第30話 ガーゴイル
突如として現れた敵であるが、ゲームを30作もクリアしてきた俺にとっては、知り尽くした敵であった。
「イヴ、レイ、あいつの弱点は光属性。剣を持ってるが、闇魔法を使う。見ての通り空からの攻撃が多い。カウンターは難しいだろうな。」
「……矢が当たんないのは何?」
「そりゃ、単純なレベルの差だよ。ガーゴイルは、剣術20相当の強さだし、闇魔法は23相当の魔法を使う。飛行スキルも20を超えてるだろうから、レイの『弓術11』じゃ打ち抜けないだろうな。」
レイは小さく舌打ちをする。イヴの方も苦々しい顔を浮かべてなかなか動かない。
俺を含め、3人とも理解しているのだ。
『コイツには勝てない』ということを…。
〔種族名:ガーゴイル
個体名:001(魔王による命名)〕
謎の声に、詳細を検索してもらうと、かなり薄い字であるが、この2つの情報を手に入れた。
もしかしなくても、謎の声による鑑定が防がれている。
あの魔王の仕業だろう。
「とりあえず、仕掛けるぞ!【デコイ】!」
「……了解。【デュアルアロー】」
「分かりました。光よ、その闇を打ち祓え【フラッシュ】」
俺がヘイトを集め、レイとイヴが攻撃をする。
フラッシュは、当たらなければ目くらましになるし、当たればダメージも期待出来る。
「юьッ!……шоъл?」
2人の攻撃は直撃したが、なんのダメージにもなっていなかった。
これもまたレベルの差と言うやつだろう。…全く運が悪い。
あの女は未だにいやらしい笑みを浮かべ、こちらの惨状を嘲笑っていた。
「шцрс!хулоушьцхноупъозщжвймед【アン・ダーク】」
クソ!叫び声の長さからして詠唱魔法か…。
「行きます!【カウンターフル・フラッシュ】」
最近覚えたという、イヴの中級光魔法により、ガーゴイルの攻撃は、あっさりと反撃に変わる。
「ヒヒッ!そうはさせないさ【マジックロスト】」
しかし、その攻撃は、忌々しい後ろの女によって、打ち消されてしまう。
「あの女!」
「ゴブリンアーチャーの時の!」
レイが、複数の矢を打ち込むが、影に溶けたように一瞬で消えてしまい、それらが当たることは無い。
「……なら、せめて!ガーゴイルには当てる!虚技【ハンドアロー】ッ!」
虚技とは、俺が命名した、レイにしか出来ない特別な技である。
スキルによるアシストはないが、代わりにチートによるアシストがあるため、それなりの攻撃力は出せる。
ハンドアロー、つまりは腕を変質させ、それを取り外して弓につがえる。まさしくレイにしか出来ない技である。
「レイッ!無駄打ちはダメでしょ!エネルギーだってそんなにないんだから!」
6本ほどガーゴイルに向けてハンドアローを放つも、巧みな飛行術により、全てよけられてしまう。
「だが、それは想定内!レイ、やれ!」
「…OK。虚技【血管束縛】ッ!」
これまたその名の通り、ハンドアローを放ち、外れてしまった腕を空中でもう一度変質させて血管に変えたのである。
流石に四方八方から突如として襲ってくる、腕ほどの大きさの血管を避けるような余裕はないらしく、あっけなく拘束され、落ちてくる。
「мщ!?юунртфкчыцфспМ!」
しかし、ガーゴイルはモンスター特有の叫び声をあげて、それらをズタズタに引き裂く。
辺りにレイの腕や血管が飛び散り、グロテスクな惨状になる。
「……いや、これはチャンスだぞ?レイ!」
レイを呼び、作戦を伝える。
彼女は目で『…わかった』と言うと、俺から離れ作戦の準備をする。
「イヴ、できる限り爆煙とかが出るような大技を打ってくれ。」
「恐らく、外れますよ?」
「大丈夫。お前なら当てるって信じてるから。」
『分かりました』と、彼女は頷き、また後ろに下がる。
ガーゴイルは、小さな魔法ばかりを連発してきて、降りてくる様子はない。
ポーションを一口飲み、盾を構えイヴを守る。
さて、今日の俺はツイてるのかな?
「光は顕現する、奇跡の力を持って。
闇は打ち祓われる、女神の祈りによって。
悪は砕かれる、神の怒りによって。
我が魔法は奇跡なり。
我が魔力は祈りなり。
我が攻撃は怒りなり。
神に仇なす害悪よ。滅びろ。
【ヘヴンズ・フラッシュ】」
彼女の意思によって生み出された無数の光線は、ガーゴイルの体を貫通し焼き裂く。ありとあらゆる場所を、弱点属性により貫かれ、カウンターの余裕もなさそうだ。
「まだです!〈我が魔力よ、蘇れ。〉【マジックリキャスト】〈その魔法は、不発を知らぬ〉【ホーミング=フル・フラッシュ】」
まさかの、二重詠唱。
普通一つの魔法を使ったあとは、行動が制限され、魔法は使えない。それを彼女はチート【究極魔法】により、複数同時に魔法を使ったのだ。
見るに堪えないほど痛々しい痣は、身体中に浮かび上がり、その端整な顔にまで見えてくる。
それは、皮肉にも、追尾攻撃魔法を使うために、魔道帽子を外したことにより、さらに顕著となっていた。
「私がこの帽子を被ろうとしないのは、自分の呪いから逃げないという、意志の表れです!私はやりました。あとは…お願い…します…。」
やはり、いくつもの魔法を同時に使うのはチートといえど、体に負荷がかかったのだろう。彼女は座り込んでしまった。
『「クエイフ!そこから見て、左斜め前!」』
俺の耳に二つのレイの声が聞こえる。
〔意志を確認:【ジョブチェンジ〈ガーディアン→ブレイブモンク〉】〕
勇気ある格闘家は、爆煙の中でも、まっすぐに拳を叩きつける。
レイの翼による補助を受けながら、遥か遠い高度で見下ろすガーゴイル目掛けて、殴りつける。
「【金剛殴打】ッ!」
その拳はダイヤモンドよりも固く、重い一撃である。
作戦とは、イヴ爆煙を作ってもらい、ガーゴイルのめくらましにする。
もちろん俺達も見えないが、レイは別だ。
彼女は、俺たちよりも目がいいし、嗅覚も優れている。爆煙の中でも、敵の姿はハッキリと見えている。
そして、俺の耳元には、レイの口が付いている。
もちろん【肉体変形】による、偽物だが…。
「ヒヒッ!ガーゴイル…やられちゃったのか〜。ま、いいや!シャドモルス。あとよろしくー。ヒヒッ!」
またしても、影から出てきたかのように突如として現れた、正体不明の女。
「てめぇでやれや!クソッタレが…」
そして、彼女の影は彼女よりも大きく膨らみ、ガーゴイルの死体を飲み込む。
俺たちが、呆気に取られていると、その2人はどこかへ消え去ってしまった。
……To be continued
次回予告
…レイです。
なんか…クエイフとデートします。
そんな感じの平和な話になる予定…。
次回
平和な休日
デート、デート、デート……
多分、クエイフはそう思ってないんだろうな…。




