも言える謎の声がLv2の可能性を示唆するのであれば、的外れという訳でもないのかもしれない。


だが、それにしては動きが不自然な気もする。どこかぎこちないような。


だが、そんなふうに考えている余裕はないようで、眼前に槍が放たれる。ギリギリのところで攻撃をかわし、魔石があるであろう場所に蹴りを入れるも、その硬い甲殻によって阻まれてしまう。


イヴの魔法によって速度の上がったレイが、アントルの頭に向けてナイフをふるうも、槍によって弾かれてしまい、体をひねり真っ黒な尻尾によってぶん殴られる。

壁と尻尾に挟まれるように叩き潰されたが、寸前で防御姿勢を取り、さらにイヴの防御魔法も間に合っていたようで、何とか致命傷は免れた。


「キシャァァァ!」

吹き飛ばしたレイには目もくれずに、俺に向かって牙をむける。叫び声とともにギチギチと牙を鳴らして口内を見せつけてくる。不自然に空っぽなその中は、3階層、あるいはその外殻のように真っ黒だった。


盾によって弾き、ほんの少し前のめりになることで、その威力を相手に返す。反撃に対する抵抗感が盾を通じて伝わり、昆虫らしい異臭が鼻を刺激する。


すると、突然足元がぐらつき平衡感覚を失う。いつの間にか宙に投げ出され、下でアントルが待ち構えていた。あまりに急なことに驚愕しながらも原因を考えようと脳をフル回転させる。そして、思考の続きを謎の声に任せて、ジョブチェンジを行う。


「End流蹴撃術其の三【孔雀落石(マラカイトハンマー)】」


空中で態勢を整え、アントルの頭蓋に踵落としを決める。さすがの甲殻も高さのある踵落としには耐えきれなかったようで、ビキビキと音を立てて割れはじめる。

そこをチャンスとみたか、イヴの回復魔法を受けたレイがナイフを携えて特攻してくる。

〔だが、あなたは加速させた思考の中でついに正解にたどり着き、急激に嫌な直観が働く〕


「…必ず殺すから必殺、【不条理な一撃(グリムリーパー)】」

「やめろ!レイ‼」


気絶(スタン)状態にいるアントルの背中から、死神の一撃が忍び寄る。一定のルーチーンを成功させれば即死確定の攻撃は、彼女の想定とは覆され失敗、および反撃を食らう。

彼女の定めたルーチーンとは背後からうなじを狙い『必ず殺すから必殺』というセリフを言ってナイフをふるうこと。

そして俺の予想では、彼女は背後からという条件を満たしていないのだろう。


〔あなたは、アントルに紛れて自分達を襲撃したものの正体に勘づく。それは『プラントガール』であった。〕


プラントガール、それは茨の塊のような見た目をしており、生物学上オスにあたる生き物に対して寄生行動をする植物である。自分の魔石がとても小さくほかの生物の魔石と融合させることで生命活動を維持している。

そして、寄生先の生き物の体液に自分の魔石エネルギーを混ぜ合わせて、増殖をするのだ。


つまりこいつは

「俺に寄生するつもりだったのか!?」


アントルの背中からは無数の茨が這い出ており、その一本がレイを捕縛し締め付ける。


「ウッ…グ…ウゥ」

「レイ!私の妹を…離しなさい!」


その茨に対して、炎の柱が襲いかかる。パチパチと生物の爆ぜる音が響き植物はより一層荒れ狂い始めた。


〔意志を確認【ジョブチェンジ〈ソードマン〉】〕

「伸びろォォォ!蟻影刀(ぎえいとう)!!」


イヴの魔法ごと茨を切り裂こうと黒い刀身を可能な限り伸ばしていき、限界の長さである130cm程度の長刀へと変化させる。その切っ先が炎を捉え植物を切り裂く手応えが伝わり、更に威力を強めると、横からの反撃を食らう。


細い蔦などではなく一つに束ねられた塊は、まさしく打撃というに相応しい威力であり、もし最長となって細く薄くなった刀で防御すれば、折れてしまうことも有り得るほどだった。だが、武器が無事であったとしても残念なことに俺自身の肉体は大ダメージを負うことになった。


