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End  作者: 平光翠
第3.5階層 トロワの幕間
58/200

第58話 イヴの職業訓練

レイがおわり、次はイヴの相手をする番だ。

まず、第一に魔法使いの弱点だが大きく言えば1人ではどんな相手とも戦えないことだろう。

実力差があり、こちらが優位であれば素早い魔法攻撃で倒せるとは思うが、拮抗した実力であれば勝機は薄くなる。


「何より、イヴは魔法を使うことに固執しすぎている。まぁ俺が教えていなかったというのもあるが……。」

ゲームの時の俺はもちろん魔法使い縛りをやっていた。なんなら回復特化の魔法使いでクリアしたこともある。その時に重要になるのがステータスの振り方と戦闘での動き方である。


「ゲームの時は即死しないことだけを考えてダメージを受ければ即回復&突撃って感じで戦っていたが、うちのお姫様に怪我はさせたくない。」

「お姫様……」

「というわけで、31作目で新たに考えた戦い方を試してみよう」


<End【二階層アザピース研究所】>


ゴブリンのパーティーがふたつにアントルが数体うろついている中で、クエイフは杖も構えず悠々としていた。そして、腕に力を籠めると近くのアントルに向かって走り出し、そのままぶん殴る。

ステータスは『ウィザード』であり本来であれば硬い甲殻に防がれるだけであるはずが、それを貫いた。

「ただの硬化魔法でも十分に攻撃力になりうる。つまりはそういうことだ。」

腕のみに魔力をまとわせることにより無駄な消費を抑え、その分硬度を強める。ステータスに頼らなくとも硬さにより攻撃力は申し分ない。


「さてイヴ、俺の動きをよく見ていろ」


魔力とは変質のための力

炎熱への変換、氷水への変換、土塊への変換、光彩への変換、暗黒への変換

爆発、濁流、暴風、生命、死屍への変換の源


アントルの背中に入った右腕から炎を吹き出させ、足に力を入れる。瞬間で魔力が足全体を包み込みバネのように跳躍する。

大きく左にそれた体は弾丸のような速度でゴブリンメイジへ向かっていき、未だ燃え盛る右手の炎を解き放つ。


よりよく魔力を変換し伝達させるためにいくつもの詠唱をつなげて紡ぐ。

詠唱とは本来扱いにくい魔力を制御しやすくするためのものであり、定められたものはない。

あくまで一般大衆が理解しやすいようにと今の詠唱形態がある故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、崩した詠唱文でも構わないのである。


別方向から石剣をかまえたゴブリンに対して指を鳴らしながら

「【クラップボム】」

と小さくつぶやいた瞬間にゴブリンの頭は木端微塵に消し飛んでいく。

爆発の詠唱に衝撃を乗せたゲームには存在しない魔法だ。


クエイフの右腕の炎を移され、未だ苦しめられるメイジを足で踏み付け真上に跳躍する。

下に向けて二度指を鳴らす。パチンという音に合わせて爆発音が響く。

着地の瞬間に左右に氷をまき散らし壁を貼る。

「いいかイヴ、魔法は確かに便利だ。正確性と威力においては圧倒的だ。だが、瞬発力にかける。この塔において、瞬間の行動ができないことは命取りになる。魔法使いだからと甘えて動けないのなら、簡単に死ぬぞ。」


ゲームにおいて魔法使いの難易度は高かった、そもそもEnd以外のゲームにも言えることだが、魔法使いは、守ってくれる味方がいる前提で戦う。だが、この塔において、一人で戦えないことはあってはならない。

5階層までのお遊び(チュートリアル)なら、今までの戦い方でも運しだいでは生き残れるだろう。

だが、本物は格が違う。次の4階層でさえ、簡単に死ねるというのに。


「とりあえず、ただ魔法を撃つだけじゃなく複合的な戦い方を意識してみてくれ。」

「はい!」


一度家に戻り、地下室にて模擬戦闘を試みる。ただ、今回は魔法以外を頼ることを覚えてもらうため、そこまで本気ではやらないことにする。


レイとの対局のように少し距離を取った位置に二人がたたずむ。

俺が3カウントをすると、ゼロの瞬間にイヴは風刃をはなつ。さすがにイヴの魔法とはいえ、この距離で食らうはずもない。刃先をつぶした剣で逸らし、構えなおそうとすると火炎が切迫していた。

