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End  作者: 平光翠
第三階層 ネザートロワーム
44/200

第44話 豚と蝙蝠、ときどき骨

蝙蝠は、『コウモリ』と読みます。

氷の矢が刺さったボムマンは次第に体が凍り始め、そのまま1つの氷となって死んでいく。


〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→ウォリアー〉】〕


「【クラッシュ】!」


ハンマーで、氷を完璧に砕き散らすと綺麗な氷の結晶となって砕けてゆく。

とりあえず、モンスターハウスから逃げるように先に進む。






「あ…すみません。【道を照らす光(ロードライト)】が消えそうです。」


しばらく歩いていると、イヴが立ち止まり杖の様子を確認する。

魔法使い系のジョブに就いた状態で、『探索者』として塔を訪れると、松明と同じぐらい明るく照らしてくれる魔法、『道を照らす光(ロードライト)』が使えるようになる。


イヴは極限まで魔力の消費量を抑えている上、杖の魔力電動率が高く、さらに『究極魔法』のチートにより、『アルティメットワイズマン』であるゆえ、魔力のステータスも相当高い。


そうなれば、小さな光を出すだけのロードライトぐらいなら、1日以上魔法を唱え続けることも可能だろう。

しかし、魔導レンジと同じで、魔法は使い続けると、魔力は暴走し始める。そのため、こまめに休憩をとる必要があるのだ。


「ふぅ、すみません。一息ついたのでもう大丈夫です。」

「いや、ついでだから、魔力をできる限り回復させておこう。」

「お気遣いありがとうございます。お手数おかけします。」

「もう少しフレンドリーな感じでもいいのに…」


コップの水を飲み干し、紙で出来たそれを丸める。

インベントリに入れようと思ったが、ゴミを入れておけるほど余裕がある訳では無いので、ポケットに突っ込んでおく。


「…ドームの外に生命反応。2体かな?」


レイの『肉体変形』によって作られたドームは、耐久力こそないものの、物理攻撃なら一撃分余裕が生まれるし、魔法攻撃もすぐに感知できる。

索敵と防御を両立させた素晴らしいドームなのだ。


「この辺りだと、スライムとかじゃないだろうしな。マルシェか、オークかな?」

「…片方は浮いてるような気がする。羽ばたくような音が聞こえる。」

「もう片方は獣臭くないか?」

「……元々自分が獣だからわかんない。」



「まぁ、運良くちょいとした時間もあることだし、そいつらの詳細でも話しておくか。」


「オークの方は、二足歩行する豚と思っていい。一応ランサーらしくて、槍を持って攻撃してくる。魔法攻撃は無しで、弱点属性は、風と光。」

「羽ばたきながら来てるのはフライバットで間違いないだろう。そっちは、弓矢系の方が強い。けど、飛行スキルは7でなかなか当てられないからな。苦戦するかも。」


俺が説明すると、2人は親指を立て『問題ない』と言うように頷く。

ドームを解除し、敵の方へ近づいてゆく。

予想通りのペアであり、ゲームよりも醜悪な顔をしていた。


オークの方は、二足歩行するただの豚というより、養豚場で糞まみれのままの豚が歩き出したと言う感じだ。とにかく顔が汚く、目や口などがバランスを考えない位置にある。


フライバットは、可愛くないタイプの蝙蝠のようなモンスターであり、実際に目の前で見ると、目が無いのが想像以上に気持ち悪く、羽ばたく姿も狭い洞窟の中を無理やり飛んでいるので、薄気味悪さを際立てる。


「…1番はもらい!【クイックカッター】」

「おい!まだヘイトとってない!【オーバーヘイト】」


「増援なし!攻撃に入ります!」

「了解」

「…了解」


増援処理用のイヴだが、増援がない場合は近距離にいる魔法を打つことになる。それを知らせるための合図だ。

しかし、そんな状況でも絶えず援軍が来ないか確認する必要がある。そのため、魔法を放つ時は緊張するらしい。


しかし、今はイヴの緊張話よりも、実際に戦う敵を見ることにしよう。


ゲームよりもグロッキーでショッキングなオークの顔に恐怖を感じつつ、瞬時にジョブチェンジをして『点破砕槍(てんはさいそう)』をその頭を打込む。一瞬敵の動きは止まったもののまだ死んではないようだ。


「…イヴ姉、変な音が聞こえる。」

「え?近くにほかのモンスターは居ないけど?」

「レイどんな音だ?」



レイが音の正体を暴こうとしている間、ガーディアンにジョブチェンジすると同時に、特殊インベントリから盾を呼び出しフライバットの突進を受け止める。オークの方も、気絶(スタン)状態から起き上がり、槍を振り回す。

