第27話 哀れな盗賊
〈End【一階層アインス洞窟】〉
新たな装備に慣れるために、少し一階層でスライムやゴブリンを倒そうと、二階層への階段近くを歩く。
「チッ!ここら辺のやつは、前に倒しちゃったからな…。」
「二階層行く?」
「レイ!そんなことばっかり言ってるから、あなたの大好きなクエイフ様がそんなことになるんですよ!」
イヴ、マジでお母さんみたい。
しばらく歩いていると、複数人の気配がする。
2人ではないことから、恐らくカークスとキュレーではないだろう。メルクは、一人で塔内をうろつくので、ありえない。(最も、これらはゲームの設定なので、複数人出歩くこともあるかもしれない。)
「……多分、強盗?盗賊?そんな感じ…」
元が獣で、耳のいいレイは、彼らの声が聞こえたようだ。会話の内容から鑑みての判断だろう。
「あっちも、私たちに気づいてる。襲ってくるっぽい。男が四人…かな?」
「あー、運悪ぃな…。」
逃げるのも癪なので、迎え撃つことにする。
【ジョブチェンジ〈ガーディアン→トラッパー〉】
トラッパーとは、某ゲームでも有名な罠使いのことである。
その名の通り、戦闘能力は低いが、低級の魔法と、それらを組み合わせた罠を使って戦う、少し複雑で上級者向けのジョブである。(自慢になるが、トラッパーと、その上位互換ジョブだけで、ゲームクリアしたこともある。)
「レイ、魔法瓶出してくれ。あと、イヴは今から言う魔法瓶を作って。」
それらを一通り作って、仕掛け終えると、運良く盗賊共がやってくる。
「有り金と持ち物全部置いてけ。」
「あと、女もなぁ!」
「ゲヒヒ…」
典型的なセリフと共に、それなりに上等に見える剣をチラつかせる。
「やなこった!」
俺は、中指を立てながらそう言った。
「てめぇ…ぶっ殺──
ドゴン!
気持ちのいい爆発音とともに、盗賊たちは、怒りのセリフを最後まで言い切ることすら出来ずに、爆煙に包まれる。
「親分!?」
どうやら今のが親分だったらしい。
いや、リーダーなら、突っ走らずに状況判断をしっかりしろよ。という、俺の心の中のツッコミも、当然のように虚しく爆煙に消えていく。
残りの盗賊たちは、今ので逃げるかと思えば、勇敢にもこちらに立ち向かってくる。
だが、いくつものトラップがそれを阻んでいく。それでも、彼らには足りなかったようで、親分共々起き上がって、こちらに向かってくる。
「運が悪いねー」
「お前らはなぁ!だが俺たちは最高にツイてるぜ!いい女も手に入るし、金もついてくる!最高だねぇ!」
剣を振り下ろしながら、俺を斬りつけようとしてくる親分。
当然ながら、トラッパーの俺では防御なんてできるわけもない。
トラッパーならな。
声には出さず、口の中でジョブチェンジを行う。
それでも、謎の声は反応してくれるようで、ステータスが書き変わる。それに対応して、手持ち無沙汰だったレイが、特殊インベントリを操作する。
「消えた!?ちげぇ!飛んだ?」
因みに、親分の言ったことは全てハズレだ。
消えたわけでも飛んだわけでもなく、ただ横に跳んだのである。
それでもモンクによる跳躍は、トラッパーとは比べ物にならないスピードで、あたかも瞬間移動のように消える。
「てめぇ、トラッパーじゃねぇのか!?」
確かに、軽装で武器を持たずに魔法瓶を投げつけてきたなら、トラッパーなのかと疑うだろう。しかし、ジョブが定まらない俺は、その意表を簡単に突くことが出来る。
「そう言えば、ツイてるとかほざいてたな。残念、運が悪かったな。」
一瞬で、先程までいた場所から離れた俺は、剣を振り下ろしたものの空振りで慌てる親分の、頬を目掛けて握り拳を打ち付ける。
そのまま、子分共を仕留めようとすると、
「動くな!この女がどうなってもいいのか?」
ふむ、どうやら新しい装備の付与効果で、一定確率で気絶になるらしいな。
「てめぇ!聞いてんのか?つか、お前もお前で、捕まってるからって睨みすぎだろ!」
「…別に睨んでない。いつも眠くて目つきが悪いの」
「どんな寝不足だよ!ていうか、この状況で寝ることを考えるなよ!」
ショートコントのような2人の問答にも、飽きてきたので、
「イヴ、助けてあげて。」
「大丈夫です。もう完了してます。」
彼女は、金髪をなびかせながら、天使のような笑顔で言う。
「は?あがッ─
すっとんきょうな、声を出し、レイを拘束していた子分だけが凍っていく。
「…イヴ姉さすが。魔法においては世界一!あ、クエイフー、さっきの男の感触が気持ち悪いから抱きしめてー。」
「知るか、イヴにでもやってもらえ」
俺が言うと、レイは本当にイヴの方へ向かっていった。
「それにしても、この杖すごいですね。前よりも格段に魔法が扱いやすいです!強いて言うなら、クッキーに釣られるクエイフ様ぐらい扱いが楽です。」
…それは、褒めてるの貶してるの?と言うか、バカにしてるよね?
