めんどうなクルクルのおはなし
「アイテムは全て買い戻したいと思います」
考えた結果、とりあえず全部持って帰ることにした。
私も小春も。レベル10で取るスキルはすでに決めているし、今後【魔術装甲】のスキルを取る予定も無いけど、何かの役に立つかもしれないから持っていたい。火が出る腕輪も、無限羽ペンも同じ理由だ。
ポーションに関してはいくらあっても困らないからね。
「ん?」
話が終わったので帰ろうと思っていたら、ダンジョン入り口のエリアポータルが光って、そこに人影が現れた。
私達以外にも協会の探索対の人たちが利用してるって言うし、他のパーティの人達かな?
「綾姉、すごいクルクル」
「もう、知らない人のことジロジロ見ちゃ駄目よ」
その人達の中に遠くからでも分かるほど、あまりにも特徴的過ぎる姿を見つけてしまった。
小春の言うようにクルクル巻かれている金髪の縦ロール、どう見ても真っ赤なドレスにしか見えない服装。まさに使い古されている高飛車お嬢様のイメージそのものだ。
あっ。
小春に注意したにもかかわらず私の方が目を合わせてしまった。
気づいたクルクルお嬢様が受付に行かずにこっちへ向かって歩いてくる。
いや違う。
近づいて来て分かったけど、あの人が見ているのは私じゃなくて、隣の千代さんだ。
その人は千代さんの前まで来ると、威圧するように持っていた短杖を突きつけた。
「お久しぶりですわね、千代さん」
「これは浅茅さん。ご無沙汰しております」
殺気は感じなかったから手を出さなかったけど、千代さんの知り合いみたいだ。
魔法の発動媒体と思われる短杖を持っていると言うことは、やっぱり探索者なのかな?
「いつもの妙な仮面と和服じゃないから遠目では気がつきませんでしたわ。今日はあのダンジョンに不似合いな服装はしていませんのね」
「ふふふ、実は最近、洋服にもちゃれんじしておりますので」
この浅茅さんという推定お嬢様は鏡を見たことが無いのだろうか。
真っ赤なドレスと振袖。ダンジョンに相応しくない服装ランキングがあれば両方とも上位に入るのは間違いない。
ひょっとして千代さんが【鎧袖一触】のスキルのために振袖を着ているように、この人もスキルの関係でドレスを着ているのかな?
「そんなことをしても無駄ですわっ! なぜなら、この私以上にドレスを着こなせる人間などいませんものっ!」
そう言ってバレエの最後みたいなポーズをとる推定お嬢様。
絵にはなっているが、ここはダンジョンの前で、隣には私達が狩ってきたモンスターの素材と言う名の肉片が山盛りだ。なんと言うか、完全に浮いている。
本人もそれに気づいたのか顔をしかめて話を変えだした。
「そんなことより。千代さんはレベルいくつになったのかしらぁ? なんと私、先ほどレベル20っ!になりましたの。レベル20ですわよ。レ・ベ・ル・に・じゅ・うっ! まさか……いえ、当然といったほうがよいのかしら、千代さんより先に到達してしまうなんて、ああっ! 自分の才能が恐ろしい……」
どうやらこの推定お嬢様は、千代さんより先にレベルが20になったことを自慢したいみたいだ。
今も目の前で、倍速再生のごとく止まらずに自分讃歌の言葉をしゃべり続けている。
しかも今日は10階層のボスを討伐してきたらしい。見た目は私達より少し年上な感じだけど、なかなかの実力者のようだ。
んんっ?
