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End  作者: 平光翠
第3.5階層 トロワの幕間
59/200

第59話 修行

次の日になり、俺は1人でヘーパイストスの店へと訪れていた。今の俺たちには、より強い装備が必要だからだ。


目安としては一階層ごとに装備を変えたり特性を見直すぐらいが丁度いいだろう。

とりあえずとしては、俺のメイン装備である剣、槍、盾、鎧、イヴの杖、ローブ、レイの短剣、アーマー等を優先的に強化させていく予定だ。


「アレとアレは、アントルがいいんじゃないか?硬いし都合がいい。レイのアレはしなやかさも欲しいから、アレを使うか?アレはそのまま強化するからアレを持ってこい。」

「ああ、メモとるから待ってくれ。」


殆どが3階層の素材でありソロで行けるかと不安になるが、今までのことを考えると一人で十分だろうと判断する。


はじめから塔へは向かうつもりで装備を整えてあるため、店を出てすぐに【転移】を使う。


一瞬揺らいだ景色は、瞬間で薄暗い地下へと移り気分を沈める。


Endでは、怖いもの知らずというふうに振舞ってはいるが、暗がりが苦手な俺にとってこの階層はあまり長居したい場所ではない。


近くにいたオークに向かって突撃すると、鼻をスンと慣らし俺に気づきた獣にナイフが刺さっていた。


「剣よ、暴走せよ【スラッシュボム】」


微かに魔法剣士の片鱗を見せつつ、オークを爆撃するもあまり効いていない。

それもそのはず、オークはその分厚い脂肪のおかげで魔法に対する耐性があるのだ。


だが、それでもいい。

爆炎を纏った剣は、剛毛により固くなった毛皮を切り裂いてゆき、どろりとした脂肪に焦げ跡を残していく。

そのまま、ターンを決め振り向きざまに【点破砕槍】で魔石を貫く。斬られ焼かれた傷口に弱点である刺突攻撃を喰らい、オークはよろめく。運悪く核までは届かなかったが、次で確実にしとめられるだろう。

今までよりも早いチェンジスピードに感激しながら、腰を落とし槍を構える。


今まで、流れ作業としてスキルのアシストを頼りに動かしていた体を、あえて意識的に動かす。なれない感覚。やはりズレている。


だが、あの女(テンキクズシ)が言っていたジョブに対する軽さというのは、こういう事だろう。


これはゲームだ。自分を使ったゲームだ。


最終の一撃を、今まで何度も打ってきた一撃を、初めて打つ一撃のように丁寧に。


軸がぶれている。体幹が足りていない。方向もおかしい。敵の醜悪な顔が見れない。恐怖で足が竦む。だが、それ以上に楽しい!!


これはゲームなんだ!今まで楽しみ続けていた『End』なんだ!幸せだ!最高だ!


「【突撃(ショット)】!!!」

ランサーが、一番最初に使えるようになる技。威力も大したことは無いし、攻撃硬直も大きい。

今まで、何度か使ってきた技だ。そして、今回の【突撃(ショット)】は今までで最低の出来だ。


だが、最高の一撃だ。


次いで現れたのはボムマン、導火線をまだ半分は残しているが、思わず体が焦ってしまう。


タイミングのズレた【スラッシュ】はボムマンの頭上を通り、その間に導火線はどんどん短くなっていく。

瞬間的に足を振り上げ爆弾を蹴り飛ばす。

小学生が書いたような丸いフォルムの爆弾は壁まで吹き飛び、暴発する。

ガラガラと崩れた岩の中からモンスターがポップし、俺を見すえる。


海苔の先端にギザギザをつけ、横から爪を生やしたようなソイツ(マルシェオンブル)は、こちらを()めつけ、じわりと笑みを浮かべる。


口の端を広げただけのそれに、こちらも同じような笑みで返すと剣を構えなおす。


距離は5mも無いだろう。

地面を踏み抜く。それを合図にお互いの距離は5cmも無くなる。剣と爪が交錯し二撃目を振りかぶると先に動いたのはマルシェオンブルだった。

俺の右脇腹を黒い爪が切り裂き血が零れる。だが、次の瞬間には影の両腕は体から離れていた。

恐ろしく早い技だが、その歪な斬り方は素人そのものであり、力の入れ方もおかしいため両腕の寸尺は左腕が長かった。


切っ先をマルシェの頭に向け刺突を繰り出す。間一髪形を変えて攻撃を避けたマルシェは、短くなった腕を爪の代わりとして、俺の腹へと向ける。

あまりの至近距離からの攻撃に対し、避けるのは厳しいと判断した俺は、攻撃を弾くことにする。


剣を持つ手を捻り回転させる。自重によって俺の腹へと向かう剣を加速させると、ドンピシャのタイミングで爪へと突き刺さる。


「しっかり抑えとけよ?」


影の手の甲(腕と爪のみなので甲なのかはわからないが)に刺さった剣を軸として、大きくジャンプして回し蹴りを食らわせると、ポール体操のように回転した体は一度躱された頭に直撃する。


