振(ったら死ぬ)袖のおはなし
意気込んでは見たものの、ゴブリンは以前倒しているし、毒蛇も音と足元に気をつけていれば襲われる心配は無い。
その上、川内さんからもらった飴で身体能力が向上しているから、定期的に襲い掛かってくるモンスターを倒していくだけの作業なってしまった。
私も小春も今回のダンジョンに向けて色々準備をしてきたが、まだ披露する必要を感じない。
川内さんも――
「危なかったら助けようかと思いましたが、その必要はなさそうで安心いたしました。それではこの階層も跳ばして次の階層へ参りましょう」
とのことで、今は3階層に向けて進んでいる。
毒蛇から手に入れたスキルは『毒牙』で、歯から毒が出るようになった。
間違えて飲んじゃったけど、特に問題は無かったので自分には効かない毒みたいだ。
ちなみに、『灰狼の牙+』とは統合はされなかった。
「そういえば、川内さんのレベルっていくつなんですか?」
移動中少し気になったので聞いてみる。
レベルアップするために、私と小春だけでモンスターを倒しているから、川内さんが戦うところはまだ見ていない。
また、「ふふふ」と誤魔化されるかもしれないけど……。
「私のれべるは21です」
おおっ! 意外と高い。
世間からはレベル20を超えればプロの探索者と認識されている。
年齢も変わらないように見えるから、私たちより少し上だと思ったのに、まさかレベル20の大台を超えているなんて。
「しかして、すきるは【仙糖生成】、【回復魔法】、それと……」
川内さんは途中で言葉を区切ると、方向を変えて走り出した。
「これは戦いで見せるといたしましょう」
視線の先にはゴブリンがいる。10匹以上いるので迂回しようかと思っていた集団だ。
川内さんは一直線に進んでいる。
手には何も武器を持っていない。
徒手空拳? 魔法? 暗器?
わからない。
拳を握らないし、魔法も使わないし、暗器も構えない。
どんなスキルなんだろう?
「参りますっ!」
川内さんは完全に接敵すると、くるりとその身体を一回転させた。その遠心力で、まるで花が開くように振袖が大きく広がる。
「えっ?!」
「おおー!」
その瞬間、ゴブリンの首が飛んだ。
続いて、二回、三回と舞うようにクルクルと回ると、その度にゴブリン達が両断されていく。
そして、わずか数秒で10匹以上いたゴブリンは全滅した。
「これが【鎧袖一触】、衣服の「袖」に様々な能力を付与できるすきるです。此度は切断力を強化いたしました」
そう言いながら、川内さんは流れるような動作でお辞儀をした。
見蕩れてしまうくらい一連の動作が絵になっている。
「すごいっ! すごいっ!」
小春が喜んでいる。
私も驚いた。まさかこんなスキルがあるなんて。
「あの、【仙糖生成】と【鎧袖一触】なのですが、もしかしてユニークスキルなのでしょうか?」
「いえ、【鎧袖一触】は現在私しか所有していませんが、【仙糖生成】は少ないですが他に所有者が見つかっております。協会本部にもすきるしーどが保管してあったと思いますので、欲しいのなら交渉してみてはいかがでしょうか?」
協会では所有ダンジョンから出たスキルシードを保管していて、部隊の強化やオークションに出しているらしい。まだスロットは空いて無いけど見てるだけで楽しそうだし、今度小春と見に行こう。
その後は無事に二階層を抜け、三階層との間の安全地帯で一泊する事にした。
協会の占有しているダンジョンなだけあって、安全地帯にはベッドや椅子、机、カマド、トイレのスペースなどに加えて、長期保存が可能な食料が用意してあった。
ダンジョンに長時間置いてある物は消失してしまうが、安全地帯だけはそれがないので、有名ダンジョンの安全地帯には、人の手でこういった設備が作られていくらしい。
「あの、それは何をやっているんですか?」
気が付くと川内さんが持ってきた書類に何かを書き込んでいた。
「これには安全地帯にある備品が、どの程度消耗していたかを記入しております。迷宮より帰還したらこれを提出し、必要であると判断されれば消耗した分の補充に向かうのです」
書類を見せてもらうと、水や食料、施設の破損状況などのチェック項目が書いてあった。
なるほど、そうやってこの安全地帯を維持してるんだ……。
「こちらはもう大丈夫なので、東雲さん例の実験をお願いいたします」
「ん、わかった。少し離れて」
私たちはダンジョンでレベルを上げる以外に、協会の人からとある実験を頼まれている。
小春は【無限収納】から、五つの箱を取り出して安全地帯の地面に置いた。それは強化ガラス製の箱で、中にはトランシーバー、拳銃、時計、ビデオカメラ、GPSが入っている。
今回の実験はダンジョン外で【無限収納】に入れた機械を、ダンジョン内の安全地帯で使用し、安全地帯内の物にグレムリンの効果が及ぶかどうかを調べるというものだ。
ダンッッッ!!
「きゃっ!」
箱の中で拳銃が暴発した。
他の箱の中を見るも、全部何かしらの誤作動を起こしている。
「やはり駄目でしたか」
「そうみたいですね」
「……残念」
すでに同様の実験が何度か行われていて、部品の状態で持ち込んでから組み立てたり、会長さんの【魔断装衣】で持ち込んだりと、色々と試しているが全て失敗したと聞いてるし、今回は駄目で元々の実験だとは言っていたけど……。
少しだけ落ち込んでしまう。心のどこかでは、「もしかしたら……」と思っていたのかもしれない。
「気を取り直し、食事にするといたしましょう。食事の際はこちらにあるコンテナの中から――」
「あっ、ちょっといいですか?」
川内さんが部屋の隅に置かれている「水」や「缶詰」と書かれたコンテに向かおうとしたので、待ったをかける。
小春と目配せをする。
コクンと頷いてくれた。
せっかく食卓を囲むんだから、おいしいものを食べて仲良くなりましょう作戦を開始しよう。
不思議な顔でこちらを見る川内さんの前で、小春が【無限収納】からお鍋を取り出す。
すでに小春の【無限収納】の中には、予め私が作っておいた料理が大量に入っているのだ。
小春が鍋のふたを開けると、決して広くない安全地帯にスパイシーな香りが広がりだす。
今日のご飯はカレーライス。それも小春のお父さんにも絶賛された私の特製カレーに、ダンジョンから取れる食材を使って改良を加えたスペシャルバージョン。
「いっぱいありますので、よろしかったら一緒にどうぞ」
「綾姉のカレーすっごくおいしいよ」
カレーライスの盛られたお皿を差し出して笑いかける。
「えっ? あの……。は、はい、ご馳走になります」
これは想定外だったのか、目を丸くして驚いている。
川内さんの驚いた顔って始めて見たかも。
ステータス
川内千代
種族 :【人間】
レベル:【 21】
スキル:【仙糖生成】
【回復魔法】
【鎧袖一触】




