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End  作者: 平光翠
第3.5階層 トロワの幕間
54/200

第54話 天才とメイドの旅行記

典型的なメイド服の少女は、とある雑貨屋でアイテムを買っていた。


「回復薬、魔法瓶、砥石、投げナイフ、何かしらのネジ…ネジ?まぁ、あの人なら何かに使うのでしょう。」


探索者なら必須のアイテムや、何に使うのかわからない工具類など、まだ若々しい少女が持つにはあまりにも大量の荷物を、花束でも抱えるかのように可憐に持ち歩く。


「ただいま帰りました」


そして、彼女が入っていったのは至って普通の民家であり、決してメイドが仕事をするような屋敷ではなかった。


「おい、遅いぞ。メイ·カーレン」

「申し訳ございません、お坊ちゃま。雑貨屋の店主が頑固者でして、値切るのに時間がかかってしまいました。」


メイが深々と頭を下げると、()()()()()は、わざとらしい舌打ちを部屋に響き渡るように鳴らしイラだった口調で彼女を責める。

「値切りなんぞ頭の悪い貧乏人のすることだ。天才のボクや、その従者のメイ·カーレンがすることではない。」


あまりにも傲慢。無礼極まりない態度を取りつつも、彼はさらに続けようと口を開く。

そこから5分もの間、彼女の人間性や態度、果ては品物の値段を安くしてくれた雑貨屋の店主への罵詈雑言を喚き散らす。


しかし彼女は、なおも頭を下げ続ける。

「遅くなってしまい申し訳ございません。ご心配をおかけしました。」

「べ、別に心配していた訳では無い。ただ、メイ·カーレンが、どこかで迷ってるのではないかとか、変な輩に絡まれているのではないかが気になっただけだ!心配していた訳では無い!」


メイはクスクスと笑みをこぼし、

「そうですね。心配はしてくれませんよね。ええ、分かっています。」

「……まぁ、値切りには成功したんだろ。それならよしとしてやる。……あと、少しだけ、本当に少しだけだぞ?少しだけ心配した。帰ってこないんじゃないかと怖くなった。」


「………!坊っちゃま……」

「そ、そんなことより!買ってきたものを出せ。明日から塔に入れるようにする。あまり、準備をしすぎてもつまらんからな。」


傲慢で高飛車で不遜。

科学者全員を鼻で笑い、天才的な芸術家たちに中指を立て、オリンピック金メダリストを雑魚呼ばわりする彼の名は、ジース·ニアディジー。

Endの世界に来る前は、そこそこ名の知れた天才科学者として多少有名人であった。が、その難ありな性格によりテレビはおろかありとあらゆるマスメディアに公開されることは無かった。


そんな彼は、電気という概念もないこの世界で、何やら怪しげなものを作り出す。


しばらくすると完成したのか嬉しそうに微笑み、自分の10倍はありそうな四角いボックスを運びだそうとし始める。


「この大きさでよく宿屋の床が抜けませんね…。」

「や…宿屋の床に……重力無効化装置を…付けたんだ。こいつには…装置の性質上…付けられないけどな」


持ち上げることを諦め引きずろうとするもビクリともしない立方体は、脂汗を垂らすジースを嘲るかのように不動を貫く。

メイが装置に近づき手を添えると、巨大な豆腐でも持つかのようにひょいと持ち上げる。


「え?えぇ……。16tはあるのに…?」

「わぁ重いですね。」


彼女のステータスは普通の少女より少し高い程度。

だとすれば、なぜ、16tもあるこの装置を持ち上げられたのか、それは彼女の着る服に秘密がある。


「説明しよう!メイ·カーレンの着る『パワードスーツ:モデルクイーン』は、身体能力(ステータス)を2万倍にし、全てのダメージを76.22%減少させ、肉体欠損や精神磨耗などを15秒に1度全回復させ、ありとあらゆる耐性を獲得する、超過保護装備なのだ。なお、『モデルクイーン』は素材の都合で女性にしか着れないうえ、男性用のものも作れるが、()()()の都合でジースさんは着ることが出来ないぞ!」

「……誰だ今のは?」

「説明の田中さんでございます。」


田中と呼ばれた中年の男性は髪にワックスをベッタリと薄気味悪く光り輝くほどつけて、きっちりとした七三分けの髪型に、夢に出てきそうなほど紫がかった派手なスーツを着て登場する。

そして彼は、にこやかな笑みを浮かべながらテレビでしか見ないような先端が赤いマイクを下ろし2人に挨拶をする。

「あ、こんな感じで説明していくんでよろしくお願いします。」

「娘さんも似たような仕事をしているらしいですよ。」



〔くしゅん〕

「誰かくしゃみしたか?」

「……違うけど。」

「私でもありません。」

〔すみません、誰かに噂されているようです。〕

「謎の声のくしゃみ!?」




「なんだか、くだらないコントに付き合わされた気分だ。」


ジースは不機嫌そうにつぶやくと、メイとともに宿屋を出て塔の前まで向かう。


「あれ?田中はどうした?というか、下の名前はなんだ?」

田中がついてきていると思っていた彼は拍子抜けしたように首を傾げる。呼んでも出てこないと分かり、仕方ないと言わんばかりの面倒くさそうな態度で装置を指さしメイに説明をしようとする。