とっさに左にかわし、イヴをとらえようとするが目に映らない。


「クエイフ様は今まで自分のことを知らない敵としか戦ってきていないですもんね」

俺が左によけると見越していたのか真下に超前傾姿勢の彼女が見える。

魔法使いとは思えないほど鋭くかたいパンチを腹にくらい、思わずよろめきかける。


「クエイフ様は右利きですから、剣も右に持っていますよね。そして、相手の攻撃をかわした後も二手目、三手目に備えて剣が振りかぶりやすいようなかわし方をしますね。ずっと後ろで見てましたから、わかりますよ。」


俺の隙を見て、また距離を測りなおすと、イヴにより氷の三連撃が生成される。

かわせなくはないが、こちらの思考は読まれている。いや、完全に読まれているわけではないかもしれないが、今までの敵とは違い、その場の読み合いなどではないため、イヴの出方が読めない。


使いたくはなかったが、()()()を使おうか?

だが、100%できる訳では無いものを頼るのはどうなのだろうか?

そもそも、この一瞬を躱した所でその次はどうする?


瞬間で無数のパターンを描き、最適解を導く。

自問自答を繰り返し、氷塊がこちらに迫ってくるのを眺める。


「決定、使うしかねぇ!」


一流のアスリートにのみ許された、超絶的感覚拡張。

本来ならば五感を研ぎ澄ませ、事実上第六感を超える性能を持つ、特別な才能。


Endの上位プレイヤーは『絶対感覚』という特別な技術を有する奴らがほとんどだ。

海外の有名プレイヤーが最初に編み出した方法で、元アメフト選手だったという彼は、当時攻略不能と言われていた49階層(3作目の最終階層目前)のボスとの戦闘中、画面が止まった感覚に陥ったという。

最初はラグだと思ったらしいが、ゆっくりと敵が動いているのが見えた。ボスの次の攻撃が読めたという。


もちろん、その配信はリアルタイムではないが、目を通してある。

チートツールなどではなく、本人の才能として一瞬先の未来が見えたのであった。


そして、俺はそれを習得することに成功した。あくまで、紛い物としてだが……。


「End流奥義【神の目】!」

全ての感覚を研ぎ澄ませ、視覚にのみ集中させる。

今まで聞こえていた音が完全に断たれ、鼻が無くなったように軽い。身体が浮かび上がるような奇妙な感覚に襲われ、握っていた剣も分からなくなる。

自分の歯をなぞっていた舌先もえぐり取られたかのように感覚を失い、全てが目に向かっていく


遠すぎて見えなかったはずのイヴの目線が見える。

彼女の黒瞳がゆっくりと動き、俺の右側足元斜め左、そしてはるか上空へと向けられる。

三本の氷の軌道は、未だ見えない。


体感で5秒ほど待つと、一つが動き出す。

また、スローな動きでイヴの目とシンクロした動きを見せる。まるで、ある場所へと誘導しているかのような動きに対し、あえて、()()()()()()()()()右へと向かう。


すると、即座に目線が動き俺を追従する。

だが、これは囮だ。


あの女、たった一度で自分の目が見られていると気づきやがった。レイの時もそうだが、工夫のない同手は二度と通用しないというのは、才能があるということだろう。


だが、2つ目の氷がどこへ向かおうと問題ない。

あえて、()()()()()()()


