第20話 眠たげデート
そんなにデートしてない…
「マーキュリー!てめぇ、バカにしてんのか!?」
ドン!と握り拳を固めて、机に叩きつける。ゴブリンの牙がトレイから零れ落ちるのも気にしない。
なぜ俺がこうも怒鳴っているかと言うと、俺とレイは、大倉庫に塔で手に入れたアイテムを売りに来ていた。
話は1時間ほど遡る。
〈1時間前 クエイフの家〉
「イヴー、昼ご飯何ー?」
どこで盗撮されたのか、俺とイヴとレイが3人で写っている新聞を読みながら、空腹を訴える。
「あ、今からお醤油と夜ご飯のおかずを買いに行く所です。もう少々お待ちください。」
相変わらずの丁寧な言葉に対し苦笑いを浮かべつつ、玄関を出ようとするイヴに声をかける。
「あー、素材を大倉庫に売りに行かなきゃならないから、俺が買ってくるよ。醤油と何買ってくればいい?」
謎の声のメモ機能を使って、言われたものを買いに行く準備をする。
ついでに、リビングで半分寝ているような感じで、テレビを見ていたレイに声をかけておく。
「レイ、大倉庫に素材売りに行くけど付いてくる?ついでに商店街で買い物するから、飴でも買ってやるよ。」
「…いい。いらない。寝る」
「…そっか。」
物凄い拒否をされたので少しショックを受けながら玄関へ歩き出す。
「レイ!クエイフ様が誘ってるんですから、ついて行きなさい!…すみませんクエイフ様。レイにはよーく言って聞かせますので。」
いや…別にいいよ。
と思っても、口には出さず苦笑いでやり過ごす。
「はぁー…。イヴ姉がそう言うなら行くよ…。」
だからってそんないやそうな顔で立ち上がるなよ。
「んー。まぁ、来てくれるならなんでもいいや。」
そんなこんなで、最初に大倉庫に向かう。
大倉庫で色々売って、金を手に入れないと、買い物なんて出来ない。(一応言っておくと、前回2人を買ったり、2人の装備を買ったり、その他食費などで3万Gは消し飛んだ。)
「えーと、マーキュリーさんいます?」
『受付』と看板に書いてあったので、そこのお姉さんに聞いてみる。確か、前の取引で名刺を渡されているので、門前払いは食らわないと思うが…。
「マーキュリーなら第17取引所にいますね。お呼び致しますか?」
「ああ、いや。取引に来てるんで、自分がそっち行きます。地図とかあります?」
地図を頼りに、第17取引所に行くと、相変わらずの化粧ぶりでニコニコ笑顔を浮かべながら座っていた。
「久しぶりだな。今回も色々売りに来たんで鑑定頼む。」
「あー!クエイフさん!一階層攻略おめでとうございます!」
面倒くさそうなテンションで彼女ははしゃぎ回る。そのテンションと反比例するようにうちの子は近くにあったソファでぐったりと寝ていた。
「ああ…まじ眠い。クエイフ…終わったら起こして…。」
あの異常な眠気は、恐らくアイテムの所持制限がないというチートによる呪いだろう。
2人の話だと、大概のチートはその強さや便利さに対し、呪いという厄介な性質を持っている。
例えば、イヴのチートである『究極魔法』は、取得していない魔法も使うことが出来るが、その呪いは、彼女の体に痣となって現れる。(ちなみに痣は一人きりで夜を明かすと消える。呪いのせいもあって、貞操は守られていたらしい。)
レイのチートの『肉体変形』は、ありえないほどのエネルギーを消費するので、俺が作ったあのまずい薬を飲まないと、
餓死して死んでしまう。
俺は、神様からもらったチートなので特に呪いとかはないと思う。(謎の声曰く、塔の外だと機能や利便性が落ちるらしい。)
そして、レイのもう一つのチート『アイテム所持制限無し』や『インベントリ無限』の呪いは眠気や、体の怠さとなって現れるのだろう。
そんな理由もあって、彼女は今ソファでぐっすりと寝ている。
まぁ、ここまで素材を運んでもらっているので、文句は言えない。
それに、奴隷としての所有権が俺にあるため、レイが寝ていても彼女のインベントリを操作することが出来るので、起きてもらう必要は無い。
「つーわけで、これ全部よろしく。」
マーキュリーは大量の素材を前に唖然としていたが、すぐに正気を取り戻し、それらを運んでいく。もちろん、他の職員と一緒に。
そうして30分後、彼女から提示された買取金額は、たったの10万Gであった。
「ふざけんな!どれだけあったと思ってんだ!」
確かに、スライムとゴブリンだけだったので、一つ一つの値段は安いかもしれない。だが、スライム素材は100以上あったし、ゴブリンの素材も相当数あった。
「最低でも30万Gはあるだろ!」
「10万と言わせたのは私ですよ…。」
俺が低い声で怒鳴ると、マーキュリーは怯える。
それに見兼ねたのか、義手義足の男性職員がやってくる。
その男こそが、塔専属商人のメルクであった。
「初めまして、私はメルク。Endで探索者をやっているなら、私のことは知っているんじゃないですか?」
「ハッ!塔専属を名乗ってるのに、外にいるんだな。」
「……いえね、少し娘の様子を見に来てるんですよ。…血は繋がってませんがね。」
嫌味ったらしく俺が呟くと、メルクは何かを隠しているように、言い返す。
推測でしかないが、メルクの子供は既に死んでしまっているのかもしれない。実際のところは分からないが…。
「それはそれとして、この素材が全部で10万ってのは、俺を舐めすぎだな。50万は欲しい所だ。」
「いえいえ、品質があまりいい方ではありませんのでこのくらいが妥当ですよ。まぁ、せいぜい20万でしょう。」
「娘が大事なら、馬鹿なことは言うんじゃねぇよ。45万」
「本当の子供じゃなく、ただ可愛がってるだけですからね。25万」
「「30万!」」
メルクが言うのと同時に俺が被せると、彼は大きく顔を歪めて俺にも聞こえるようなわざとらしい舌打ちをする。
「マーキュリー、30万で買い取ってあげなさい。」
「は…はい!」
狙い通りに、30万Gで買い取らせることに成功した俺は、にやけ顔でレイのもとへ向かう。
…なんかナンパされてた。
「眠いからいい」
「ちょっとぐらいいいだろ!」
「…眠い」
いや、あれナンパか?
「レイ、帰るぞ。」
「クエイフ!」
俺が声をかけると、ナンパ男はすごすごと帰っていった。
「さすがクエイフ。かっこいい…。」
その後、レイが怖かったと言うので手を繋いで、買い物に行ったが、断じてデートではない!
……To be continued
次回予告!
イヴです。
久しぶりに次回予告コーナーに立たせていただきました。
次回はクエイフ様が私とデートをして下さるらしいです。
次回
丁寧デート
だからデートじゃない!
えっと…デートではないみたいです。




