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End  作者: 平光翠
第3.5階層 トロワの幕間
56/200

第56話 クエイフの職業訓練

テンキクズシによってそらされた槍を見る。


俺の実力不足、努力不足によって抉られた地面は、しっとりとした土の感触があり、同じものが槍の先端に付着していた。


〔意志を確認:【塔内転移】〕


戦闘をこなしながら感傷に浸ろうと、1階下のアザピース研究所に戻る。

突然現れた俺に対して、周りのゴブリンが驚いたような目をするが、すぐに戦闘態勢を取り始める。


目の前の怪物たちは、石器の槍や斧を構えている。

愛剣である『蟻金属半剣(アントラントソード)』をゴブリンに向け、一呼吸。


刀身をゴブリンの心臓目掛け突き刺す。

右から振りかぶられた斧を半剣で受け止め、弾き返して蹴り飛ばす。


「【ペンシングショット】!」

吹っ飛んでいく敵を追いかけるようにして、剣を突進させる。運悪く左足に当たってしまい、ゴブリンが半剣にぶら下がる。適当に振り払うと、後ろから矢が放たれる。


右肘と右の肩甲骨に刺さった矢を放っておき、ゴブリンアーチャーに走っていく。

幸い、状態異常付与(エンチャント)はされておらず、ジクジクとした痛みのみで済んでいるが、少しだけピンチかもしれない。


「вред、Проклят моей магической силой【Замедлить】」


〔翻訳:魔法【スピードダウン】〕


どうやらゴブリン共の中にメイジがいたようで、鈍足の魔法をかけられてしまった。

唐突に速度を失ったことにより、体のバランスが崩れて思い切り転んでしまう。


ギチギチと歯を鳴らす音が聞こえ始める。それは、アントルの出現を意味しており、よりピンチに追い込まれたという事だ。

素早くジョブを変更し、剣を手放す。起き上がると同時に腕の力だけで飛び上がって、近くのゴブリンに膝蹴りを食らわせる。

向かい側のゴブリンを殴り飛ばして、構えをとる。


「End流掌底術其の三【三段翡翠】」


群がっているゴブリン達に打ち付けられた掌は、先頭のゴブリンを吹き飛ばし、後ろの仲間に直撃する。

そしてその瞬間に2発目の掌底が炸裂し、2体が一番後ろのメイジにぶつかった瞬間に3発目が発動する。


時間差で発動し、掌底を飛散させるため散弾にして三段。

すぐさま次の敵に向かっていく。


アントルの頭と体の付け根、人間で言えば首であるだろう部位に向けて手刀を食らわせる。

堅い甲殻は俺の生身の拳で砕けるほど脆い訳もなく、特殊インベントリを操作する。


「出力最低!『爆裂鉄甲(ばくれつてっこう)』!!」


ボムマンの魔石を使って改造された金属『爆裂鉄』。

それを手甲の形に打つと、殴るたびに爆発する武器の出来上がりだ。ただし、相手との距離や殴るものに合わせて出力を変えないと、こちらまで爆発に巻き込まれてしまうのが弱点だろう。


