第22話 魔王
魔王の話が意外と短くなってしまったので、前に少しだけ登場した2人の日常を少しだけ書いてみました。
薄暗い雰囲気の中、叫び声が洞窟内に響く。
「ハァハァ……なんで…なんで、ここに!」
血だらけになり、足をもつれさせながらも、男は走っている。
「なんで…こんな所に…ここは…ハァハァ…。」
スゾゾゾゾ…と、嫌な音を立てながら、黒い槍のようなものが、女性の腹を貫いていた。
その黒い槍は、腹からととめどなく赤い液体を流す女性を、乱雑に振り回し、吹き飛ばして壁際に叩きつける。
既に絶命していた女性の体は、元々の綺麗であったであろう肢体の痕跡を欠片ほども残さずに、グシャグシャに壊れてしまう。
「クソ!なんでこんな所に魔王がいるんだよ!あの3人組は何も言ってなかったぞ!」
「ヒヒッ!やっぱりボクが魔王だって分かるんだねー。じゃあクエイフも気づいてくれるよね。そりゃそうだ。そうに決まってる。クエイフがボクに気づかないわけないもんね。ヒヒッ!ああ…早く会いたいなぁ!」
ハープのような高い声音で、自分が魔王だと認める。
彼女は続けて、先の恋する乙女のような声音とは違い、冷えきった声で、黒い槍に命じる。
「シャドモルス。それ殺しちゃっていいや…。情報持ってなさそう。」
黒い槍は、小さく舌打ちをするとその男を叩き潰す。
槍のような先端が尖った形状だったそれは、大きなハンマーのような形状に変わり、男に向けて振り下ろされる。
悲鳴すらあげる間もなく、赤いシミが広がっていく。
「おい、魔王。一階層は攻略されたんだろ?早いとこ二階層に行かなくていいのか?」
「いいんだぁ…。ヒヒッ!一階層も二階層も、クエイフにあげる。でもねぇ…三階層は絶対だめ…。ヒヒッ!クエイフはねぇ…三階層でボクに勝てたことがないんだよ…。クエイフは暗所恐怖症だからね。ヒヒッ!可愛いなぁ…。愛してるよぉクエイフ…。ヒヒッ!」
シャドモルスと呼ばれた黒い槍…改め、黒い影は、人のような形になり、その顔を歪める。
「相変わらず、異常な愛だな…。つーか、そんなてめぇの個人的な都合で攻略しねぇとなると、破壊神様の目的が達せられないだろうが…。」
「ヒヒッ!三階層さえ攻略したら、クエイフを殺すからいいよ。クエイフを殺しても、ボクの場合はゲームクリアになるでしょ?」
シャドモルスは、小さく「…ならいいのか?」と呟く。
「てか、クエイフ、殺しちゃっていいのか?好きなんだろ?…ああ、あれか?好きな人こそ殺したい…的な?」
「ハァ!?そんなわけないだろ…。殺したくないけど、殺さなきゃいけないから、仕方なくさ…。ヒヒッ!」
しょうがないと口では言いつつも、悦びに満ち溢れたような顔で気味悪く笑う。
「それに…クエイフの周りをうろつくゴミを始末しないといけないしねぇ…。ヒヒッ!」
影は闇に溶けていく。
魔王と呼ばれる少女も、その影に沈んでどこかへ行ってしまう。
そこから数時間後、とある3人組がその上を歩くのは、また別の話…。
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「キュレー、もう少し歩いたら休憩しようか?」
アインス洞窟一階層にて、ある兄妹がちまちまと歩いている。
「お兄ちゃん…眠い。」
「キュレー、おんぶしてやるから、もう少し待ってて。」
幸いにも、敵と遭遇することなく、開けた小部屋にテントを張り、モンスター避けの罠を仕掛けておく。
「クエイフさんに色々教わっておいてよかった。」
2人は、そこで仮眠をとる。
またしばらくすると、カークスの方が起き始める。
カークスは、愛する妹と繋いでいる手とは逆の手で、キュレーの綺麗な髪を撫でながら、あたりを見渡す。
「敵は…大丈夫。」
そして、また眠り始める。
2人は、短い人生のほとんどを、こうして過ごしてきたのだった。
……To be continued
次回予告
ヒヒッ!レイです。
…なんであのイカれた女の真似してんの?
あ…クエイフ。いや、クエイフはあの人みたいにイカれた女の子が好きなのかと思って…。
…なわけねぇだろ。いいから次回予告しろ。
はぁ…面倒くさ眠い。
次回
二階層アザトース研究所