マルシェの倒れる動作に合わせて、そいつを踏み台にする。

剣を引き抜き体勢を整えると、マルシェの死体をそのままに、後ろの叫び声を見る。


叫び声をあげたのはゴブリンで、後ろにはスライムも待ち構えている。

ゴブリンの単独行動とスライムの色合いが濃いことから、Lv2であると予想し納刀しかけた刀を、構えなおすと同時に一気に足を動かす。


爆発的な初速は地面をえぐり、濃紺の液体へと襲い掛かる。

真一文字に剣を振りぬくがゴブリンの咆哮(ハウル)により剣筋が甘くなり致命傷にはならない。

舌打ちをしながら斜め下からの袈裟斬りを放つも力が入りきらず、スライムを弾き飛ばすだけとなった。


スライム系は、その流動性により魔石以外への攻撃は決定打にかける。可能であれば非溶解性のもので一撃必殺が望ましいが、Lv2が相手ともなればそう上手くはいかないだろう。

バックステップで距離を取りスライムの体当たりを躱す。運悪く俺は避けきれず、死んだ勢いのままのし掛かるスライムを手づかみでぶん投げる。


ジュァァと皮膚の焼けるような音がして手を見れば皮下筋肉が透けて見えていた。

だがそれを気にしていられる余裕はない。


レッグホルスターから回復薬を取り出し口に放り込む。体中に血が巡り、一気に細胞分裂が加速していき、新たな皮膚が作られていく。

先ほどよりも厚くなった手の皮を2、3度握りしめ確認すると居合の構えを取る。


「End流抜刀術其の一【一閃(いっせん)】‼‼」


その場から動くことなく、空振りに終わった攻撃はモンスターにとって絶好の隙であり、彼がするはずのないミスであった。


「なるほど、アシストがなければ体は動かないのか……」

今までのゲームでの動きをなぞるような攻撃ではなく、自分の体を使おうとするということは、本来動くはずの体を固定することであり、想定とはかけ離れることになる。


二方向からの突撃に対しても攻撃硬直により体は動かない。

残念なことにこの硬直は、スキルによる効果ではなく体そのものの防衛機能であり、受け入れるほかない。


「と思われがちだし言われがちだが、違うんだよなぁ」

二度目の抜刀の構え。

大きな動きができず二つの攻撃を防ごうにも、体に力を入れることができない彼がとった行動は、再びの居合。


先ほどよりも深く腰を落とし、反面、足の幅は短く顔は上向き、目を閉ざしている。


「End流抜刀術其の二【双刃(そうじん)】」


彼が静かにつぶやく。その声は誰も聞くことなく、一撃が終わる。


左に構えていた剣を右へと振りかぶると、【スラ・ストライク】により加速した液状の体は、空中で魔石を両断され、返した剣の軌道により再び刻まれる。

左のゴブリンはわずかにタイミングがずれて、伸ばしていた腕を分かれさせるのみとなった。

ゴブリンは唐突に与えられた痛みに対して、思わず立ち止まるとすぐ目の前には鬼気迫る表情で口の端から血をこぼしたクエイフの姿があった。



そして予感する、己の無力さを。

そして痛感する、彼の強みを。

そして実感する、死の瀬戸際を。


「あばよ、また遊ぼうぜ。」


小鬼の魔石(心臓)部分を目掛け一の字を描くように剣を振る。

今度こそ、邪魔が入らず必殺の一撃となったそれは、ゴブリンの断末魔によって完成された。


なぜ、彼が攻撃硬直を無視して動いているのかといえば、体が体を守ろうと硬直をさせるのなら、口内を思い切り噛みつき、痛みで筋肉疲労を隠そうとしていたのだ。


戦闘が終わり一息着いたところで、塔を愛する彼は、塔に愛されていた。

さらに三体のスケルトンを出現(ポップ)させると計六つの空洞がクエイフを見据える。

苦笑いの後に、彼は回復薬を飲むと試験管のようなそれを踏み潰す。


「上等だ。ゲーマーの意地見せてやるよ!!!」



……To be continued?





