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End  作者: 平光翠
第3.5階層 トロワの幕間
55/200

第55話 死者?との邂逅

テンキクズシ達が死んでから2日がたった。

魔道テレビや新聞などでは3階層攻略について取り上げられており、何度か取材依頼も来た。だが、そんな気分ではないと断っている


部屋のどこかに放り投げた盾や武器はホコリ被っており、インベントリの中も空っぽだ。


イヴとレイは毎日部屋に訪れては慰めの言葉をかけてくる。カークス達も一緒に探索をしないかと誘ってくれる。


だが、あの塔を思い出すたびに、間近に迫った死の感覚が俺を襲う。

謎の声を聞くたびに足が震えてしまう。

自分の手を見るたびに、テンキクズシとオークの血でまみれた幻覚を見る。


結局のところあんなにも塔を『知っている』と言っておきながら、何も知らなかったのだ。

この世界をシステムによって守られた面白おかしいだけのゲームだと勘違いしていたのだ。


自分が死んでも、『ゲームオーバー』のメッセージが流れて、最初からやり直すだけだと馬鹿にしていたのだ。

スライムやゴブリンを殺すのも『ゲーム感覚』でしかない。


そんなふうに遊び感覚で楽しんでいただけだった。

所詮、ガキのごっこ遊びだった。


「塔をナメてんのはどっちだよ……!」


わざとベットを(きし)ませ体を投げ捨てる。

テンキクズシの最後の笑顔が頭に浮かび、惨めさと虚しさで涙が出てくる。

いっそ恨んでくれれば、憎んでくれれば、俺もクズに成り下がれたかもしれないのに。


「クエイフ…少しだけいい?」

突如、部屋の外から聞こえたのはレイの声だった。

あれだけ愛おしいと思ったにも関わらず、今では顔も見たくなければ話もしたくなかった。なにより、かっこ悪い自分を見せるのが途方もなく情けなかった。


ドアを開けようとする彼女を声で遮り、閉じきった部屋で誰に見られる訳でもないのにもかかわらず、短い間でずいぶんと弱くなった腕で自分の顔を隠す。

「入ってくるな」

「でも…」

「いいから!入らないでくれ…」


「…ごめんね。クエイフ。」

謝るのはこっちの方だ。勝手に巻き込んで辛い思いをさせているのは俺の方だ。しかし、俺は声が出ない。

ただ無言で天井を睨みつけるばかりで、動くことすら出来ない。


「確かにクエイフは2人を守れなかったけど…私にとってはカッコイイ英雄だよ…。どんな事があってもクエイフに着いてく。だから、開けて?大丈夫。誰もクエイフのことを責めないよ。」


やめろ。優しくするな。俺はレイに愛される資格なんてないんだよ。

英雄なんかじゃない。ただの愚かで馬鹿な阿呆だ。

「わかったような口で言うな!お前にあの塔の何がわかるんだ!俺が何回失敗して、頂上まで登り詰めたと思ってるんだ!お前はたった1回でも塔を攻略したか!?216回だ!俺は216回もあの塔をクリアした!837回も死んだ!ゲームオーバーになった!同じ敵に100回負けたことだってある!それだけ塔を見てきたんだよ!たかが、2階か3階登った程度の素人(ニワカ野郎)が知ったような口を聞くな!」


ドア越しに彼女に怒鳴り散らす。その行為こそカッコ悪く情けないものだと分かっているのに…


「………クエイフのわからず屋!死人は戻らない!死んだらそこで終わりなの!助けられたかもしれない。でも!助けられなかったから死んだの!それこそ、あの塔から見たら他愛も無いことでしょ!あの塔を理解してないのはクエイフの方だよ!バカ!」


「う……うるせぇ!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


〔…意思を確認……本当に転移しますか?〕

〔やめた方が……いえ、なんでもありません〕


〈End【3階層 ネザートロワーム】〉


転移すると同時に近くにいたゴブリンを殴り飛ばす。怒りに身を任せ馬乗りになった状態で殴り掛かる。グローブも篭手も嵌めていないため、手の甲の皮は擦りむけ、血が滲み始める。

ゴブリンのゴワゴワとした硬皮が、右手を血にまみれさせ、感覚を麻痺させていく。

動かなくなったゴブリンを踏みつぶすと、固い肋骨の感触が足に伝わり、骨をへし折る。

勢いが強すぎたせいか、左足はゴブリンの心臓部分と一体化してしまった。

勢いよく引き抜くと、ダラダラと流れる血を無視して次の標的へと突っ込む。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!クソがア゛!!」

