表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
End  作者: 平光翠
第二階層 アザピース研究所
27/200

第27話 哀れな盗賊

〈End【一階層アインス洞窟】〉


新たな装備に慣れるために、少し一階層でスライムやゴブリンを倒そうと、二階層への階段近くを歩く。


「チッ!ここら辺のやつは、前に倒しちゃったからな…。」

「二階層行く?」

「レイ!そんなことばっかり言ってるから、あなたの大好きなクエイフ様がそんなことになるんですよ!」

イヴ、マジでお母さんみたい。


しばらく歩いていると、複数人の気配がする。

2人ではないことから、恐らくカークスとキュレーではないだろう。メルクは、一人で塔内をうろつくので、ありえない。(最も、これらはゲームの設定なので、複数人出歩くこともあるかもしれない。)


「……多分、強盗?盗賊?そんな感じ…」

元が獣で、耳のいいレイは、彼らの声が聞こえたようだ。会話の内容から鑑みての判断だろう。

「あっちも、私たちに気づいてる。襲ってくるっぽい。男が四人…かな?」

「あー、運悪ぃな…。」


逃げるのも癪なので、迎え撃つことにする。


【ジョブチェンジ〈ガーディアン→トラッパー〉】


トラッパーとは、某ゲームでも有名な罠使いのことである。

その名の通り、戦闘能力は低いが、低級の魔法と、それらを組み合わせた()を使って戦う、少し複雑で上級者向けのジョブである。(自慢になるが、トラッパーと、その上位互換ジョブだけで、ゲームクリアしたこともある。)


「レイ、魔法瓶出してくれ。あと、イヴは今から言う魔法瓶を作って。」


それらを一通り作って、仕掛け終えると、運良く盗賊共がやってくる。


「有り金と持ち物全部置いてけ。」

「あと、女もなぁ!」

「ゲヒヒ…」


典型的なセリフと共に、それなりに上等に見える剣をチラつかせる。


「やなこった!」

俺は、中指を立てながらそう言った。

「てめぇ…ぶっ殺──


ドゴン!


気持ちのいい爆発音とともに、盗賊たちは、怒りのセリフを最後まで言い切ることすら出来ずに、爆煙に包まれる。


「親分!?」


どうやら今のが親分だったらしい。

いや、リーダーなら、突っ走らずに状況判断をしっかりしろよ。という、俺の心の中のツッコミも、当然のように虚しく爆煙に消えていく。

残りの盗賊たちは、今ので逃げるかと思えば、勇敢にもこちらに立ち向かってくる。


だが、いくつものトラップがそれを阻んでいく。それでも、彼らには足りなかったようで、親分共々起き上がって、こちらに向かってくる。


「運が悪いねー」

「お前らはなぁ!だが俺たちは最高にツイてるぜ!いい女も手に入るし、金もついてくる!最高だねぇ!」

剣を振り下ろしながら、俺を斬りつけようとしてくる親分。

当然ながら、トラッパーの俺では防御なんてできるわけもない。

()()()()()()()()

