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End  作者: 平光翠
第三階層 ネザートロワーム
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第38話 カークスの決意と三階層

一度家に帰ると、カークスから夕食のあとに大事な話があるといわれる。


美味しいスパゲティを食べおえ、部屋で盾の強度を確認していると、カークスとキュレーが部屋にやってくる。


「師匠、自分は探索者ではなく、冒険者を目指したいです。僕達に冒険者をさせてください。」


2人はわざわざ、土下座をしてまで頼んでくる。


というか、そもそも、そんなふうに2人を束縛するつもりは無いが?


「冒険者でも、探索者でも、好きな道を選べ。ただし、()()()()()()()。」

「覚悟……。」


「そうだ。覚悟だ。後悔しないように覚悟をするんじゃないぞ。たとえどこかで、自分の人生を振り返って後悔しても、先に進む覚悟だ。」


「わかり…ました。」


俺とは違う道を行く彼らへ、最後ぐらいは師匠らしいことをしてやるか。


「覚悟をしたやつは、守りたいものを守れる。勝ちたいやつに勝てる。失敗しても諦めない。後悔しても止まらない。」

「重苦しくても生きづらくても、覚悟だけは、常にしておけ。これが、俺が師匠として言えるたった一つの教訓だ。」


べつにこの家まで出ていくという訳では無いらしいが、せめて、お守りに何かを持たせてやりたい。


「……!カークス、こいつを持っていけ。」

「…?これは?」

「大したものじゃない。餞別がわりに持ってろ。役立つかもしれない。」


財布につけていたキーホルダー。

大剣を模したガラス細工だが、カークスにはピッタリだろう。

使ってる武器というだけでなく、ガラスのように繊細な心と、壊れやすいガラスを守るように崩れやすいキュレーを守る。


カークスを表しているとしか思えなかった。

彼への餞別と考えると、ふと、目に止まって、これじゃなきゃダメな気がしてきた。


「そんなふうに思えるものを選ぶのが、師匠としてかっこいいだろ。」


「そうですね…。綺麗なガラスだ。」

不純物の混ざりがない。一番きれいなガラス細工だ。

まるで、2人のように汚れのない。ガラスだ。


▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

〈End二階層【狂科学者の研究室】〉


弾け飛ぶような、気味の悪い水音。

その正体はスライム。


「数が多すぎる!」

「…倒してもキリがない。」

「…ッ!敵、増援来ました。フレ撃ちます!」


後衛で戦局管理をしているイヴが、杖を構える。

詠唱もせずに、素早く魔法を組み上げてゆく。

俺とレイは、それぞれの方向へスライムを引き連れつつ、イヴの魔法射線上から離れる。


「ダメです!赤スラ来ました!」

「構わん!撃て!」

「…!?分かりました!【フレイム】」


焼き尽くされたスライム、それに対しクリムゾンスライムは、イヴの魔法に反応し、火砲を放とうとエネルギーを溜める。


見える限り8発。それだけの火砲を喰らえば死ぬ可能性もある。


〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→アクアスライム〉】〕


「【水砲】【水砲】【水砲】【水砲】ッ!」


突発的に撃てたのは4発。なんとか、半分の火砲を相殺できた。

体を人間に戻しつつ、レイの方を振り向く。

いざとなったらすぐに投槍(ジャベリン)ができるようにランサーに変更してある。


「【アローフォー】!【エネルギーアロー】」


しかし、杞憂だったようで、レイは特殊インベントリを操作し弓矢を持つと、【アローフォー】で、一度に撃てる矢を4本まで増やし、火砲を相殺できるであろうエネルギーアローで、放たれた火の玉を弾き飛ばしたようだ。


「レイ、なかなかいい状況判断だ。機転が利いてて偉いぞ。」

「……褒めて。撫でて。キスして。」


スライム共も片付き、レイが可愛らしく近づいてくる。


「要望が多いな…。まぁ、でも、よくやったよ。流石だな。」

レイの赤い髪は、色の通りに暖かく、和やかな気分になるように柔らかかった。

「……キスは?」

「はぁ…おでこで我慢してくれ。」


レイの薄く汗ばんだ額に撫でるようなキスをして、彼女の前髪で隠す。

いつもは濁った目もこの時ばかりは、点になっていてそれもまた愛らしかった。


「クエイフが…デレた?」

「クエイフ様…とうとう?」

「うるさいな。先に進むぞ!」


少し、いや、かなり恥ずかしいので、強引に誤魔化して話を打ち切る。

さて、先に進むとしよう。





〈End三階層【ネザートロワーム】〉


ここは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()場所である。


アインス洞窟よりも、深い場所にあるような地層の地面。

すぐ下はアザピース研究所のリノリウムの天井のはずなのに、階段をたった数段登っただけで、黒く、暗い、まさに『地下』としか言えないような造りになっている。


「ここでは、フライバットと、マルシェオンブル、ボムマン、オーク、スケルトンが新しく登場する。当然ながら既存のモンスターも強くなってる。あと、アントルランサー、ソードアント。これは、槍と剣を持ったアントルだな。アントメイジは…ここじゃないな。たしか…四階層だったと思う。ゴブリンは…たしか、盗賊職のシーフゴブリンがでる。」