付近を通ったアンドルを手に掛け、冷たくなった右手を押し付ける。

ゴブリンよりも硬い甲殻が、拳骨を砕いてゆく。

まだ足りない。もっと痛みを、死の実感を…。

腐ったゴミをあさるカラスのように自分の手で『死』を引っ張ってくる。


「ア゛ア゛!死ねよ!死んじまえよ!なんで…!死なねぇんだよ!クソが…クソがア゛!クソッ!クソッ!クソッ!」


「おやおや、随分荒れているなぁ?」

その声は1番聞きたい声であり、聞こえないはずの声だった。


「どうかしたのかい?まるで死者にあったような顔をして?それとも、私が幽霊にでも見えるのかい?」

「テンキクズシ!?なん…で…?」

傍らには彼女を守るようにオークが立っている。


「いやねぇ。何故か生き返ってしまったんだよ。まぁ、それも含めて探しに行くつもりではあるが、その前に…」


どこか、怪しく蠱惑的な笑みとともに彼女は指を向ける。

「君との決着が先だ。あの勝負はまだ、終わっていないだろう?オルクス、手を出すなよ?」

「かしこまりました。」


クエイフには、恐怖と不安が入り交じっていた。また失うのでは?死なせてしまうかもしれない。次こそ本当に守りきれない。

だが、それ以上に


「ここで引いたら、Endプレイヤー失格だな。少し待ってくれ。装備を整えてくる。」

「そう来なくちゃな。」


塔内転移で家に戻ると、埃かぶった鎧を綺麗に掃除して、インベントリを整える。


「イヴ!イヴー。すまんが、回復魔法かけてくれ。」

「クエイフ様!?それは、構いませんが…。どこに行かれていたんですか?」

「ちがうよ。今から行くんだ。あの塔に。帰ったらレイと3人で話そう。」


彼は何も言わない。しかし、彼女は分かってしまう。このどうしようもないゲーマーを愛してしまったから。


「やはり、その転移。キョーミが湧くなぁ。どんな原理だ?」

テンキクズシは転移で戻ってきたクエイフを睨む。

「俺もそれは知りたい所だ。そのために、お前に勝たなきゃいけない。」

それに対して、軽口と宣戦布告で返すと、ジョブチェンジで篭手を装備する。


「では、両者位置について、始め!」


オルクスが開始の合図を担当すると、すぐさま2人は切迫する。ルールは簡単、死なない程度に殺し合う。それだけの事だ


お互いに左フックを叩き込むも、お互いにそれを防御する。テンキクズシは自分の頬に打ち込まれた拳を、雲で包み込み固める。それに対して俺は、右腕の関節部分でテンキクズシの左フックを抑えつけている。


「【霰玉(あられだま)】!」


テンキクズシの口内から氷の塊が飛び出してくる。ギリギリで避けたそれは、後ろの壁に激突する。だが彼女は避けられることが狙いだったらしく、テンキクズシの腕を抑えていた、右腕の関節部分が凍り始めていた。


〔意志を確認【ジョブチェンジ『モンク→ウィザード』】〕

「【フレイム】!」

咄嗟に自分の腕を燃やし、何とか氷結は回避したが、煤けた右腕はジクジクと痛んでいる。


「火よ、暴走せよ!【ボム】」

「【衝撃吸収雲ショックダウンクラウド】」


左腕からはなったボムも柔らかい雲によって吸収されてしまう。だが、一瞬だけ彼女の視界は、自身の雲によって阻まれた。


その隙を逃すほど、Endゲーマーは甘くはない。

〔意志を確認【ジョブチェンジ『ウィザード→リベンジランサー』】〕


愛槍である『点破砕槍』を装備し、反逆心を震わせる。

復讐(リベンジ)ではなく再挑戦(リベンジ)


「【ドリルリベンジャー】!!」


だが、彼女はゆっくりと溜息をつき、嫌な笑みを浮かべる。悠然と差し出した右腕はクエイフの槍を受け止めるつもりなのか、人差し指のみが向けられている。


「ジョブに対する熱意が甘い。コロコロ変わるから扱いきれてないんだよ。何がゲーマーだ、甘ったれが!!!」


中級職の槍を片腕、指一本で受け止め威力を殺す。

槍の先端はテンキクズシではなく、その下の地面をえぐることになり、さらにその上から踏みつけた彼女の重さでへし曲がる。


「その程度ならば私は守れない。お前ごときに守ってもらいたくなどない。【朝焼けの回転雲モーニング・グローリー】」


テンキクズシの右腕から高速で風が吹き回る。

複雑な気流がおかしな形で絡み合い、その中に発生させた雲が竜巻を横倒しにしたかのような奇形をとる。


当然、回転する雲がただの雲であるはずもなく

「【超高層雷放電(ハイ·スパーク)】」


雲の中の雷。

その放電は雲の中にのみ反射する。決して外に出ることなく、監禁された雷は小さな回転雲の中で暴れ回る。


「ア……ガハッ!!!」


回転する雲により、体が切り刻まれる。ぱっくりと開いた傷に流し込まれた雷撃は、全身を駆け巡り苦悶の衝撃となった。


「勝負あり!!」

「やりすぎたか?【上位回復雨(ハイヒール·スコール)】」


オルクスの掛け声によりすぐさま回復がかけられる。

言うまでもなくクエイフの負けである。


「クエイフ、お前はやはり1人では弱いな。次はあの二人も呼んでこい。3対1でもいいし、オルクスも入れてもいい。ともかく、また会おう。」


敗北をかみ締め、その場に佇むクエイフに対し、慰めるような言葉と再会を願う言葉がかけられる。

当然、彼は「次は負けねぇ」と宣戦布告を返す。


ゲーマーとしての言葉と、一人の男としての言葉と、守りきれなかった勇者としての言葉と、惨めな敗北者としての重み。


クエイフは笑い、テンキクズシは口角を上げ、オルクスはそんな2人に呆れ、そして釣られて笑みを浮かべる。


……To be continued

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