声には出さず、口の中でジョブチェンジを行う。

それでも、謎の声は反応してくれるようで、ステータスが書き変わる。それに対応して、手持ち無沙汰だったレイが、特殊インベントリを操作する。

「消えた!?ちげぇ!飛んだ?」


因みに、親分の言ったことは全てハズレだ。

消えたわけでも飛んだわけでもなく、ただ横に跳んだのである。

それでも()()()による跳躍は、トラッパーとは比べ物にならないスピードで、あたかも瞬間移動のように消える。


「てめぇ、トラッパーじゃねぇのか!?」

確かに、軽装で武器を持たずに魔法瓶を投げつけてきたなら、トラッパーなのかと疑うだろう。しかし、ジョブが定まらない俺は、その意表を簡単に突くことが出来る。


「そう言えば、ツイてるとかほざいてたな。残念、()()()()()()()。」


一瞬で、先程までいた場所から離れた俺は、剣を振り下ろしたものの空振りで慌てる親分の、頬を目掛けて握り拳を打ち付ける。


そのまま、子分共を仕留めようとすると、

「動くな!この女がどうなってもいいのか?」


ふむ、どうやら新しい装備の付与効果で、一定確率で気絶(スタン)になるらしいな。


「てめぇ!聞いてんのか?つか、お前もお前で、捕まってるからって睨みすぎだろ!」

「…別に睨んでない。いつも眠くて目つきが悪いの」

「どんな寝不足だよ!ていうか、この状況で寝ることを考えるなよ!」


ショートコントのような2人の問答にも、飽きてきたので、

「イヴ、助けてあげて。」

「大丈夫です。もう完了してます。」

彼女は、金髪をなびかせながら、天使のような笑顔で言う。


「は?あがッ─


すっとんきょうな、声を出し、レイを拘束していた子分だけが凍っていく。

「…イヴ姉さすが。魔法においては世界一!あ、クエイフー、さっきの男の感触が気持ち悪いから抱きしめてー。」

「知るか、イヴにでもやってもらえ」


俺が言うと、レイは本当にイヴの方へ向かっていった。

「それにしても、この杖すごいですね。前よりも格段に魔法が扱いやすいです!強いて言うなら、クッキーに釣られるクエイフ様ぐらい扱いが楽です。」

…それは、褒めてるの貶してるの?と言うか、バカにしてるよね?


「て、てめぇ!よくも親分とジョージをやりやがったな!」

「うるさい…。眠りにくい!」


レイは小さく呟いて、ナイフを投げると、男の肩口に刺さる。

「殺すのは面倒臭いから、毒で勘弁してあげる。」


その凄惨な笑みは、濁った目と相まって、何よりも可愛らしく、恐ろしかった。


因みに、残りの1人は毒を負った奴を連れて、逃げていった。



▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪


少年が、杖を持った少女の手を引き、塔の中を歩いている。


「お兄ちゃん、トイレー」

「おお、いってらっしゃい。」


小さな小部屋に入り、少女─キュレーは用を足し始める。

少年─カークスは、妹を守れるように、しかし、妹を視界に入れないように、剣に手をかざしながら立っている。


「お兄ちゃんは、ちょっとだけ離れるからな。気をつけるんだぞ?」

「きゃーお兄ちゃんのヘンタイ!見ないで!」

カークスは妹に謝りながら、その場を離れる。

人の気配がする方に歩いてきたのだ。


「おい、てめぇ。有り金と持ち物置いてけ…」

肩口にナイフの刺さった男が、カークスを脅してくる。


「いま、妹が小便をしてるんだ。邪魔するな。」

しかし、カークスは全く意に介することなく、男の両腕を流れるように切り落とす。


男は呻き声をあげて、倒れる。

こんな状況になった男は、今までの盗賊行為を後悔をしながら、モンスターに食われるか、血が足りなくなって死ぬのを待つことしか出来ない。


カークスが戻ると、キュレーは別の男に捕まっていた。

「キャー!お兄ちゃーん!助けて!」

「てめぇ!」

彼は、素早く男の片腕を切り落とすと、妹に血がかからないように庇いながら、少し遠いところへ座らせる。


「お前が今、その汚ない手で触れていたのは、女神そのものだぞ?それを…お前ごときが………殺す!」

「お兄ちゃん!ダメだよ?人殺しはダメだってクエイフさんも言ってたよ?」


彼女の声を聞き、カークスは一気に冷静さを取り戻す。

そして、また、男の残った腕を切り落とすと、

「地獄に落ちろ!」

と、吐き捨てるように言って、その場を跡にする。





こうして、後に『塔攻略者』と呼ばれることになる青年に騙されて殴り飛ばされた男

『塔の魔女』と呼ばれることになる少女に凍らされた男

『塔の解体(バラシ)屋』と呼ばれることになる少女に肩口を貫かれ、『神兄』と呼ばれることになる少年に両腕を斬り捨てられた男

愚かしくも『女神』に触れた男


馬鹿な盗賊4人組は、呆気なく死んでしまった。


……To be continued


次回予告


クエイフだ!

えと、作者から用意されたカンペには『スライムになる』としか書いてないんだが?

…次回、スライムになります。

俺が?

…そうです。



次回!

チートの真価


……クエイフはスライムになっても可愛い。

…クエイフ様、可愛いですね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