第32話 Lv2
寝室から出て、リビングに向かうと、目玉焼きの焼けるいい匂いが漂ってくる。
「お!うまそー。レイ起こしてくるよ。」
「あ、レイなら私の……
元・レイの部屋であり、現・ただの空き部屋のドアを開けると、鍵が閉まっていた。
おかしいな?イヴの痣は消えていたから、レイは一人で寝たはずなのに……?
(着替え中か?ラッキー。覗いてやれ!)
〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→シーフ〉】〕
「【鍵開け】」
本来、部屋の鍵を開けるなんてできないが、この家の持ち主は俺だ。そのため、鍵を閉めて、その鍵を持っているのがレイだとしても、持ち主である俺は、針金1本でこの家の全てのドアを開けることが出来る。
「レイ!寝てんのか!お前はもうどれだけ寝ても成長しないZe!そのちっぱいで諦めろ!」
…………シーン……。
「あの、クエイフ様…。レイは昨日私の部屋で一緒に寝ましたよ…?」
恥ずかしい…。
「クエイフ…馬鹿じゃないの?」
「ホンッッットに、その通りでございます!」
朝食の時に、レイにその事をいじられ、イヴの乾いた笑いが、心に染みた…。
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〈End【2階層 アザピース研究所】〉
「イヴ、下がれ!前に出すぎだ。」
「すみません!」
アントルと呼ばれる、アリのようなモンスターは、牙をギチギチと鳴らし、攻撃のために前に出ていたイヴに襲いかかる。
「させるか!【ガードカウンター】」
防御する上、盾を少し跳ねさせその攻撃を反射する。
「すみません!大丈夫ですか?【ヒール】」
「こんなんダメージに入らないよ。」
彼女は、気絶したアントルから遠ざかり、こちらによってきて、ヒールをかけてくれる。
イヴの優しげな金髪が、顔にかかりくすぐったい。
つか、すげーいい匂い!よくある話だけど、同じシャンプー使ってるのにいい匂いってやつじゃん!ラノベあるあるじゃん!
「塔でこんないい思いするとはなぁ…。」
「?」
イヴの金髪が離れていき、その端整で芸術的な顔は遠ざかってしまう。
「……ねぇ!私一人で攻撃して、一人で解体したんだけど…?何イチャついてんの?クエイフは私のだから!イヴ姉には渡さないから!」
「料理も家事もろくに出来ないのに、クエイフさんの奥さんを名乗るの?」
「……なっ!うー……夜は甘えん坊のくせに!」
「ちょっと待って、『夜は甘えん坊』について詳しく、具体的に頼む。」
「「クエイフ(さん)は黙ってて!」」
……とりあえず、喧嘩はやめてー。
「クエイフさんは、私の方が好きに決まってます!私の方がおっぱいも大きいですから!」
「…クエイフはロリコンだから、私の方が好きだもん。」
「どっちも愛してるよこの野郎!」
そんなふうにふざけあっていると、突如として空気がヒリヒリしてくる。
「匂いはスライム。音も…。でも、感じたことの無い雰囲気と威圧感…。」
〔スライムのような独特な水音が、次第に大きくなってくる。明らかにスライムのものと思われるが、いつものスライムとは違った威圧感と殺気が漂ってくる。〕
「шъцфт!」
プルンとした質感と、気持ち悪い光沢をまとって、現れたのは、スライムであった。
「ыцоухфлплжсруопц!【スラ・ストライク】ッ!」
…早いッ!
「衝撃吸収の盾!」
「補助します!【ガードアップ】」
ガゴン!
と、怖くなるぐらいの大きな音と共に、とんでもない衝撃が加わる。
……ぐッ!今まで受けてきたどの攻撃よりも重い。
「クエイフ!」
「大丈夫!こっちは問題ない。」
「二重詠唱【ボム】&【ヒール】」
イヴは、もう爆破魔法を覚えたらしい。さすがと言うしかない。
「【ホーミングアロー】」
「レイ、合わせて!【マジックエンチャント:パラライズ】」
レイの放った弓矢に、イヴの麻痺魔法が付与され、スライムに向かっていく。
その全てが直撃し、スライムは動きを止める。
「【ガーディアンハンマー】ッ!」
すかさず、俺が盾を叩きつけると、スライムは動かなくなる。
ふむ、なんとかなったようだ。
その後、しばらく探索すると、小さな部屋を見つける。
そこには、山盛りの書類が積まれており、チラリと見える部分には、強化されたスライムについても書かれていた。
『我々の研究は、モンスターの強さをレベルアップさせようというものである。手始めにスライムで実験してみることにした。』
『最初の実験は、スライムが別のモンスターになってしまった。動き方が全く変わってしまっているため、別種と呼んだ方がいいだろう。コイツは三階層に放り込んでおく。』
『4度目の実験は、弱体化してしまった。しかし、分裂能力が高まり、どんどん増えてゆく。1階層には、動物ぐらいしか居ないから、そこに放置しておけばいいだろう。』
『12度目の実験である。すこし、活性炭を入れすぎてしまったようだ。とても熱くなり、火の砲弾を撃つように進化した。が、私が作りたいのはこういうものでは無い。関係ないが、入れる物質を変えれば、冷たいスライムも作れるのではないだろうか?』
(クエイフの豆知識!活性炭は、ホッカイロの原料だぞ?)
『13度目の実験、前の実験を活かし、尿素と硝安を入れて、水とスライムを混ぜてみた。普通のスライムよりも、薄い青色で、水の砲弾を吐くスライムが出来上がった。私が作りたいのはこれでは無いのに!これが研究者の性か…』
(尿素と硝安に水を混ぜると、周りの熱を奪い、冷たく感じるぞ!)
『16度目の実験、スライムから離れ、新種のモンスターを作ってみた。毎日のように汚水を加工する作業には飽きたのだ。ゴブリンに弓を学ばせてみたら、あっさり使いこなし始めた。他の武器も使わせてみよう。』
『20度目の実験は、前に知り合いの博士が作った『巨大化光線』を試してみる。というか、完全に別の実験を始めてしまったな…。アリを巨大化させたら、気持ち悪いことになった…。』
『24度目の実験、スライムとは関係ないが面白いモンスターを作ることが出来た!これで、私を塔に閉じ込めた人間共に復讐できる!』
『34度目のож、ついに当初の目的であったスライムю作ることが出来た!これを『Lv2』と呼ぶことにする。もっと強いスライムを作らねば…。』
『37度目уож、чътпфъкрэпоцрзЯдЬすることになっж。зкであいьつсчみかфжёмзаЫきる。шццыпчрчмччмчъклчИцхтпрмохкъюところで、昨日の私はなぜ電気を消したのだろう?暗くて良く見えないな…。』
『шчолппък!шцуыпцъоцмчрыуъощоплнупйёррижт』
『助けて…』
古びた日記のようなものには、最後にそれだけが書かれ、それ以降はなんの記録もなかった。
先程の異常に強いスライムは、間違いなくコイツが作ったものだろう。
書類の一番下に『アザピース』というサインを発見する。
ゲームにも出てきたマッドサイエンティストだ。
と言っても、名前しか出てこないのだが…。
「ヤバイものを見たが、探索を続けるぞ」
……To be continued
次回予告
久々のクエイフだ。
次回は、早くも2階層突破!の予定だ。
さて、本当に攻略できるのか?
次回
狂科学者の研究室
小鬼獣の小部屋と、韻を踏んでいるつもりらしいが、どうなんだ?




