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End  作者: 平光翠
第1.5階層 アインスの幕間
21/200

第21話 丁寧デート

レイの手を引き、商店街へ向かう。


2人とも無言であるが、特に違和感や不快感はなかった。

冷えきったような沈黙でも、決して離すことの無い手はとても暖かかった。


「……さっきはありがと。かっこよかった。」

「…別にお礼なんていいよ。」


レイはもう一度小さな声で「…ありがと」と呟く。

なんとも可愛らしく濁った目でお礼を言われると、くすぐったい気持ちになってくる。


「ねぇ、クエイフは…イヴ姉みたいな方が好き?」


彼女の唐突な乙女のような質問に少し驚くも、普通に答える。


「別に、俺そういうの興味無いんだよなぁ。もちろん人並みにやらしいことは考えるけど、誰かとどうこうってのは考えないな。仲間としては2人とも好きだけど、女性としては見れないかな。ごめんな、レイ。塔を攻略したら、また真剣に考えるからさ。」


多少言い訳がましくなったが、きちんと答えたつもりだ。

彼女もそれで納得したのか、また、「…そっか。」と小さく呟くだけだった。


「でもさ…少しでもそういうことしたくなったら、イヴ姉じゃなくて私に言って。それだけでも嬉しいから…!」


キスでもしてしまうんじゃないかと思うほど顔を近づけられ、可愛らしい濁った目が間近に見える。


彼女の長いまつげは、俺のまつげと繋がってしまうのではないかと思うほど深く交差し、彼女の吐息は街の風よりも強く吹きかけられ、既に鼻先はくっついている。


「レイ…気持ちは嬉しいが、それはレイの気持ちが()()()()()もう1回言ってくれ。そしたら、もっと真剣に考えるからさ。」


俺は知っている。

まだ、彼女の気持ちが定かではないことを。

ただ、何度か助けられ、恩と愛をごっちゃにしてしまっていることを。

その事に、彼女自身で自覚していることを。

そして、俺がそこに付け入ることが出来ない性格であることも。


俺は鈍感系でも難聴系でも、()()を理由に誤魔化している訳でもない。

ただ、彼女の定まらないような感情に答えを出さないだけだ。

彼女が決めるまで、待ち続けているだけだ。

レイが決断をして、それでも、俺がいいと言うなら、喜んで受けよう。



買い物を手早く終えて、さっさと家に帰り、イヴ特製の美味しい昼食を楽しむ。


「あー、2人に言っておくと、今日含めて1週間ぐらいは塔に潜らないで、休暇とするから。」


あまり連続で塔に入っていると、そのうち常識なんかが吹っ飛んでいきそうだ。

それに、若い女性をあんなに血生臭い空間に何日も閉じ込めておくのは気が引ける。

そんな事情もあってしばらく休みを取ることにした。


その夜、レイが水道費の節約になるからと言って、イヴと風呂に入っていた。

Endに関する資料をいくつか読み漁っていると、イヴの艶かしい声が聞こえてくる。


「イヴ?レイ?何してんの?」

「…イヴ姉にエロい声出させて、クエイフを興奮させて、そのお零れを頂く…。我ながらナイスアイデア…。」


風呂場のドア越しに声を掛けると、レイが馬鹿なことをやっていた。

「遊ぶのも程々にしろよ。風呂場は滑るから気をつけてなー。」

「…大丈夫。…イヴ姉の体も結構すべすべ。」

いや、意味がわからん…


その後、イヴの艶かしい声は、2人が風呂から上がるまで続いた。と言いたいところだが、途中から聞こえなくなり、レイの小さな声に変わった。どうやら反撃されたらしい。


風呂上がりの2人は、イヴは普段通りで、レイはぐったりとしていた。



俺の入浴シーンは全カットして次の日…


「クエイフ様、残り六日分の食料品を買ってきますが、よろしいでしょうか?」


馬鹿丁寧な口調でイヴは声をかけてくる。

「あー…。暇だしついてく。適当に荷物持ちでもするよ。」


彼女が一回断り、面倒な悶着があったことは割愛して、商店街へ向かう。

ああ、レイはおうちでぐっすり寝ていた。(声をかけてもおきないぐらい。)


