第57話 レイの職業訓練
家に帰ると、玄関先に二人が待ち構えていた。俺の顔を見るやいなや泣き出してしまうような声で、俺の名前を呼んでくれる。
「ただいま」
「「…お帰り、クエイフ!」なさい!クエイフ様」
涙声で抱き着いてきた二人をやんわりと放しつつ、テンキクズシ達についての話をする。
二人が生きていると伝えると、不思議より先に安堵の表情を浮かべる。
「これからの方針についてだが、急いで行いたいのは、中級職に向けてのランクアップと、装備の強化、あとは技を磨くことだ。」
ゲームだと思いなめてかかっていたが、ゲームだとすればもっと真剣になってやるべきだった。
Endはただのゲームじゃない。そんなはずがないという想定を軽々しく打ち破る。ならば、全ての環境が変わったこの世界もEndそのものではないだろうか。今までよりも自由に動けるようになり、敵の行動が複雑で、装備やアイテムが多く、NPCにも意思がありリアルな会話ができるようになっただけの今までと同じ最高にスリリングなゲームに過ぎない。ならば当然、クリアするために全力で取り掛からなければならない。
「知っての通り、俺はすべてのジョブに精通している。二人の戦い方や、動きについて少し指南をしようと思う。」
「……今から?」
うなずいて肯定を示す。
「とりあえずレイ、お前からだ。そうだな、死なず殺さず。これだけ守ればなんでもいいさ。」
ゲームの時からあったが、31作目では初めて使うであろう地下室がある。
いわゆる、ジョブの動きを練習する場所であり、ゲームのシステム的には、体力と魔力を好きなように設定できたが、流石にここでは出来ないようだ。
「…私が死ななくて、クエイフを殺さなきゃいいの?…丁度、クエイフとどっちが強いか試してみたかったし、本気で行くよ?」
彼女のステータスは、暗殺に重きを置いたスキル構成であり、技や立ち回りもそれを意識している。
そして、暗殺メインのハンターが苦手としているのは、防御力の高いガーディアン、そして同じジョブのハンター、さらに、多数の相手も不意打ちの成功率が下がるため苦手としている。
だが、この塔は苦手を苦手のままにしておけば、あっという間に死んでしまうような場所である。
レイには意地悪をするようになるが、早めに慣れてもらわないとまずいだろう。
「では、始めッ!」
イヴの合図で俺は盾を構え、レイは木で出来た短剣を構える。一瞬で間合いを詰めためらいなく攻撃を繰り出すまではよかったが、俺を相手にして一撃必殺の技を用いたのは失敗といえる。
軽々しく、盾によって攻撃をはじき、あまつさえカウンターすら浴びせる。木の短剣が盾に触れる瞬間に少しだけ引いて押し返す。一瞬引いたのは向こうがかける力を最大限にしたかったからであり、力の半分以上を加えていれば、カウンターに対するカウンターに変更することもできない。
レイは思い切り威力を突き返され、後ろに吹っ飛んでいくがその程度で負けるはずもなく、すぐさまこちらに戻ってくる。一撃必殺は見切られると思ったのか、今度は連撃技で翻弄しようとするが、俺のジョブの防御力を超えられず、決定打にはならない。すると彼女は視界から消えては姿を現すということを繰り返す。
「レイ、正解だ。お前の暗殺技術は、防御力のあるやつには通用しない、力量のある者には、カウンターも食らうだろう。ならばどうするか、それは逃げることだ。暗殺者は戦いに勝つのではなく、殺すことが重要、そのためには一度我慢して殺すための準備を整えるべきだ。では次に、逃げられない場合は?」
ジョブをハンターに切り替え、レイに切迫する。あいにく暗殺特化ではないがバランスのいいステータスであるため、彼女にとっては十分に戦いにくい障害となることだろう。
近づいてきた俺に対し牽制のつもりか木の短剣を振り回す。その手を肘と膝で挟み短剣を離させる。だが、武器を失った程度で攻撃の手を止めるなら、俺はこの女を塔に登らせなかった
レイの腹部から生えてきた手が、落とした短剣を拾い上げ、もう一度振りなおす。まっすぐな木が俺に直撃するが、痛みをこらえてもう一度肘鉄を食らわせる。
殺しに重きを置くとどうしても近距離での戦いがおろそかになる、この距離では振りきるに振りきれないだろう。
肩に強い衝撃をくらったレイは、空中で体をひねり俺の頬へと膝蹴りを決める。
ハンターのジョブでは近接格闘に補正はかからない。が、モンクの動きが染み付いている俺にとって、その膝蹴りを掴むのは容易いことだった。
彼女の脚と腰の辺りを両手で掴み回転を加えながら上へと放り投げる。落ちてくる彼女に向かって掌底の構えを取る。
後になって思えば【翡翠掌底】を使っても良かったが、運が悪ければ彼女は死ぬ。少しでも威力とリスクを減らすためにと、ハンターのまま打ったのが悪かった。
腹へと炸裂した掌底にレイは呻き声をあげる。
ビキビキという骨の折れる音に、少しやりすぎたと思い力を弱める。
もし、ゲームをプレイしていた俺ならば、ここで手加減なんてするはずがなかった。愚直なまでにゲームにのめり込んでいた俺ならば、彼女を信じきれていただろう。
イヴが『止め』の合図を出そうと口を開いた瞬間、俺は腕の関節を決められ、首筋にナイフを当てられていた。
「騙し討ちなんて、悪いことするじゃねぇか。いや、いいことか?」
あのうめき声も骨の折れる音も全部彼女の思惑だったわけだ。まんまとハマってしまったということになる。
なら、少し本気を出そう
空いている左手を自分の胸元に近づける。
「最初から近接戦闘をするつもりでいたから装備を外しておいて良かったぜ。」
「…何をするつもり?その前に殺せるよ?」
End流掌底術【三段翡翠】
小さく呟いたその声は、誰にも届くことなく自分の胸の内にのみ留められる。
しかし、3連撃の掌底は俺の胸の内のみでは留めることが出来ず後ろにいるレイにも直撃する。いや、間撃と言うべきか。
「ガッハァ!」
今度こそ本物の呻き声をあげて後ろへと吹き飛んでいく。
ギリギリで腕をつかみ上へと放り投げる。が、今度はその白い腕を離すことなく、下へと引き寄せるが指の矢を射出してくる。虚技【指矢】を裏拳で逸らし、彼女を地面へと激突させる。
レイはなんとか受身はとったようだが、かなり辛そうだ。
イヴに回復魔法をかけてもらい、自分の部屋へと戻って行った。曰く「今日はもう寝る」との事だ。
さらに、イヴにはやりすぎだと怒られてしまった。
……To be continued




