第47話 テンキクズシ
〈End三階層【ネザートロワーム・元骸骨騎士の訓練場】〉
私は誰だろう?
ここはどこだろう?
真っ暗だ。いや、これが普通なのかもしれない。
明かりが欲しい。でも、そんなもの存在しないのかもしれない。
暗いのが怖いなら、崩してしまえ。
『【私自身が天気である】』
今のは誰の声だろう。まさか私の声なのか?
すると、突然眩い光が視界を遮る。
「キャッ!眩しい!?」
これが光?違う!私の求める光は、もっと優しいものだ。
見たことは無いけれど、きっと、そんな光があるはずだ。
『【望みの気候】』
また、誰かの声。いや、きっと私の声なのだろう。
「弱くなった?ああ、これなら見える。」
何も見えないような暗黒の視界は、晴れた日の草原のように明るく輝いている。(まぁ、晴れた日の草原なんて見たことは無いが…)
ここはどうやら部屋のようだ。
何も無い部屋だ。土色の壁、目の前には大きな扉が一つだけあり、その反対側は通路のようになっている。
「この扉…開けられそうにないな。通路の方に行けってことかな?」
なにかの音が聞こえる。
初めて聞いた自分以外の声。
ドスドスと大きな音を立てながら歩いてくる。
現れたのは、なんだか良く分からない生き物だった。
体長は、私よりもほんの少し大きい。
お世辞にもまともとは言えない醜悪な顔、ピンク色の皮膚に、蹄のような手で槍を持っている。
「あなた…だれ?」
「はじめまして、新しい階層主よ。私はオークです。あなたの手足となり、この階層と貴女をお守り致します。」
オークと名乗った獣は、槍を高く掲げ忠誠の意思を示す。
「おや?何も着ていないのですか?肌寒いでしょう。すぐに用意致します。」
私の方を見て首をかしげたオークは、すぐに目をそらし服を用意してくれるという。
たしかに、先程から胸部の2つの膨らみが薄気味悪く揺れていて、動きにくかったのは間違いない。
それと、砂利を踏んで痛いから、足を守れるようなものも欲しい。
20分ほど待つと、女物の下着と、女が着ないような鎧を持ってくる。
「その鉄の塊の方はいらないかな。白い布の方だけでいい。」
さすがに下着だけでは寒いままだし、このまま出歩くのもオークの精神衛生上あまりよろしくない。
「えーと、これで合ってるのかな…?【雲は形が変わる】」
自分の体を覆うように、灰色と白色の雲が現れる。
雲であるためモコモコとしており、案外着心地は悪くない。
「ねぇ、私は何をすればいいの?」
「貴女は、ただこの階層にいて、その扉を開けようとするものを、叩きのめせばよろしいのですよ。」
「ふーん。」
私はつまらなそうに呟く。いや、事実つまらない。
『【雲の中の雷撃】』
バリバリバリッ!ゴロゴロ…
「え?何今の…?」
私の左手の雲が光り始めたかと思えば、突如目の前のオークを黒焦げにした。
どうやら、『つまらない』と無意識で思ったので、それを打ち破るための魔法を使ったのだろう。
さすがに、服を持ってきてくれて、目的を教えてくれたオークにその仕打ちは酷すぎるので、頭に浮かんだとおりに回復魔法をかける。
「えっと?【回復雨】」
オークの上に発生した雲は、ポツリポツリと雨を降らせ始める。
「あぁ、回復していただけるとはありがたき幸せ…。」
完全回復したオークは無視しておき、何となくの目標を立てる。
「ねぇ、ここまで来るような奴って強いの?」
「そうですね、ここにくるまで、手強い敵が多いですから。」
「なら、そいつに勝ったら、オークの来た方の通路に行って、この暗くて狭い世界から抜け出す。」
「なるほど、素晴らしい考えでございます。」
この、天気を崩す能力で世界を見に行こう。
私が一体誰なのか、私が私になるために、ありとあらゆる知識をかき集める。
これが、私であり『テンキクズシ』だ。
その前に、この階層を彷徨いている敵を殺さなくてはいけない。
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〈同階層〉
「雨…塔の中で?おい、魔王。お前さっき何を創ったんだ?」
「さあね。創ったのは私だけど、ヒヒッ!育てるのは別の誰かだからね。どうなるかは知ったこっちゃない。」
今度はシンシンと雪が降り始めた。あいだを通り抜けるような雷が、遠くから接近してくる台風の音をかき消す。
バチリと、魔王の左手が電撃で焦げた。
シャドモルスは近づいてくる台風に、恐怖を抱きながら影に沈もうとする。
「チッ!流石にやりすぎた。この階層を出るぞ。ヒヒッ!」
「だめだ、俺は…影ガないかラ…うごけナい……。」
先程まで影を作っていた光源は、雲によって取り囲まれており、シャドモルスの影移動が使えない。
「奥の手は隠しておきたかったけど…。」
突如、魔王とぐったりとした様子のシャドモルスは、どこかへ転移する。
「キャァ!ねぇねぇ、どうしたの?2人がそんなふうに帰ってくるなんて、ねぇねぇ、おかしいじゃない?」
「殺す?敵?」
アスモデウスは、魔法によるファッション写真集から目を上げて2人に聞く。
アバドンのほうは、かなり慌てているようで、バッタがいくつか溢れだしている。
「大丈夫だ。転移を封じられた。このバカが前に創った新しいボスの暴走らしい。」
「殺す。」
「ヒヒッ!だめだ。あれはなかなか創れない。ヒヒッ!」
アバドンは、怒りが収まらないのか、様々な所からバッタが溢れては、弾けて血を撒き散らす。
「アバドン、私のために怒ってくれてありがとう。でも、いいんだ。」
そっと、彼を抱きしめる。
その姿は正しく母のようなものであり、アバドンも落ち着いたようだ。
「魔王。好き。」
「私もアバドンのこと好きだよ。ヒヒッ!」
そこには、確かに親子であった。
「でも、許す。嫌だ。殺す。 」
……To be continued




