千代さんになったお話
「美味ですっ!これほど美味な咖喱飯は初めて食しました」
川内さんが大和撫子風の外見からは想像もできないくらいの勢いで、カレーを食べている。それでも上品に見えるのはさすがだ。
自分が作った料理を褒めてもらえるのは嬉しいけど、褒め方が過剰なので少し照れてしまう。
「ど、どういたしまして、もっとおかわりいります?」
「ぜひともっ」
川内さんが差し出した空のお皿に、ご飯とカレーを盛ってあげる。
さすがにもう一皿食べてるし、そんなに食べないだろうと思ってお皿の半分くらいにしたら悲しそうな顔をしたので、大盛りにしてあげた。
小春からももうそろそろ、おかわりが来そうなので大盛りを準備しておく。
「綾姉、私もおかわり」
予想通りだけど、口の周りにカレーが付いてるよ。
「ちょっと待って、顔ににカレーが付いてるわよ。ほら、拭いてあげるこっち向いて」
「ん~」
「もう、おいしそうに食べてくれるのは嬉しいけど子供じゃないんだから」
「んふ~」
口を拭いてあげているだけなのに、とても嬉しそうな顔をしている。
無意識に頭も撫でてしまった。
なでなで。
「ふふふ」
「どうかしました?」
小春の口をハンカチで拭いてあげてると、川内さんが笑い出した。子供を見守る母親のように優しい顔だ。
「いえ、本当の姉妹のように見えまして、とても仲がよろしいのですね」
「幼馴染ですから。子供のころからずっとこんな感じですね」
なでなで
「ん、ずっと一緒」
「素敵ですね。羨ましいです」
そう言うと川内さんは「ふむ……」と何かを考えだした。
「?」
どうしたのかな?
考えながらも、私と小春のことをじ~っと見つめてくる。
正直に言うと、この人は考えが読めないところがあるから少し身構えてしまう。
そして、なにかに納得したかのように頷いた。
「あの、よろしければお二人の事をお名前でお呼びしてもよろしいでしょうか? 私のことも、ぜひ千代とお呼び下さい」
今までの話の流れからどうしてこの結論が出たのかわからないけど、私たちには嬉しい申し出だ。
「もちろんです。けど、いきなりどうしたんですか?」
「お恥ずかしいのですが、お二人の関係が私にとってはとても理想的なものだったので、私もぜひその末席に加えていだだこうと思いました」
末席って……
おかしいな、最初に見たときとだんだん川内……千代さんの印象が変わってきている。
「綾姉に憧れる……、同士っ!」
小春も小春で、変な事言いながら千代さんの手を握っているし。
「綾姉は最高。優しくて、強くて、綺麗で、ご飯がおいしい」
「わかっております。ぜひ、そのあたりのえぴそおどを教えてください」
「もちろん、でも綾姉の一番は私。それだけは譲れない」
どうしよう、私の精神衛生上よろしくないので今すぐにでも止めたいけど、どんな理由であれ折角二人が仲良くなっているのを邪魔するのも気が引ける。
おいしいものを食べて仲良くなりましょう作戦は成功したのかわからないけど、千代さんと仲良くなれたから結果おーらいかな。
「では早速、綾乃こちらをよろしくお願いします」
千代さんがぐいっと顔を近づけてくる。
口の周りにはカレーがべったりだ。
「さあ、口を拭いてください」
……どうしてこうなった。
☆ ☆ ☆
次の日、私たちは三階層に向かった。
朝起きると小春と千代さんに左右から抱きしめられていたせいで、少し身体が硬い。
あらかじめ、千代さんからは三階層と四階層は、まじめに攻略すると時間が掛かるので、すばやく通り抜けて五階層に行こうと提案を受けていたから、モンスターからスキルをラーニングしたら急いで次の階層へ向かう予定だ。
「綾姉すごいっ! 幽霊だよ。幽霊」
「本当ね……」
三階層に付くと一面の荒野だった。目の前に半透明で所々がぼやけた人型の影が浮いている。
千代さん曰くこのモンスターの名前はゴーストで、積極的に攻撃してこないが物理攻撃が効かず、魔法でしかダメージを与えられないので、今の私たちでは注意が必要な相手だそうだ。
ためしに斬りつけてみるも、小太刀は素通りしてしまう。逆にゴーストに触ってしまった指先に若干の痺れを感じた。
「ごおすとに触れられると身体の力を奪われます。近づかなければ襲っては来ませんので、対策がないのでしたら避けて進むのがよいでしょう」
なるほど、確かに今の私たちでは攻撃を与えられていない。隣で小春が十字架やら塩やらを投げつけているけど、効果は無さそうだし。
「魔法スキル以外に有効な手はないのでしょうか?」
「武器を強化するすきるを持っていれば直接攻撃できます。他には回復薬も効果的です。そして――」
そう言うと千代さんは、ゴーストに近づき――
「癒しを」
ゴーストが消滅した。
「ごおすとなどの死霊共に最も効果的なのは、『光魔法』か『回復魔法』です。今は私がいます故、ぜひ頼りにしてください」
「はい、ありがとうございます。千代さん」
やっぱりゲームみたいに、属性の相性みたいなのがあるんだ……
消滅したゴーストがいた場所には魔石が落ちている。生きてる?時には半透明の身体のどこにも魔石なんて見えなかったのに、どこから出てきたんだろう?