「爆裂!!End流殴打術其の五【金剛連打】」


一撃目

アントルの甲殻にヒビがはいる。

二撃目

ひび割れた部分から中の臓器に衝撃が加わり、怪物に苦悶の表情が見え始めた。

三撃目

ひび割れた甲殻は、完全に砕けていき手に破壊の感触が伝わってくる。

四撃目

段々と濃厚になってくる死の香りに嫌気がさす。

五撃目

爆破の音が鳴るたびにアントルの悲鳴は小さくなっていく。

六撃目

爆破によって加速した拳は、甲殻を貫く。

七撃目

全身を細かく砕いてき、甲殻よりも固い骨すらへし折れる。

八撃目

もはや、グズグズになった肉の感触が気持ち悪い

九撃目

そして、命も儚く爆発させる。

十撃目

「End!」


両手で五発ずつの爆撃。元々が生き物であったか怪しくなるような砕けたアントルを放っておき、次の獲物を屠る。


小さなナイフをもったゴブリンに対して、もう一度剣を装備しなおすと、すぐさま切迫し横薙ぎの一閃を放つも、たやすく弾かれ逸らされる。

瞬間に思い出すのは、俺の剣先を、指一本で逸らした2人の女。1人は魔王、1人はテンキクズシ。


両名に甘いと罵られ、遅いと舐められた。

ゴブリンに、あの二人と同じような目を向けられる。


体が熱くなる。頭が焼けるように痛い。

真上に逸らされ、重力に従って落ちてくる剣を見つめながらも、視界の端にはゴブリンが石斧を振りかぶってきているのが目に映る。


「ゴフッ!」


粗末な武器による袈裟斬りは、どちらかといえば打撃的で、思い切り仰け反ってしまう。


『お前、本当にEndに登っていたのか?塔を攻略していたのか?』

俺に問うてくるのは、過去の俺。その目は、侮蔑に滲んでいた。


「ああ、思い出したよ!クソッタレ…。俺はEndのプレイヤーで、阿呆なゲーマーなんだよ!」


いつかの俺は、この世界をゲームじゃないと言った。

だが、過去の俺が聞いたら笑うだろう。


『これは、Endの31作目だろう?何を馬鹿なことを』

俺ならそう言って、剣を握るんだ。


落としていた剣を下から斬り上げる。

斧によって防がれるが、一瞬力を抜くことで相手のバランスを崩し、石斧よりも長い剣先を獣に向ける。


今度はゴブリンのうめき声が響く。

当然、この怪物と違って一撃を与えた後の隙を逃すほど馬鹿じゃない。

続いて、先程そらされた横薙ぎ、石斧によって食らった袈裟斬りを返し、愛剣を牙の生えた口に突っ込む。

腹を蹴り飛ばして剣を引き抜き、回転しながらの一撃を見舞う。そして、トドメに魔石を目掛けて突きを放つ。


その断末魔を聞き付けたのか、違う群れのゴブリンやアントル達も寄ってくる。


「上等だ。十数年、この塔で積んできた経験を見せてやるよ!」


先も言った通り、Endというのは立ち回りが重視されるゲームであり、俺は全ての敵の全てのパターンを、完璧に把握している。

つまりは今更見知った敵が、たとえ現実的な怪物であろうと、俺の動きは変わらない。


右から飛んできた火の塊(ファイア)を剣で切り裂き、矢を片手で掴む。

ゴブリンたちの石の剣を、アントルの甲殻から出来た剣で逸らす。ちょいと力を込めれば、簡単に砕けてしまい、それを見て呆然としている化け物の顔に、蹴りを食らわせる。


後ろからの防御力低下魔法を、跳躍によって避けて懐の短剣をぶん投げる。

運良く眉間に当たったそれをみて、剣を抜き身のまま近づいていくと、叫ぶゴブリンの口を両断し、血をふりおとす。


3箇所から矢が風を切る音を立てて向かってくるが、1つは避けて、残りは空中で切った。

より近い方のアーチャーに【ペンシングショット】で近づき、魔石を破壊する。


弓と残りの矢を追い剥ぎ、ジョブを変更する。

振り向きざまに2発、すぐにジョブを戻して剣を拾う。


吐き気を堪えてアントルへと切迫すると、そいつは己の牙をうち鳴らす。

俺の肩に噛み付こうと歯を立てるが、既に下に潜り込んでいる。当然気づかれ全体重を乗せられる。


「ぐぅッ……邪魔だァ!」

剣でアリの体を支えて、鋸のように左右させる。痛みに悶え、思わず力を弱めたアントルに、両足で下側の腹めがけて蹴りを食らわせ一瞬空いた隙間から逃げ出す。


〔意思を確……


「【ボム】」


振り向きざまに火炎の一撃を放ち、瞬間で転移する。アントルが、最後の一撃で沈んでくれていて助かった。運がよかったのだろう。




先より死のにおいが薄まった洞窟で、しばしの休憩を取りつつ、独り言を漏らす。

「はぁはぁ、疲れる……。」


チートの代償を払わされるかのように、吐き気とけだるさが一度に襲い掛かる。

思わずその場に塊で吐き出すと、思考は鈍り、視界もかすむ。

チートによるものだとすれば、いつもより頭痛がひどい。


「あー、あれか。」


Endゲーマーにありがちなのが、脳疲労。

短い間に様々な可能性と行動パターンを分析し、ほぼすべての感覚をフル活動させるため、脳そのものが疲れてしまうのだ。


今まで、31作目のプレイ中には一度も起きなかったが、それだけ思考が腑抜けていたのだろう。そんな事実がたまらなく恥ずかしく思うと同時に、これからの自分に大きな期待を持つ。


あの頭痛に悩まされるたびに、この塔に対して本気である証明のように思っていたのだ。

まぁ、まじめなことを言えば、頭痛がするほどゲームをやるなという話であるが……


簡単な休憩を済ませ、もう一度登ろうかと考えたところで、今の自分が一人ではないことを思い出した。整った顔立ちの金髪の少女と、だれよりも俺を愛してくれている紅髪の少女のことを考えると、熱烈に会いたいと感じてしまう。


「帰るか」


〔意思を確認【塔内転移】〕


……To be continued

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