「……結構色々出るんだね。覚えるのが大変そう…。」

「その場その場で確認する余裕があればいいんですけれど…」


イヴのボヤキにたいして、「ないだろうな…」と、苦笑いで答えるしかなかった。


「足音…!?」

「これは…影だな。マルシェオンブル(歩く影)。名前の通り、黒い人の影みたいに歩いてる。」


人に黒い塗料をぶっかけたようなやつだが、その姿は影のように揺らめいている。

打撃に強く、斬撃が苦手。

「レイほどではないが、体が変形するぞ。気をつけろよ」

「……自分と戦うのは簡単。でも、()()()()()()()()と戦うのは難しい…。」

レイは顔を歪めながら呟く。

「…どうして?自分のやり口は、よく理解してるし、弱点も分かるんじゃないの?」

イヴの言う通りだ。

俺は、俺ほど弱くて楽勝に勝てるやつを知らない。そう断言出来るほど、自分が敵対しても与し易いと思っている。

だがレイは違うらしい。


「自分に勝つのは簡単。でも、()()()()()()()奴は、()()()()()()()。だから、勝てない。」


「……」

「……」

「…?私の言ってること、変?」


いや、まさか。

自分を強いと思っている慢心があるゆえに臆病である。

そんな彼女は本当に強いのだろう。


「その通りだ。この塔の中に関しては、全く持ってその通りだ。いや、塔の外でもその通りなのかもな。その考えには感心したよ。」

「そう…?なら良かった。」

「フフ!なら、レイの分を私達が補って勝たないとね。」


俺たちは、お互いに笑いながら、それぞれの武器を抜く。

「【ジョブチェンジ〈ランサー→ガーディアン〉】」

「装備:【蟻獣の双短剣(クロスアンゴブ)】」

「装備:【変化水液杖(ジェリーロッド)】」


そして、その暗闇から()()()は現れた。

ゆらりゆらりと、身体が蠢く。体がぼやけ、身は透けている。

鋭利な爪状に変化した右手を、こちらに振り下ろそうと、少しずつ近づいてくる。


それが、開戦の合図だった。


「魔を滅せよ【フラッシュ】」

「【オーバーヘイト】」

アントルの甲殻で作られた盾は、マルシェオンブルの鋭利な爪をはじき返す。

細かい衝撃が体を震わせるが、まだまだ防げる。


「左手もッ!?」

「クソ!運がわりぃ!流石にきついぞ!」

「虚技【手の盾】!」


レイは右手から、もう一本右手を出現させ、それを分裂させる。

影は、夢中になってこちらを切り裂くが、実際に切り裂いているのは、偽物の手であり、なんのダメージもない。


「……血で見えない!逆に邪魔!」

レイは、手の複製をやめると、影の前に立つ。

彼女の腹を狙った鋭い一撃を、予知していたかのように、右の短剣で振り払う。

続けざまの攻撃も、左、右、左、左、右、左、右、右……と、リズミカルに弾き返してゆく。


そして、その連撃の間を縫うように、少しずつ反撃をしてくる。


マルシェオンブルは、レイに夢中でこちらに気づかない。

しかし、レイは気づいたようで、わざとらしく大きな振り方をする。


ほんの少しできるスキを無理やり抜けようと、鋭利な爪を彼女に向けるも、やはり外される。

的確に逸らされる。


「引きつけご苦労さま。終わったぜ。【スラ・ストライク】!」


亜人種であるマルシェオンブルは、変化種にジョブチェンジした(偽物)に気づかない。

当然、そのスキをついて、再起不能な一撃を叩き込む。


しかし、打撃は有効打にならないらしく、まだ立ち上がろうとする。


〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈スライム→ランサー〉】〕


「トドメだ!【点破砕槍(てんはさいそう)】」


敵の爪よりも鋭く早い一撃は起き上がろうとするその頭を撃ち抜いた。


さて、魔石を回収して先に進むとしよう。


次回予告

クエイフだ。

またまた、三階層の話になるぞ!

今度は連戦らしいから、キツいぞー。


次回

下との違い


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