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End  作者: 平光翠
第三階層 ネザートロワーム
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第53話 テンキクズシの書庫

彼女の最終手段。

決死の自爆攻撃は俺たちに直撃する。

至近距離の爆発により吹っ飛んだ俺は壁に叩きつけられ、多少離れた位置にいたイヴとレイは地面を転がってゆく。


「ハァハァ……ゴホッゴホッ!油断したな人間共。」

「正真正銘、隠し球ってわけか…。」


さすがの少女も余裕の表情は崩れ、今にも倒れそうだ。

突如として吹き荒れた暴風は、彼女の纏っていた雲も弾き飛ばしてしまったようで、ボロボロの下着姿でフラフラしている。


「お互いにあと一撃…。まるで物語のようだ。」


彼女は崩れた不敵な笑みを取り繕うように表情を立て直しつつ、俺たちに聞こえる声で、しかし、小さく呟く。


俺はそれに答えず、ロングソードを構える。


「【雲纏(クラウドマニア)】」

「【蟻金属半剣(アントラントソード)】」


2人の叫びは交差し、一気に距離が縮まる。

俺の振るった剣は、彼女の右腕にまとった雲に絡め取られる。だが、その手は予想してある。剣を手放し、腰から短剣を引き抜く。

抜刀した短剣を構えることもなく、抜き身のまま少女の脳天めがけて突き刺す。


少女は首を後ろに下げて避けるも、その整った鼻先を斬り裂く。短く舌打ちをすると、固まった雲が俺の腹部へと向かってくる。鈍い音と俺のうめき声が漏れると、彼女はニヤリと笑う。


〔アンロック:『リベンジランサー』〕


「【ジョブチェンジ〈ソードマン→リベンジランサー〉】」

「中級職か…まだまだ隠してるもんだな!」


彼女の決定的な強さは、その対応力である。

中級職のスピードだと言うのに、たった一撃を入れただけで、次の攻撃は見切られる。


さすがに、槍を絡め取られるようなヤワなスピードでは無いが、全て見切られ弾かれる。


〔意志を確認:【ジョブチェ……


ハンマーをインベントリから取り出して少女の頭めがけて振り下ろす。

「【バインド】!」


イヴの、寸前での妨害魔法により少女の動きは阻害される。

確実に頭を潰すには至らなかったが、肩口に当たったハンマーは少女をフラフラとさせ、今にも倒れそうだ。


「レイ!」

「【アサシンスラッシュッッ】」


俺の攻撃が読まれるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()


寸止めで当てられた剣はあと少しでも動けば彼女の首を切断するだろう。それでも彼女は不敵に笑い、余裕を崩さない。


「君たちに私を殺せるのか?」

「殺せるわけないだろ。お前は何も悪くないんだからな…。」

「ぬるいな…。」


ただ知識を追い求め、自分を知ろうとするだけの少女だ。

魔王という悪魔による被害者の1人だ。


「ヒヒッ!ちょっとおイタがすぎるんじゃないか?」

「許す。嫌だ。殺す。」


不気味で異常な威圧感。当然ながらその正体は魔王とアバドンであり、吐き気を催すほどの殺意を滲ませている。


「あぁ〜クエイフ♥会いたかったよぉ♥」

ゾクリと、首筋を舐められながら全身を犯されるような気持ちの悪い声が耳に粘つくように響く。

名前を呼ばれるだけで震えが止まらなくなり、体が固まってゆく。


助けを求めようにもそもそも声が出ない。


「クエイフ。私のこと覚えてる?そっか、忘れちゃったんだね。でも大丈夫。これから忘れないように私のことを刻みつけてあげるからね。ヒヒッ!」


戦慄。恐怖。逃走。怖い。怖い怖い怖い怖い。

ただ純粋に恐怖であり、それ以外の感情が湧いてこない。


「さて、邪魔者共を殺しますかね。ヒヒッ!」


小さくアバドンの名前を呼ぶと、いくつものバッタが少女めがけて飛来する。

「危ない!」

「テンキクズシ様!!!!!」


少女を貫くはずだったバッタは、突如として現れたオークを貫いていた。

「オーク君!?なに…して…?」

「貴方が無事でよかった…。」


オークは、彼女を庇ったのだ。理由はわからない。だが、そこには確かに物語だけのものでは無い感情があった。


「【回復雨(ヒールスコール)】!【回復雨(ヒールスコール)】!」


「無駄。傷。治る。有り得ない。」

「イヴ姉!回復してあげて!」

「【ハイ・ヒール】!」


傷が治るわけがないと、嘲笑うアバドンを無視してイヴは回復する。魔王も、無駄なことをする二人を笑っていた。


「アバドン、トドメをさせ。」

「了解。」

「やらせるわけねぇだろ!」


ロングソードを振りかぶり、アバドンへ向けて走り出す。

飛来するバッタを切り落とし、その剣先が彼に届く寸前で逸らされる。

「クエイフ♥ゲームより剣が甘いなぁ。あの中ならもっと速く私を切れたのにな…。」


たった指一本で外されたロングソードは何も無い空を切る。


「届いた。」

アバドンは、俺を視界から外すと後ろにいるはずのテンキクズシに目を向ける。


「ヒヒッ!所詮君はオークもテンキクズシも守れないのさ。残念だね、()()()()。」


アバドンのバッタに貫かれたテンキクズシは、内側に入り込んだバッタに苦しめられもがき始める。

しかし、アバドンは躊躇いなくバッタを爆発させる。

体の中からはじけ飛ぶ感覚で死んでゆく彼女は、何故か笑っていた。


まるで、オークとともに死ねるのが嬉しいように……。


「ヒヒッ!いいねぇ、その呆然とした顔。どうだい?守れない気分は?元の世界でもあの二人を見殺しにした時はそんな顔をしていたよねぇ♥ヒヒッ!」


ゾワゾワとミミズのように細い指が俺の頬を撫で付ける。

気持ち悪い感覚に振り払うことも出来ずに、散ってゆくテンキクズシとオークを見つめていた。


やめろ。そんな顔で死なないでくれよ。守れなかった俺たちを恨むような、胸糞の悪くなるような顔をしていてくれよ。

俺を責め立てて恨んでくれよ。


「さて、キスでもしようか♥」

「……!【塔内転移】!」


我に返ったレイは、塔から離脱する。

運が良かったのか、アバドンがバッタを体に戻したため、戦闘状態が解除されて塔から逃げることが出来た。




「チッ!帰るぞアバドン。」

アバドンは頷くことなく、死んでいった2人を見つめていた。


三階層ネザートロワーム攻略完了……To be E()n()d()

四階層死教会攻略開始……To be continued?

















▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

〈End三階層【ネザートロワーム・テンキクズシの書庫】〉


ここはどこだろう?

私は……そうだ、テンキクズシだ。


オークは?あの優しい怪物はどこだろう?


「テンキクズシ様。そんな格好では寒いでしょう?こちらをとうぞ?そして、貴女の知りたがった()()を見に行きましょう?」

「そうだな。1番知りたかったことはもう知ってしまったからな。今度は世界を知ろう!」

「自分の正体…でございますか?」


彼女は首をふり、余裕の表情と不敵な笑みを浮かべる。


「『恋心』ってやつさ。」

テンキクズシはオークの手を取り、塔から出ていく。


二人の見る世界は、どんな世界なのかは誰もわからない。


それでもきっと、二人一緒なら幸せなのだろう。

それが『恋』ということなのだから。


……To be continued

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