オーバーヘイトの効果が上手く作用しているのか、先程から俺しか狙われない。


「…わかんない。とにかく、カラカラって聞こえる。」

「スケルトンか!」


フライバットは、コウモリであるが超音波攻撃などは無い。

オークも音に関する攻撃は無い。

しかし、スケルトンは動いている時にカラカラと、骨がぶつかるような乾いた音が響く。

そのため、スケルトンの奇襲を喰らうようなやつは塔の中にいる資格が無いとまで言われている。


〔種族名:スケルトン

個体名:002(魔王による命名)〕


索敵に使えないかと思い、謎の声に聞いてみると、()()()()であったために、その詳細を教えてくれる。


だが、肝心の場所がわからない。

「レイ、音はどこから聞こえる?」


オークの槍を盾でへし折って突進する。

フライバットが闇魔法を詠唱するも、イヴのカウンターにより反撃される。


「上!?」


彼女の言うとおり、上から突如として()()()()()()()()()()()


「ющцфлжё…」


人ならざるモンスターの狂気じみた声。

片手に持つサーベルをコツコツと地面に打ち付け、その感触や感覚を確かめている。


オークとフライバットも、尋常ではない気配に動けずにいる。


「дгжёйпм…」

「……何言ってるかわかんない。」

スケルトンがサーベルの先を見て、ブツブツと呟きていると、痺れを切らしたのかレイが矢を放つ。


「эщчзг!」

スケルトンが叫ぶと右手のサーベルを振り上げて、レイの放った矢を器用にそらす。

そのまま、自然な動きでこちらに跳躍し、レイを切りつけようとサーベルを振りかぶる。


「…スケルトンって脳みそもスカスカなんじゃない?虚技【追尾する腕(ホーミングアーム)】」


先程の矢に彼女の肉片でも付けておいたのか、握り拳を固めた腕が、レイの方に返ってゆく。


逸らしたはずの矢は形を変えスケルトンを追尾する。

後頭部を思い切り殴られたスケルトンは、体勢を崩しながら地面に転がる。


やっと我に返ったオークは、こちらに槍を向けるがその先端はズタボロであり、槍としての機能を果たさない。


〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→モンク〉】〕


槍だったはずの棒きれを蹴り飛ばし、一回転しながらオークの頭蓋骨にかかとを打ち付ける。

2度目の気絶(スタン)に入ったオークを前に、腰を深く落とすと大きく息をすい、全て吐き出す。

短く息を吸い、敵の腹を打ち抜くように手のひらを突き出す。

「End流【翡翠掌底】!(ハッ)!!!」


くの字に曲がったオークは後ろに吹っ飛び、壁に叩きつけられる。


「流石ですねクエイフ様!」

魔道帽子を脱いだイヴは、杖を構えながら詠唱を始める。


オークを殺されて激昴(げきこう)したフライバットは、彼女に向かい突撃する。


「火は殲滅の象徴なり。

光は奇跡の象徴なり。

寸分違わぬ光線は、聖なる炎であり、灼熱の輝きである。

【ホーリー=フレイム・レイ】!」


1発の光線が、向かってくるフライバットの羽を撃ち抜く。

弱々しいその光線は、敵の体勢を少し崩す程度の効果しかなく、先程と同じスピードで突撃してくる。

しかし、彼女は一向に避けようという意思がない。


諦めたのか?否、彼女の攻撃は終わってないのである。


ドギュゥゥゥゥゥン!


正しく炎の光線。

敵よりもふた回りは大きいであろう、極大の光線はフライバットを焼き尽くすには十分であった。




「…イヴ姉頑張ったね。」

少し離れた所で見ていた彼女は、浮かび上がる痣を見て満足そうにうなづく。


()()()()()()()()()()()()()()。」


「гзсэ!」

後頭部を抑えつつ、サーベルを短く突き出す。

刺突の連続攻撃に彼女は臆することなく向かってゆく。


その全てを寸前で避け、避けきれないものも短剣で逸らす。

たしかにレベルやステータスでは、魔王により強化されたスケルトンの方が上だろう。


しかし、圧倒的なまでの経験の差がそこにはあった。


「…遊びは終わり。」

「цпхъпсйс!!」


レイの挑発が通じたのかどうかは分からないが、馬鹿にされていることに気づいたスケルトンは、サーベルを振り上げ叩きつけるように彼女へ攻撃する。


カキィンッ!


彼女自身の技術により、スケルトンの剣は気持ちのいい音と共に砕かれる。

殆ど刀身を失ったサーベルをがむしゃらに振り回すも、リーチの短くなったそれが当たるはずもない。


「勇者になれなくても、勇気は持ってる。」

「йцпюдфж!жф…жф!」

「だから…何言ってるかわかんないって言ってるでしょ…!」


彼女の短剣は、真っ直ぐにスケルトンの首元に刺さってゆく。

断つべき骨が見えている状態でレイが外すわけもなく、吸い込まれるように短剣はスケルトンに直撃する。


「…必ず殺すから必殺。【不条理な一撃(グリムリーパー)】」


まさに死神の攻撃。

相手を一撃で殺すための短剣は、死神の思惑通りにスケルトンを崩してゆく。


3人でそれぞれハイタッチを決めて、1度帰ることにする。


……To be continued

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