小春に洗ってもらってから食べる。
……まったく味がしなかった。
ラーニングしたスキルは『吸精』。アレな意味じゃなくて、触れた相手から体力や魔力を奪い取ることができるスキルだ。千代さんに試してみたら、回復魔法一回分くらいの魔力が無くなったと言っていた。
そのままもう一種類のモンスターであるスケルトンも狩りに行く。
スケルトンは歩く人間の全身骨格だ。剣と盾を装備していて、中には部分的に鎧を着ている個体もいる。斬撃に対する「耐性」を持っているため、斬るよりも打撃で破壊したほうがいいらしい。
小太刀で斬ると、不思議な力で抵抗されて普段よりも切断するのに力が必要だった。
仕方ない、骨じゃなくて鉄と思って対応するか……
倒したスケルトンが落とした魔石を食べる。
ラーニングしたスキルは『硬骨』骨が硬くなり、骨折が早く直るようになるスキルだ。カルシウム取れば再現できそうとは言ってはいけない。
もう、この階での目的は達したので、急いで四階層へ向かう。
四階層はフィールドの半分以上が沼地、残りが森で構成されている。生息しているモンスターはリザードマンと巨大カエルだ。
リザードマンは二足歩行するトカゲで、こちらが足をとられて移動が制限される沼の中でも問題なく行動でき、硬い鱗と鋭い爪を利用した接近戦を仕掛けてくる。
その上、リザードマンと戦っていると、巨大カエルが遠距離から水の弾を吐いたり長い舌で、私たちの邪魔をしてくる。先にカエルを倒そうと接近すると、ジャンプして私たちから離れた沼の中へ隠れてしまう。
「あの大きなカエルきらい」
「物の怪の分際で、小賢しく知恵をまわすため皆に嫌われておるのです」
なるほど、千代さんがまじめに攻略すると時間が掛かるといった理由が理解できた。
私が『兵隊蜂の毒針』や『水弾』のスキルで攻撃したり、小春が弓で劇物を塗った矢を放ってカエルを狩っていくけど、沼の中に隠れた状態から奇襲してくるので落ち着く暇がない。
足場の悪いフィールドに、硬くて素早いリザードマンと、邪魔してくるカエルの組み合わせは確かに厄介だ。1匹1匹に時間が掛かってしまいリソースがもったいない。
私たちは連休が終わる明日までに目標を達成して地上へ戻らないといけないから、ここで時間を浪費したくはない。とりあえず、目に付いた数匹を倒してスキルを獲得した後は、予定通り次の階層へと急いだ。
ちなみに、ラーニングできたスキルは、身体の一部を硬い鱗で覆うことができる『緑鱗』と、液体を遠くに飛ばすことができる『水弾』だ。
その後は無事に次の階層、五階層への階段を見つけ安全地帯に入ることができた。
「さて、これからどういたしますか。すぐにでも五階層へと挑みますか? それとも一泊して明日挑みますか?」
千代さんの質問に私は少し悩む。今日は順調にここまでこれたからまだ時間はあるけど、疲労がないわけではない。
これが普通の階層ならこのまま行くんだけど、次に私たちが挑む五階層は普通の階層じゃないから若干の不安が残る。
「千代さん、私と小春は五階層で通用すると思いますか?」
「問題はないでしょう。私が支援しているとはいえ、こここまでわずか二日で来ることができ、しかもほぼ無傷なのは異常です。五階層の「ぼすもんすたー」にも勝利できるでしょう。いざと言うときは私も助力をいたしますのでご安心を」
小春をみる。
コクリと頷いてくれた。
「……、わかりました少し休んだら向かいましょう」
「ふふふ、承知いたしました」
今回私たちが協会の地価ダンジョンに挑んだ理由は、レベル上げ以外にもう一つある。
それは五階層にいる「ボスモンスター」を討伐し、エリアポータルを開放することだ。
ステータス
西風田綾乃
種族 :【人間】
レベル:【 7】
スキル:【魔石喰い】
『豚鬼の召喚剣』
『兵隊蜂の毒針』
『子鬼の角』
『灰狼の牙+』
『大蜘蛛の粘糸』
『突撃兎の角』
『吸血』
『毒牙』
『吸精』
『硬骨』
『緑鱗』
『水弾』
東雲小春
種族 :【人間】
レベル:【 7】
スキル:【無限収納】
川内千代
種族 :【人間】
レベル:【 21】
スキル:【仙糖生成】
【回復魔法】
【鎧袖一触】