イヴもまさか自分から攻撃を受けに来るなど思わなかったのだろう、驚愕のあまり視線が無防備になる。

最後の氷の向かう場所は、俺の頭上。寸止めする気なのか、はたまた本気で殺す気なのか、真意までは読めないがとっさの行動が甘い。


だが、彼女はあの塔を三階も登っている、ミスをしないとは思えないがミスをするとも思えない。

【神の目】もそろそろ限界だ。ちかちかと揺らぐ視界の中で、奇妙な魔力を見つける。イヴの足元にある()()は、俺が来るのを待ち構えるかのように停滞している。

まさか、地雷か⁉


ならば、と思い三つ目の氷を左手で受け止める。氷に触れた瞬間体の一部が動かなくなってくる。

そして、【神の目】で見るまで気づかなかったが、イヴは自分の体全体に微量の魔力を流しながら動いて居た。魔力によって補正のかかった速度は重い剣を構えた俺が追い付けないほどであり【神の目】がなければ、近づくことすらかなわなかっただろう。


少しずつ気づかれないような速度で、俺から逃げる彼女に対し大きな跳躍をする。

左手はさらに凍てつき肩口まで凍り始める、片腕で振り下ろす技はない。がゆえに一度着地を余儀なくされる。


だが下には地雷がある。

それでもあえてそれを踏みつける。足にかかる衝撃が全身に巡っていく。左半身の氷さえ一気に砕け落ちる、シンプルかつ王道である爆発は、俺の体を麻痺させていく。

衝撃で途切れた集中は、今まで見えていた視界を閉ざすに十分だった。

【神の目】の副作用により全身の感覚が逃げ出す。体がなくなる。感覚がなくなる。刺激がなくなる。全てが無に帰す。

だが、一瞬の記憶に任せ走り出す、イヴの位置を思い起こし彼女の動きをトレースする。あいつなら、こっちに動くはずだ‼


次に俺が見たのはイヴの顔ではなく、火炎であった。

あと少しというところで攻撃をはずし、カウンターを決められてると判断することはたやすかった。

失った感覚が、謝罪をするかのように痛みを伝えてくる。


だが、俺がイヴの顔を見れていないということは、イヴもまた俺の顔を見ていないということだ。

【神の目】は使えない。他の絶対感覚も俺は使えない。

だが、超絶的でなくとも、あの塔に登っている時点で俺の感覚は鋭く研ぎ澄まされている。

土をふむ一瞬一瞬が、脳天までビリビリと伝わってくる。

今までの痛みとこれからの痛みに屈することなく脳は命令を出し続ける。

それに合わせるように足はぐんぐん進んでいく。軽やかなステップのように爆発的にイヴの元へ向かうと、彼女の頭をとびこえる。


いくら魔法で強化しているとはいえ、こちらは近距離のジョブである。ここから必殺の一手を決めるのは簡単なことだ


お互いが振り返る。最後の一撃の為に。


一瞬早かったのは、当然俺であった。

首元寸前に当てられた半剣はほんの少し間違えていれば、イヴの首と体がお別れを告げていたことだろう。


対して、俺の顔面にはどす黒い闇が広がっていた。

あと0.01秒彼女が速ければ、俺は視界を奪われた状態で吹き飛んでいただろう。

そしてこの攻撃は、今までの彼女では考えられなかったことだ。


近距離の相手にスピードで勝負するなんて、魔法使いにはありえない。

だが、塔にとっては必須と言って差し支えない。


「まだまだ、甘いな…。もう少しだ。」


「クエイフ様は、いつも奥の手を隠していますね…。」


当たり前だ。10手考えても死ぬような場所で100手考えるのは当然のことだろう。




〈クエイフ宅【イヴとレイの部屋】〉


「これは……なんでしょう…?」

そう言う彼女の前には数十を超える本が積まれており、一冊一冊の装丁がかなり精巧に作られていることから、価値の高い本であることが伺える。


「今まで人類種が使えた魔法の一覧表だ。こっちは、武術の基礎的な動きについての本、あとは剣術、斧術、弓術、盾術、鎚術、槍術、その他もろもろについて書かれている。最低でも魔法の一覧表と剣術、武術については完璧に覚えておけ。役に立つはずだ。」


むしろ、今までの俺が異常だったのだ。

ゲームなのか現実なのかあやふやなまま、この塔に登っていた。不明確であることは忌み嫌うべき事柄だったのに。


「イヴ、レイ、俺はもう間違えない。」


……To be continued



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