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End  作者: 平光翠
第三階層 ネザートロワーム
46/200

第46話 ゴブリンLv2

〈End三階層【ネザートロワーム・骸骨騎士の鍛錬場】〉

ここは、三階層のボス部屋。

おぞましく恐ろしい骸骨が、叫喚と共に少女へ向けてサーベルを振り下ろす。


「шцыытл」

「騒ぐな。骸骨風情が…」

少女が吐き捨てるようにつぶやくと、一匹のバッタがボスである『スケルトンナイト』に無謀にも挑戦する。偶然なのか、少女を庇うように跳んできたバッタは、当然のようにサーベルによって切り裂かれ、()()()()


「一人、魔王、ダメ、歩く。」

「ヒヒッ!相変わらず何言ってるかわかんない。面倒臭いの創っちゃったな…。ヒヒッ!」


「魔王が1人で歩くのは危険だ。護衛を連れてけって言ってるんだよ。」

「シャドモルス。どこ行ってたんだ?」


突如として魔王の影が分離し、片方が青年の形に変化し始め、奈落の王の独特の話し方をわかりやすいように訳す。


「俺とアスモデウスは、てめぇの創った趣味の悪ぃ骸骨をあいつらに渡してきたんだよ。」

「ねぇねぇ。レイちゃん可愛かったわよ〜。本物はやっぱ違うのよねぇ。ねぇねぇ。」

「ヒヒッ!実際にクエイフの前に立ったら、うっかり殺しそうだったし、代わりの写真、撮ってきてくれた?」


魔王は、シャドモルスはともかくどうやって現れたのか不明のアスモデウスに詰め寄る。


「写真ね。ねぇねぇ。撮ってきたわよ。」

「クヒッ!ヒヒヒッ!あぁ〜クエイフ…♥」


6枚から7枚ほど撮られた写真のうち、5枚ほどがレイの写真であり、様々な角度から隠し撮りされていた。


「かっこいいなぁ〜。クエイフ♥」

「見せて。」


アバドンは、恋敵に興味を持ったのかどんな顔をしているのか見ようと、2人に近づいて写真を見る。シャドモルスの方は、直接見てきているのでさして興味がなさそうだ。


「おい、ボス部屋で余裕そうだな。三階層のボスを勝手に変えるって話はどうなったんだ?」

「ねぇねぇ、ちょっとぐらい大丈夫よ。」

「頭。固い。」

「ヒヒッ!確かに、シャドモルスの頭は固いよね。ま、さすがにそのぐらいなら分かるよ。だいぶ怪しいけど…。」


ガラガラと崩れていくスケルトンナイトは、自分の死に際を誰にも見られないことを悲しく思いながら、しかし、とうの昔に涙が枯れているため、偽物じみた感情しか抱けない。


「……!!これ…!」


アバドンが突如として、大きな声を上げる。それに共鳴するかのように、ほかの3人の足元を複数のバッタが通り抜ける。


「どうした?」

「シャドモルス。これ。これ!」

「あ…?そいつは……イヴっていったかな。その女がどうかしたのか?……お前、まさか!」


そう、そのまさかである。シャドモルスの予想するとおり、アバドンはイヴに一目惚れをしてしまったのである。

いや、恋そのものは規制されるようなものでは無いが、方や勇者パーティーの魔法使い。かたや奈落の王。

いうまでもなく、結ばれる可能性は低い2人だ。


「おいおい、アバドンの恋愛事情なんてどうでもいいが、ここのボスを創り始めるぞ。ヒヒッ!」


そんな彼は、『どうでもいい』と言われたことに対しショックを受けるも、新たなモンスターの創造─生態系の()()()()の手伝いをする。





「ヒヒッ!こんなもんかな。名前はそうだな…『テンキクズシ』とかでいいだろ。ヒヒッ!」

「……?()()()()()()()、だいぶ余ってないか?」

「ついでだから、『研究』をするんだよ。」


己を破壊することにより生じるエネルギー。それを具現化して、モンスターを生み出している彼女は、今回、わざと余剰に破壊エネルギーを溜め込み、いつか二階層で見た通りに研究を開始する。


「『Lv2』か…。あのクソ博士の研究で何をする気だ?」

「前も言ったろ、クエイフは暗所恐怖症。そんな所で異常が起きれば慌てふためくだろう。」

「そうなれば殺しやすいってことか?」

「そ…。ヒヒッ!クエイフは上手くやってくれるかな…?ヒヒッ!ヒヒッ!ヒヒヒッ!」


▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

〈End同階層〉


「レベリングもしたいし、モンスターハウスの再出現(リポップ)を待って、1回帰ろう。」

「了解しました」

「…うん。」


3人がモンスターハウスを迂回するように、塔を出ようと歩き出す。

「とりあえず、二階層に行ったら転移する感じで行くから。」

2人は頷く。


しばらく3人が歩いていると、翼のはばたく音が聞こえる。

徐々に近づいてきたその羽音は、異形の姿を現す。

異形─フライバットは、スライムと交戦中の2人の少女を見て、疑問に思う。

はて、こんなところにスライムがいるものなのだろうか?