「て、てめぇ!よくも親分とジョージをやりやがったな!」
「うるさい…。眠りにくい!」
レイは小さく呟いて、ナイフを投げると、男の肩口に刺さる。
「殺すのは面倒臭いから、毒で勘弁してあげる。」
その凄惨な笑みは、濁った目と相まって、何よりも可愛らしく、恐ろしかった。
因みに、残りの1人は毒を負った奴を連れて、逃げていった。
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少年が、杖を持った少女の手を引き、塔の中を歩いている。
「お兄ちゃん、トイレー」
「おお、いってらっしゃい。」
小さな小部屋に入り、少女─キュレーは用を足し始める。
少年─カークスは、妹を守れるように、しかし、妹を視界に入れないように、剣に手をかざしながら立っている。
「お兄ちゃんは、ちょっとだけ離れるからな。気をつけるんだぞ?」
「きゃーお兄ちゃんのヘンタイ!見ないで!」
カークスは妹に謝りながら、その場を離れる。
人の気配がする方に歩いてきたのだ。
「おい、てめぇ。有り金と持ち物置いてけ…」
肩口にナイフの刺さった男が、カークスを脅してくる。
「いま、妹が小便をしてるんだ。邪魔するな。」
しかし、カークスは全く意に介することなく、男の両腕を流れるように切り落とす。
男は呻き声をあげて、倒れる。
こんな状況になった男は、今までの盗賊行為を後悔をしながら、モンスターに食われるか、血が足りなくなって死ぬのを待つことしか出来ない。
カークスが戻ると、キュレーは別の男に捕まっていた。
「キャー!お兄ちゃーん!助けて!」
「てめぇ!」
彼は、素早く男の片腕を切り落とすと、妹に血がかからないように庇いながら、少し遠いところへ座らせる。
「お前が今、その汚ない手で触れていたのは、女神そのものだぞ?それを…お前ごときが………殺す!」
「お兄ちゃん!ダメだよ?人殺しはダメだってクエイフさんも言ってたよ?」
彼女の声を聞き、カークスは一気に冷静さを取り戻す。
そして、また、男の残った腕を切り落とすと、
「地獄に落ちろ!」
と、吐き捨てるように言って、その場を跡にする。
こうして、後に『塔攻略者』と呼ばれることになる青年に騙されて殴り飛ばされた男
『塔の魔女』と呼ばれることになる少女に凍らされた男
『塔の解体屋』と呼ばれることになる少女に肩口を貫かれ、『神兄』と呼ばれることになる少年に両腕を斬り捨てられた男
愚かしくも『女神』に触れた男
馬鹿な盗賊4人組は、呆気なく死んでしまった。
……To be continued
次回予告
クエイフだ!
えと、作者から用意されたカンペには『スライムになる』としか書いてないんだが?
…次回、スライムになります。
俺が?
…そうです。
次回!
チートの真価
……クエイフはスライムになっても可愛い。
…クエイフ様、可愛いですね。