でも確か千代さんのレベルって21だったような……
ふむ……。
私の勘がここで、そのことは言わないほうが良いと言っている。
面倒くさいことにかかわりたくなければ、背景に徹しているが吉だと警告を鳴らしている。
幸い千代さんが困っていたり、不愉快になっているようには見えない。むしろ楽しそうに推定お嬢様の話を聞いている。
彼女がだれなのか伺いたくもあるけど、ここは沈黙することにしよう。
私は自らの気配を殺す。
意識を周囲に溶け込ませ――
「千代さんってレベル21だよ」
小春の一言で凍りついた。
「な、何を……言ってますの……」
おかげで想定お嬢様のターゲットが小春へ移ってしまった。
「そこの小さいの。今、なんと言いまして」
「小さくない」
「……そこのちびっ娘」
「小さくない」
「……そこのレディ」
「なに?」
「まあ、いいですわ。今聞き捨てならないことを言いませんでしたか? 千代さんがレベル21だと聞こえた気がするのですが」
「うん、言ったよ」
すると推定お嬢様はワナワナと震えて、千代さんに迫っていった。
止めようと思ったが、千代さんが両手を広げて受け入れるポーズをとっているとこを見ると、良くあることなのだろう。
「千代さんっ! それはいったいどういうことですのっ! ちょっと前、同じタイミングでレベル19になったというのに、なぜ私より早くレベルが上がっているんですのっ! いったい何をしたんですのぉぉおぉっ!!」
ガクガクと千代さんを揺さぶって問い詰める推定お嬢様。
しかし千代さんは――
「ふふふ、ひみつです」
と笑顔を崩さない。
そうなると当然――
「そこの二人。あなた達はなにか――」
こちらに矛先が向くわけで
「あの、私達は千代さんのレベルに関して何も知りませんよ。2日前が初対面で、その時にはもうレベル21でしたし」
無駄だと思いつつ、予め結論を言ってを話題をインターセプトする。
「あら、そうですの。」
あら、以外に素直。
てっきり「そんなはずありませんわっ」とか言われると思ったんだけどな……
「そういえばお二人はどなたですの? 千代さんと一緒にいたようにお見受けしましたが、いったいどういうご関係で?」
そして、今、存在に気づきましたとでも言うように名前を尋ねられた。
この人はあれだ、良くも悪くも集中すると周りが見えなくなる人だ。
ここで「人に名前を尋ねるときは~」の有名なセリフを言おうものなら、どんなことになるのか想像に
想像に難くない。
「西風田綾乃です、千代さんの友人です」
「東雲小春。千代さんの友達」
「ぬわあぁぁぁぁぁんですってえぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
お嬢様がお嬢様らしからぬポーズとお嬢様らしからぬ大声で叫びだして、再び千代さんに掴み掛かった。
「ありえませんっ! ありえませんわ。 私と同じでいつもボッチだった千代さんにお友達ですってっ?! なんで、どうして……。はっ! そういうことでしたの。さあ、言いなさいっ!いったいいくらの友達料を払ったんですの! 私にもその業者を紹介しなさ―「いい加減にしろっ!」―ふぐおぅっ!」
今度こそ止めようかと考えていたら、発狂中のお嬢様が突如奇声を上げてうずくまってしまう。
後には握り拳を作ったおじさんが怒りの表情で仁王立ちをしていた。
この人が、後からお嬢様にゲンコツを食らわせたようだ。
「まったくお前は、和服の嬢ちゃんのことになるといっつも暴走しやがって。ダンジョンでは常に冷静でいろって言っただろ」
しかしお嬢様は、ヨガの様な奇妙なポーズで頭を抑えたまま「ぬぅぉぉぉぉぉ……」と唸り続けていて返答できそうに無い。
あの、パンツ見えてますよ。
「さて、うちのメンバーが迷惑を掛けてすまなかったな。西風田さんの娘さんとその友達であっているかい?」
「ぬぅぉぉぉぉぉ……」
どうやらこのおじさんは私達のことを知っているみたいだ。
記憶のデータベースと称号しても、たぶん会った事は無い……はずだ。
お父さんの名前を出していたし、お父さんの知り合いかな?
「はい、そうです。私が西風田綾乃で、こっちが友人の東雲小春です」
「おぉぉぉぉぉぉ……」
「俺は迷宮探索隊、第四部隊「せきがね」の隊長をしている天童呉岬と言う。君のお父さんから話は聞いているよ。よろしくね」
「おぉぉぉぉぉぉ……」
この人のボディーアーマーに付いているエンブレムが目に入る。
確かお父さんにも付いているやつで、迷宮探索隊の隊長を示すマークだったはずだ。
「おぉぉぉぉぉぉ……」
と言うか、お嬢様うるさいっ。