しかし、加勢しないわけにはいかない。


「эдхшы!」


叫び声をあげながら、スライムを助けるために少女達へ突っ込んでゆく。


「バーカ。【スラ・ストライク】」


加勢するはずのスライムは、()()()()()()()()()()必殺技であるスラ・ストライクを放つ。


「юъц?」

スライムだったはずのソイツは、体の形が人間に変わってゆき、両手棍(ウォーハンマー)を手にしている。


自分に()()が叩きつけられる寸前まで、騙されることに気づかないフライバットだった。


「クエイフ、連戦。」

「作戦成功って喜ぶ暇もねぇか…」


感じたことの無い重圧に、『スライムLv2』かと予想するが、水音は聞こえない。

「獣臭い…ってことは、ゴブリン?」

「おそらくLv2だろうな。」


その通りだったらしく、現れた緑の怪物は普通のゴブリンではありえないスピードで跳躍してくる。


〈意志を確認…

「【オーバーヘイト】!」


3人まとめて攻撃するつもりだったのか、両腕を大きく広げてこちらに向かってきているので、3人がバラける前にある程度のヘイトを取っておく。


イヴとレイは、それぞれの方向へ走っていき、俺は盾を構える。


ガギンッ!


盾が壊れるのではという程の衝撃、さらにそこから、連続的に攻撃を喰らう。


盾で弾こうにも、そのタイミングが掴めない。

ゴブリンは、攻撃を読ませまいとある程度のランダム性を持たせている。それが原因で、反撃ができないのである。


イヴとレイも、ぴったり俺についているゴブリンに攻撃ができないでいる。弓や杖を構えては、苦々しい表情でそれらを下ろしていた。


「…クッ!ああ"!なんなんだよ!」


このままでは、盾の方が壊れてしまう。そうなれば、必死に振り回している爪の餌食となるだろう。

ジョブチェンジをしている時間もないし、できる気もしない。


「2人は逃げろ!俺もスキをついて逃げる!」


ほとんど詰みの状態だ。死にたくなければ、恥を晒しながら逃げる他ない。

転移は戦闘中には使えないので、足で逃げることになる。

となると、2人を逃がしてから盾で攻撃を防ぎつつ、逃げるのが1番いいだろう。


ゴブリンのほうも、俺が逃げようとしていることに気づいたのか、盾ではなく俺自身へも目を向けるようになってきた。


「マジかよ…そんな余裕を残してるとは…思わなかったな。」



その余裕の正体は、謎の声のアナウンスにより明らかになる。

〔種族名:ゴブリン(Lv2)

個体名:003(魔王による命名)〕


2人は上手く逃げたようで、姿が見えない。


〔逃亡の意思により、『()()』のスキルがレベルアップしました。ジョブ『勇者』は、現在Lv2です。〕


〔スキルにより強制変更:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→ブレイブガーディアン〉】〕


逃げることは恥ではない。立派な決断であり、それもまた()()と呼べるだろう。


先程よりも、研ぎ澄まされた感覚が、確実にゴブリンの体に追いつく。


「今だ!」


ゴブリンがこちらに爪を振り下ろすそのタイミングで、盾を前に突き出す。


今までの受動的な衝撃ではなく、能動的な、明らかに感覚の違う衝撃が盾を通じて伝わってくる。


「【ブレイブシールドハンマー】」


ゴブリンが吹っ飛ぶ寸前で盾を振り下ろし、ゴブリンを地面に叩きつける。

〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ブレイブガーディアン→ブレイブソードマン〉】〕


「【ブレイブ……



スラッッッッシュ】!」


ドン!!


ゴブリンの首が吹っ飛び、瞬間、俺が見ている景色は、塔の外のものになる。

どうやら、2人は逃げたあとずっと、【塔内転移】をしていたらしい。

パーティー全員に効果があるので、戦闘が終わったと同時に、家に帰ってきたのだ。


「あぁ、クエイフさま!」

「クエイフ!」


両方から熱い抱擁を受ける。

柔らかいやらいい匂いやらなんて下心よりも先に、『生きている』という実感をする。


「…クエイフ。エッチなこと考えたでしょ?」


先に実感したのが『生きる』という事であり、全く考えてないとは言ってないからな…。


……To be continued

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