「この装置はな…

「説明しよう!この装置は蘇生可能時間であれば強制的に蘇生させる、魔導式完全蘇生装置なのだ!大気中の魔力を吸収し、蘇生させたい生物にショックを与えることにより、一瞬ではあるものの奈落へ向かおうとする魂を引き止め、30秒で蘇生魔法を詠唱し続ける装置である。」


突如として現れたのは、先ほどよりもワックスをつけ、七三分けが八二になっている田中であった。

「もうシンプルに気持ち悪いし、こいつ怖いわ。」


紫のスーツはさらに赤みがかっており、派手さを増していた。しかし、説明を終えると、瞬きをする間に消えてしまっていた。


「本当になんなんだあいつは!」

「説明の田中さんです」


装置の中心にある明るい青色のボタンを押すと、機械のような駆動音を立てはじめる。ジースが隣の白に近い水色のボタンを押すと、同じ色をした透明の膜のような光が2人を通り抜けてゆく。

3m程度の場所で光の膜は留まり、水色はより青に近い色となる。


「これは…

「説明しよう!この水色の膜は完全蘇生装置を防御するための光の壁である。登録した動物(ジースさんとメイさん)と、光が通過した時に存在した動かない植物しか入れない。無理に入ろうとすれば攻撃が開始される、中にある状態で擬態していたとしても、ほんの少しでも動けばやはり攻撃が開始されるのである!さらに、具体的な攻撃内容としては、1分間に606発の【マジックボール】を放つことが可能である!あの、私も中に入れてくれませんかね?」


「無理だな。装置を作った時点で登録してしまったからな。今から登録するとなるとこいつをバラバラにしなきゃならない。たかだか3m程度我慢しろ。」


ジースの慈悲のない拒絶に田中はわざとらしい涙を流す。ガチガチに固められているであろう八二分けの髪も心なしかふにゃりとしている。


「この装置の中では僕とメイ·カーレンしか動けないという事だ。さらに言えば、この装置のボタンを触れるのは僕だけだ。うっかり触るなよ、メイ·カーレン」

「かしこまりました、お坊ちゃま。」


当然のように田中はいつの間にか消え去るが、2人は特に気にせずに装置の動作テストをすることにした。


▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

〈End【1階層·アインス洞窟】〉


「こちら……イ·カーレ……スラ……務にかかります。」

小型の無線機のような魔道具からメイの声が聞こえるが、ノイズ混じりで聞き取りにくい。

ジースが無線機の上のツマミを回すと彼女の声がより鮮明に聞き取れるようになる。


「こちらメイ·カーレンです。スライムの討伐任務にかかります」

「こちらジース。そろそろ田中の説明が入ると思うが、無視してスライムを2体、討伐してくれ。」

「リクエストにお答えして説明しよう!この装置は魔道電池によって動いており、ジースさん特製の最大効率魔道電池を使用しているため、6時間程度の通話が可能である!なお、装置の仕組みだが、ジースさんの世界にある【けーたいでんわ】を元にして作っているらしい。」

「そう言えば、小さい頃、父親のスマホを分解してダメにしたことがあったな…。今なら元に戻せるが、若気の至りというのは恐ろしいな。」


メイが居ないため、田中に話を振る。当然田中は消え去ることが出来ずに苦笑いを浮かべるしか出来ない。


「こちらメイです。スライム2体倒しました」

「………少しタイミングがズレたがショックが2回作動した。ログを見る限り、復活はしたが、気絶状態に入ったらしい。離脱準備をして様子を見てくれ。」


じっくり3分掛けてスライム2体を観察するも、一切反応はない。

「……?まさか、失敗か?理論的にはEndの12作目『直立不動のワンフロアタワー』の最上階まで届くことになってるんだがな…。」


彼の言う12作目はタイトル通り、一階一階が一部屋(ワンフロア)しかなく、シリーズ最高の149階層まである(頂上を含めて150ピッタリ)


「ジーズさん、説明しましょうか?」

髪をガチガチに固めるために過剰につけられたワックスの匂いを漂わせながら、ニコニコと田中が話しかけてくる。


「出来るのなら…

「説明しましょう!完全蘇生装置のログには復活対象の名前が表示されます。そちらをご覧下さい。そう!『テンキクズシ』『オルクス·タイタン(種族名:オーク)』と表記されています。つまり、復活は成功しましたが、同時復活数を2体に絞ってしまったが故に、タイミングよく死んでしまった2人を復活させてしまったのですよ!」


なるほど、と感心しかけるもまだ疑問は残る。

しかし、それを口にする前に、田中は説明を続ける

「何故この2人だったのか、それはスライムよりもメイさんやジースさんに近い生物だったのでしょう。この装置は元々お二人が万が一、死んでしまっても奈落に行くことを防ぐ装置です。つまり、人間とは程遠い変化種のスライムよりも、亜人型混合種のオークが優先されたのでしょう。『テンキクズシ』は、聞いたことの無いモンスターですね。新種かモンスターではなく人の名前かもしれません。

まぁ、あくまでこれらは推察でしかありませんが…。」


田中の長い説明を聞き終え、矛盾点がないかなどを瞬間的に考え、ジースはさらに納得のいくような仮説を立てる。しかし、それら全てが田中とおなじ推察でしかないと結論付けて、思考を放棄する。

「まぁ、生死については僕ですらわからないことが多い。この装置が生き返らせたということは、()()()()()()のかもしれないな。」


……To be continued


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