風刃(ふうじん)!今のうちに回復を!」

イヴがやつの気を逸らしてくれているうちに、腰のホルスターから試験管を取り出す。

中の液体を飲み干すと体の血の巡りが良くなり、打撃により曲がった骨格が修復されていく。


反対側の瓶を足で踏みつけ、中に封じ込められた魔力を解き放つ。体全体にイヴの願い(魔法)が行き渡り、全体的な力がみなぎってくる。


「クエイフ!私は大丈夫……!」

捕らえられたまま振り回されていたレイは、ダメージこそ大きいものの、致命的な傷害は負っていないようで、偽物の手足が茨を抑えていた。


「イヴ、20秒でいい。時間をくれ。」

「お安い御用です。今までの命令に比べれば…!」


複数の茨がバラバラな方向から迫ってくるため、風を操るのは難しそうだが、彼女は茨と茨の微妙な隙間を縫って空を飛び回っている。火炎や氷結、風刃などが茨をブチ切っては別な茨が復活する。

イタチごっこ的な攻防に対して、あえての静観。


既に5秒が経過しており、準備は整っている。

思い出せ、あのゲームを。あの動きを。

親にねだって主人公に憧れて神に願って次を祝って終わりを夢みて最後を嫌った、あの時の感情を。思い出せ


「End流二刀剣技【V(2つの刃は)F(竜巻のように)T(素早く)S(勝利を得る)】」


片手に80cm程まで短くした蟻影刀を手にしながら、もう片方には予備として持っていたスペア武器を構え、爆発するかのように昆虫へと襲い掛かる。

狙うは中心の魔石のみであり、それ以外の全てを切り裂き、破壊し始めた。


真っ黒な甲殻もひき肉になった中身もまとめてミキサーにかけたかのようにグチャグチャになり、そしてついに、()()へと到達した。

アントルの魔石が結晶のようにバラバラに砕けていき、植物の根っこをズタズタに切り裂く。

「……ふぅ。ありがと、クエイフ。さてと、先に地獄の業火を味あわせてあげる【深紅の死神(クリムゾンリーパー)】」


ついに拘束が解かれ、落ちてくるままにナイフを構えた少女(死神)は、姉の力を借りて刀身を真っ赤に燃やす。

その紅髪よりも艶やかに彩られたナイフは、必死に命を繋ぎ止めようとレイを抑える茨を燃やし尽くす。


根っこの中心、小さな魔石に突き立てられたナイフは、さらに火力をまして全ての茨が赤く染まり、灰へと変化していった。


レイにヒールをかけて、消費した緊急用アイテムの補充をして、使いすぎた精神力を回復させるついでに、各モンスターの復習をする。


「プラントガールは、少し予想外だった。急すぎて少し焦りすぎたな。冷静さを欠いたのが苦戦の理由だろう。」


ゆっくりと休憩をしていると、コツコツという足音が聞こえる。独特の靴音は塔専属商人メルクのものかと思わせるが、彼は2階層で会った時に、暫くはここで商売をすると言っていた。そもそも3階層ならまだしも、情報を公開していない4階層に人が来ること自体が珍しい。


「誰だ、お前たちは!」


そう言って俺たちに声をかけたのは、まさかの修道士であった。いや、服装からして神父なのだろうか。


上等な服を身にまとい、よく見るような半球型の帽子(後で知ったがズケットと言うらしい)を被っており、赤と黒を混ぜたかのような表紙の聖典のようなものを小脇に抱えている。

「ええと、神父様ですか?どうしてここに?」

「ここは私が管理している教会だ。お前たちは祈りに来たのか?」


塔の中の教会に管理者がいるとは思えないし、神父にしては口調が荒々しい。怪しさは満点だが、怪しくなさも同じく満点だ。

謎多き塔の事だからどこかの教会を無理やり詰め込んだのかもしれないし、こんな頭のおかしな環境にいれば、神父といえどクソッタレとも言いたくなるだろう。


「いや、お前たち、もしかして塔の攻略者か?我らが××××教への入信ではなくて?」


××××教!?なんだって?

俺がこの世界について知るために、学園などで使っているような教科書を読んでいた時に載っていた、有名なカルト宗教団体であり、既に数百年も前に滅んだはずでは?


「なるほど、あの方の創りし作品を愚弄する者共か…。いいだろう。命というものがどれだけ無価値か、貴様らに教えてやろう!」


そう言って初老の男が聖典をめくると、数十体のゾンビのうめき声が教会内に響き渡る。


無意味な命に(アンデット)サヨナラを(パーティー)!!」


そして、現れたのは先程のうめき声の正体であろうゾンビ達や、カラカラと行進曲を奏でながらスケルトンの群れや、壁から蛇のように這い出てくるプラントガール達、見えてはいけない命である幽霊(ゴースト)の軍団等が一斉に叫び出す。


「ああ、貴女は間違っていない!我が女神よ」


これは…どう戦えというのだ……!


……To be continued

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