いつもの朝のおはなし
[アヤネェアサダヨオキテ]
[アヤネェアサダヨオキテ]
[アヤネェアサ
小春から貰った目覚まし時計の声で目が覚める。
……変な夢を見た。
詳細は思い出せないけど、私が火を吹いてたような気がする。
うん、深く考えるのはやめよう。
☆ ☆ ☆
「……」
「おはよう綾乃。もう小春ちゃん道場にいるよ」
胴着に着替えて1階に下りると、2番目の兄である西風田誠ニが素振りをしていた。『剣闘気』のスキルを使っているのか、身体の回りに赤いオーラが漂っている。
上半身裸で一心不乱に重り付きの木刀を素振りする姿は、朝っぱらから得体の知れない暑苦しさを誘発してくる。
「誠ニ兄さん、ちょいちょい」
「ん? なんだ、撮りたいのか?」
スマホのカメラを向けると、さわやかな笑顔でポーズをとってくれたので撮影。
我が兄は身内の贔屓目を抜きにしても結構な男前で、卒業生してもうちの学校には未だにファンの子が多い。後でみんなに見せてあげよう。
一緒に素振りしようと誘ってきた兄を無視して道場に着くと、私の妹的幼馴染である東雲小春と私のおじいちゃんの西風田道和が模擬戦をしていた。
邪魔しないように準備運動をしつつ、2人の戦いを見守る。
一刀流で一気呵成に斬りかかるおじいちゃんに対して、二刀流を器用に使って攻撃を捌き、一瞬の隙を突いて反撃する小春。
一見互角に見えるけど、小春はすでに息が上がっているのに対して、おじいちゃんはまったく息が乱れていない。
やっぱり探索者と一般人だと身体能力の差が歴然だ。
むしろ、手を抜いているとはいえ日本でもトップクラスの探索者であるおじいちゃんに、ここまで喰らい付いている小春のほうを賞賛したい。
さすが私の幼馴染だ。
ちっちゃくて、可愛くて、しかも強いとか反則だよね。
「いや、お嬢も人のことは言えないと思います」
後ろから、おじいちゃんの弟子の人が何か言ってきた。
2人の戦いを見ていると身体が疼いてきたので、模擬戦に誘ってみるが「死にたくない」と断られてしまった。
失敬な……
誰か相手してくれる人がいないか探していると、大きな影が近づいてくる。
2m超えの身長に頑丈な筋肉を持つ赤褐色のオーガだ。大太刀を模した木刀を構えて、好戦的な目を向けてくる。
「ヤマト、闘ってくれるの?」
おじいちゃんのスキル『従魔術』でテイムされてから、常に隣で戦ってきた相棒であり、直弟子でもあるヤマトは、オーガなのにうちの流派をマスターしている。(ついでにおじいちゃんの趣味である陶芸も嗜んでいる。)
彼もおじいちゃんと一緒にダンジョンに潜ってるだけあってとても強い。未だ本気の勝負で勝てたためしは無い。
でも、相手にとって不足なし! 今日こそは勝たせて貰うよっ!
☆ ☆ ☆
「う~ん。やっぱり身体能力の差は大きいわね」
「綾姉、惜しかった。いい所まで行った」
「早く私達も探索者になってレベル上げよう」
「ん。そうしたら今度こそ負けない」
結局模擬戦には負けたけど、朝から身体を動かしてさっぱりしたので気分は良い。
ちなみに弟子の人たちは「何で探索者じゃないのに生身でオーガ相手に善戦できるんすか!意味わかんねぇ!」とか叫んでた。
本当に失礼な……
「綾姉。んっ」
おっと、忘れていた。
模擬戦の後、私達はお風呂で汗を流して朝ごはんを食べてから、登校の準備をしている。
私は下着姿の小春に制服を着せていく。小春が一人で着替えられないわけじゃなくて、たまにこうして甘えてくる時がある。
耳かきも自分より人にやってもらうのが良いって言うし、それの延長みたいなものだと思う。
ちなみに小春の耳かきも、もちろん私がやってあげている。
それにしてもちっちゃいなぁ、中学生のときからまったく成長していない。
「綾姉に着せてもらうと、幸せな気持ちになれる」
っ!
「そ、そう。ありがと。それじゃ登校するわよ」
いきなり恥ずかしいことを言われてしまった。
このシスコンめ。
しょうがないなぁ。お姉ちゃんが抱きしめてあげるとするか。
「綾姉、もう車来たみたい」
私が手をわきわきさせていると外から車のエンジン音が聞こえてきた。
時計を見るともう迎えが来る時間なので、泣く泣くハグハグを諦めて玄関に向かう。
途中で台所に寄って、用意したお弁当を鞄に入れるのも忘れない。
「今日のお弁当何?」
「車に乗ったら教えてあげる」
「わかった。」
「じゃぁ、急ぎましょう」
少し早足で玄関から出ると、家の門の前に一台の車が止まっているのを見つけた。
街で見かける車よりも胴体部分が長い、いわゆるリムジンと言われる車だ。
ドアの前に執事服を着た渋いおじさんが直立不動で立っている。
「お迎えにあがりました」
車の前に立っていた執事の小牧さんがドアを開けてくれる。
相変わらず隙の無い人だ。間違いなくこの人も探索者だよ。
「小牧さん、いつもありがとうございます」
「こちらこそ。綾乃様にはいつもお嬢様と仲良くしていただき、旦那様もとても感謝しております」
大企業シノノメグループのお嬢様である小春のおかげで、私もこのリムジンで一緒に登校することができる。最初は緊張したが、今はもう慣れたものだ。
「「「綾乃お嬢様、小春お嬢様、行ってらっしゃいませ!」」」
高級車に乗って登校する私達を見送ってくれるうちの道場の弟子達、第三者の目からこの光景がどう映るかは考えないようにしよう。