〈クエイフ宅〉

「レイ、もっと鋭く!」

「…うん…!」


二人の少女が殺風景な地下室で組み手をしていた。

傍らにびしょびしょのタオルが無造作に放ってあり、ゆうに9時間はその場にいたであろうことがうかがえた。レイの赤く爛々と輝く髪から雫が垂れており、イヴの普段はふわりとしているブロンドの髪も地肌にくっついている。


手元から射出される魔法を躱し、槍のように打たれるハイキックを寸前で避ける。

金色の髪が浮き上がり、白く滑らかな足が仕返しのように突き出され、彼女の纏うローブが揺らめく。

その足をつかみ体勢を崩させようとするも、つかむと同時に引かれてしまい、むしろ体勢を崩されてしまう。だが、彼女には支えがあった。瞬間で伸びた肉片が前かがみのレイを押し戻し、いつの間にか持っていた木のナイフを振りかぶる。

寸止めされたそのナイフを合図に二人は離れる。


「…さっきイヴ姉がやったのって、飛行魔法?」

「そうだよ。レイ、よくわかったね?」

「…なんか、さっきの一瞬だけ私が空を飛ぼうとするときと風の感覚が似てた」


新しいタオルで汗を拭きとり、歪んだ木のナイフをゴミ箱に放り投げ、新品のものを出す。


「次は負けない!」

「今度も勝つ」


レイの合図に合せて、超高圧の水が彼女を襲う。

最小の動きでそれを躱すと、前傾姿勢で一気に近づいていく。魔法使いは、基本的に近づかれないように戦う。そのためにはどうしても味方のサポートが必須であるが、イヴは体全身に魔力をまとうことにより、一定の速度で移動が可能になり、魔法の速度も上昇させている。


彼女の魔力装甲が、数枚はがれていき地面や空中へと停滞する。


クエイフは言った。

『魔力とは変換の源』


ただの魔力であった装甲は、徐々に特性を帯び始める。

効果は反射、一定の魔力を自由な方向へと反射させることができる。


「…イヴ姉、まさか……」

「その通り」


無詠唱で十数種類の魔法が打ち出される。

火炎、爆弾、氷塊、風刃、光球、土塊、氷矢、光槍、黒鳥、猛毒、麻痺、闇霧、水流、燃木etc…

様々な魔法が一瞬にしてバラバラな方向に向かっていく。

檻のようにイヴを閉じ込めると、さらにその魔法から別な魔法が放たれ、魔力の軌道が無数に描かれる。

その一つ一つに意思あるかのように、レイの方向へと伸びていく。


「言う必要はないけれど、あえて言わせてもらうわ【ホーリー・()()


計55発、ありとあらゆる角度から、ただ一人の少女めがけて、魔法が飛来する。

その全てが()()()()()()


「…魔法が来るってわかってるんだから、打ち消せるよ」


50発を超える魔法に対してレイの体には16本の腕が生えていた。

本物の腕であろう二本にのみ、木のナイフが握られており、残りの腕は焼けこげたり、吹き飛んでいたり、凍り付いていたり、血がとめどなく流れていたりと、様々だった。


「貴女が直撃してくれるほど、甘くないのなんて分かってたわよ。だって、貴方の姉なのよ?」


イヴの姿は見えない。

「飛ばれた!?」

「2度も同じ手を使うとでも?」


レイが踏んでいた地面は偽物であった。

グズグズと崩れた中からイヴは現れ、妹を見据える。

一泊遅れて気づいた彼女の腹に鋭い蹴りが入り、爆発する。


「レイ、何度も見せてくれてありがとう。本で読むより、実際に見てみた方が分かりやすかったわ。」


レイとおなじ前傾姿勢で、レイよりも早い速度で、レイへと向かっていき、くの字に折れ曲がった彼女の小さな体に、トドメと言わんばかりのラリアットが決められる。


その一撃が終幕となり、2人はまた休憩する。

クエイフの帰る音を聞き付け、2人は地下室から上り風呂へと急ぐ。想い人に汗臭い姿を披露したくなかったのだ。


そんな乙女な彼女たちの戦績は、両者148勝148敗。


ついぞ、決着はつかなかった。


……To be continued


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