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End  作者: 平光翠
第三階層 ネザートロワーム
40/200

第40話 三階層深部

正直、面倒になってきたので次回予告は無くなります。

剣から滴る血液やら体液を布で拭き取り、砥石で軽く磨く。


「クエイフって、結構強いんだね…。ますます惚れちゃう。」

「クエイフ様とってもかっこよかったですよ。お疲れ様です。」


気恥しい褒め言葉を、苦笑いで誤魔化す。


「いや、そうでも無い。イヴのヒールを今か今かと待ってる状態だからな。」


ゲームではノーダメージで、さっきの倍の数の敵を、3分で片付けたんだけどな…。6階層と14階層で。


俺の皮肉に、イヴは慌てたように【ハイ・ヒール】を詠唱付きで唱える。


「さてと、この辺はもう居ないだろう。再出現(リポップ)まで、2日ぐらいは余裕あると思うし、一回帰るか。」


「……別にこのまま先進もうよ。」

「レイ、クエイフ様は何か考えがあって言ってるのよ。」


その通り。

三階層は、このモンスターハウス以降を境に、急激に敵の強さが変わる。

ゲームで初見攻略の時に、間違えて四階層に来てしまったのかと思ったほどだ。(Lv36でオークとフライバットにハメられて死んだ。)


それほどまでに、難易度の差がひどい階層で休憩も挟まずに先に進もうとするのはいささか無理がある。


▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

〈クエイフ達の家〉


玄関を開けようとすると鍵がかかっている。

家の鍵を持っているのは、カークスとイヴの2人だけ。

鍵が閉まっているということは、カークスは出ているのだろう。


なぜ、カークスとイヴしか鍵を持っていないのかといえば、俺は鍵がなくてもシーフの『鍵抜けスキル』で開けられるので問題ないし、レイは外に出る時は1人で出歩くことは無い。大概は俺かイヴにくっついて歩いている。


「カークスさん、どこに行ったんでしょうか?」

「んー、たぶん冒険者の方の依頼じゃないか?」

「……仕事ってこと?」


家の鍵を開け玄関で靴を脱ぎながら、レイの質問に頷いて肯定する。


「……私達は、もう帰ってきてるのにねぇ。」

「俺への当てつけか?」


今度はレイが頷く。

「ま、今日の探索は終わったわけだし、今日は家でイチャイチャしてようぜ。」

「…どうせ、口ばっかりのくせに。」


俺は苦笑いをするしかなかった。隣でイヴも苦々しい顔をしている。

微妙な空気を強引に切り替えようと、イヴがキッチンへ向かう。

「ご飯はどうします?塔で食べたので足りましたか?」

「あー、軽く作ってくれ。」

「…私はパス。寝る」


イヴは、手早くトーストを焼き始め、ベーコンと卵をフライパンに落とし熱を加える。ジュウジュウと、ベーコンの油がはじけ、たまごの色が半透明から白に変わっていく。


トーストの上に載せられたベーコンと卵が食欲を刺激する。

例えるなら、イヴのような美少女に手招きをされているようで、飛びつかずにはいられない。


あっという間にトーストを食べおえ、ほんわかとした眠気に誘われる。

どうせ明日からはハードな日になるんだ。少しぐらい早めに休んだって構わないだろう。


「イヴ、俺も寝る。夜ご飯になったら起こしてくれ。」

「はい。お任せ下さい。…それにしても、レイはともかく、クエイフ様もですか?子供が増えたような気分です。」


全く言い返せないので、大人しく部屋で寝ることにする。

いや、普通に寝るのも面白くないので、レイにサービスしてやろう。

さっきの発言を含めて、どことなく舐められているような気がしてならないので、たまには強気に出てみる。


コンコンと、木製のドアを叩く。

寝ぼけたような声が聞こえるがいまいち聞き取れない。


「おじゃましま〜す」


小声で音を立てないように部屋の中に入ると、レイの柔らかく可愛らしい寝息が聞こえる。

ぐっすり眠っているようで、今のところ俺には気づいていないようだ。


部屋の中は、とても女の子らしく、侵入したことを反省せずにはいられないようなキラキラとした空間だった。


恐らくイヴのものであろう料理本、色気の欠けらも無いレイの学術本など、たくさんの本が置かれているにも関わらず、俺の書斎とは違いきちんと整理整頓され、ところどころに手作り感溢れる可愛らしい小物が置かれている。


真ん中にドンと構えたベットの上では、レイが縮こまって寝ていた。


〔名前:レイ

性別:女

状態:疲労(最強)〕


謎の声が簡易ステータスを表示する。

彼女自身の呪い(チート)により、常に疲労が蓄積するため、少し動いただけでもこのようなひどいステータスになるのである。


『肉体変形』の呪いである『空腹』は薬でごまかせるが、『アイテムの所持制限無し』の呪いはどうにも出来ない。

その事がひどく苦しく、イヴも同じように苦しんでいることを考えると、これ以上2人を塔に連れていくのは悪いことのように思える。


「ごめんな、レイ。重いよな。苦しいよな。辛かったらやめてもいいんだぞ?」


俺は卑怯だ。

相手が寝ているから。返事をしないから。

心配して、逃げ道を与えているふりをして、慰めた気になって。


彼女を追い詰めているのは紛れもなく俺だというのに…。


自分に向けられる感情を利用して、彼女に苦を強いる。

奴隷扱いもいいところだ。


「それでも…塔を、Endを攻略したいんだ。」


嘘っぽい罪滅ぼしで、安っぽい偽善で、そんな汚い感情で…



「レイ、愛してる」

寝ている彼女に向けて呟く。


そのままベットの中に潜り込み、縮こまる彼女を抱きしめる。

可愛らしく淀んだ目は、閉じられて見えないけれど、疲れ果てたような赤い髪の毛をふよふよと撫でつつ、耳を指先でいじる。

くすぐったいのか、顔を俺の胸に押し付け、イヤイヤと首を振る。いつもは塔のことしか考えないが、今日だけはレイのことだけを想っていよう。






「ただ今帰りましたー」

青年のよく通る声が、家に響く。

「シィー。クエイフ様とレイが寝てるんです。」

「敵の魔法?」

2人に配慮したのか遠慮がちな少女の声。

「いえ、ちょっとイチャついているだけです。」

幸福感と嫉妬と寂しさが混ざったような複雑で不可解で難解な少女の声。


そして、お互いを支え合うかのように抱き合う2人の寝息は、偶然にも交互に響き、ひとつの音楽のようだった。


……To be continued

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