「イヴ、これとか似合うんじゃない?」


商店街で買い物をしてると、小さな髪飾り屋を見つける。

ふらりと覗いてみると、彼女の金髪によく似合いそうな、鮮やかな緑色の葉っぱを模したヘアピンが目に留まる。


店主に許可を取り、試着させてもらう。

イヴの鮮やかな金髪に手をばし、ヘアピンを差し込んで彼女の前髪に留める。


前よりも顔が明るくみえて、より可愛らしくなった。


「すいません、これこのまま買っていきます。幾らですか?」

「い…いえ!こんなに高価なものいただけません!」


店主の提示した金額は、奇しくも、昨日レイに買った飴と同じ値段であった。


「レイにも飴を買ったんだから、イヴになんにもあげないってのは具合悪いでしょ?だからいいんだよ。」


彼女はなおもごにょごにょと小さな声で呟いていたが、その時ばかりは難聴系のように、聞こえなかったことにした。


半分ぐらい買い物を終えて、嬉しそうに歩く彼女の手を引き、商店街を歩いていると、後ろから大男に声をかけられる。


「おい、兄ちゃん!いい女連れてるじゃねぇか。ちと、貸してくれねぇか?」


どうやら、またまたナンパを受けたらしい。

はぁ、うちの2人は可愛いからな。そう毎回毎回声をかけるのも納得だ。


しかし、一般的に見て、実際に可愛いのはイヴだけであり、昨日のレイのナンパもどきはレアケースであることにクエイフは気づいていない。


「悪いが、この娘は俺のなんだ。他を当たってくれ。」

「そうつれねぇこと言うなよ。一晩でいいし、金も払うぜ。お前が出した金額の倍で頼むよ。」


この男も馬鹿だな。俺は運が良かったから5000Gで買えたが、お前ごときの運じゃ、100万出しても足りねぇよ。

と思っても口には出さず、穏やかに拒否をする。


「ちッ!ガキがよ!イキがってんじゃねぇぞ?この俺様が相手してやるから、てめぇはさっさと失せろ!」


どう足掻いても、喧嘩ルートなのかよ…。

若干うんざりしながら、腰に差していた塔では使わない護身用の剣を抜く。


「てめぇ、やろうってのか?俺と剣で?ハッ!俺の【剣術】は8だぞ?」

「そうか、普通教えないと思うぞ、そういうことは。」


どこから取り出したのか、馬鹿でかい大剣を肩に担ぐと、そのまま流れるように俺の方へ振り下ろす。

大剣をこの速度で振り下ろせるということは、【剣術8】というのは嘘ではなさそうだ。


俺は避けたり、剣同士で打ち合うだけで、なかなか攻撃に打って出ない。

もちろん、それは、俺が弱い訳では無いのだが…。

しかし、馬鹿でかい大剣とただの細い剣では耐久力に違いがありすぎた。

数えるのを諦めたくなるほどの打ち合いを重ねてついに俺の剣は砕け散る。それを勝機と見たのか大男は、今までで1番大きな振り下ろしで構える。


「残念だったな!てめぇをぶっ殺して、あの金髪女とよろしくヤらせてもらうぜ!」

「汚ぇ奴だな。」

俺が小さく呟くと、大男は馬鹿みたいにでかい声で、

「武器を砕かれた方が悪いんだよ!その隙を突くのを卑怯とは呼ばねぇさ!」

と叫ぶ。


俺はそのセリフを鼻で笑いながら、()()()()()()()()


「知ってるか?剣術のレベルを上げると何故か【拳術】のスキルを取得出来るようになって武闘家(モンク)のジョブを解放出来るようになるんだぜ?」


通常、武器がないと攻撃出来ないのがゲームの設定であったが、唯一の例外であった武闘系のジョブ。

これらは、武器を持っていなくとも、むしろ武器を持っていないからこそ、強くなる。


「【スマッシュ】ッ!」

「汚ぇって言ったのは、てめぇを殴った時に飛んでくるつばのことだよ。」


その一撃で油断しきっていた大男は撃沈してしまったようだ。

まぁ、【()()1()1()】の攻撃を食らえばそうなるか…。


「クエイフ様ありがとうございます!」

「いや、それより逃げるぞ…。」

大男が目を覚ますと面倒なことになるので、いつの間にか群がっていた野次馬(ギャラリー)の間を通り抜けて、逃げようとする。


すると、突然空が薄暗くなってしまう。


「はぁ、起きたら2人がいなくてイヴ姉に抜け駆けされたかと思って探しに来たら、面倒くさそうなことになってる…。」


「おお、レイ!助けに来てくれたの?」

突如として太陽が隠れたのは、レイが肉体変形により()()()()()()()()()()()()()からであった。


「…はぁ、二人とも掴まって。…帰るよ」


その場にいた全員を置き去りにして、家に帰る。

塔の外でも、面白おかしな3人はどこかへ消えていく。


……To be continued

次回予告!


ヒヒッ!初めまして魔王です。

あー、クエイフ…。会いたかったなぁ!

思わずこの世界まで会いに来ちゃったよ。ヒヒッ!喜んでくれるかなぁ!

クエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフクエイフ

会ってくれるよねぇ?


次回

魔王

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