続いての僕は蛇に睨まれた蛙?
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当たり前といえば当たり前のことなんだけれど、僕はすっかり失念していた。
普通に過ごしていたつもりだったけれど、多分心のどっかではパニックを起こしていたんだと思う。
友人について救急車呼ばなきゃ、よりも自分が死んでるならそれについて連絡しなきゃ……。って
死んだ自分が連絡するの?とか何も思いつかなくて、ただ倒れてしまった友人のカバンを枕にして
あまり動かさないようにして、誰かが呼んでくれた救急車が近づいてくる音で我に返った。
警察がきて、運転手さんと僕とに話を聞こうとしていたが、警察の人も困惑している。
だって被害者ピンピンしてるもの。
「ちょっと君、すまないね。身体チェックさせてもらっていいかな?」
「あ、はい。いいですよ。」
悪い事してなくても警察って緊張するよね、あ、道路に飛び出したから僕悪い事したか。とか
そんな他愛ない事を考えていたと思う。
警察官が僕の体をパタパタと叩いていく、ポケットの上とかを念入りにするのかと思えば
脈まで取られてしまった。
こんな体験生まれてはじめてすることなので、あ、飛行機で金属器のやつはあったっけ。
いやでも警察官に体を触られるというのは、なかなかない経験ってやつなわけで。
体をガッチガチに固めて両手を大きく開いて、必要以上に上あごをあげて顔はガッチガチ。
とにかくどこもかしこも、ガッチガチのかっちこっちで警察官のボディチェックを受けていた。
視線をそらしていたけれど、不意に目をやれば警察官もまるで爆弾解体でも行うかのように
顔を強張らせて僕を触っている。
危険物なんか何も仕込んでいやしないのに。
一通り体をまさぐられ、固まってた体と凝り固まった精神とで、疲弊しまくった僕はぐったりだ。
到着した救急車が友人達を運び、警察官は運転手さんに事情聴取をしている。
そして僕は遠巻きにどうすべきか、という警察官諸君と、最初から見ていたらしき目撃者と
人だかりにつられて寄ってきたやじ馬たちの好機の視線に晒されているわけで。
これはあのー……僕はスルーなのでしょうか?
◆◆◆
尚も遠巻きにしてくる群衆。体感時間ではゆうに10分は経っている。
心身ともに疲労しているのは間違いないが、このとてもむず痒い場所に置いて行かれるのはごめんだ。
よし、と意を決すると一人の警察官に近づき声をかける。
「あのー……、僕も事情聴取…受ける側……です、よね?」
当然事情聴取を受けるものだと思って声をかけたのだが、話しかけられた警察官は
まさか自分が声をかけられるものだとは思わなかったと言わんばかりの驚き顔だ。
さすがにそんな顔をされるのは心外だし、ショックである。
事故の現場にいきあわせ、友人が倒れた時の処置にも携わっており、原因の一つでもある自分。
そうだ、自分が車にはねられたから。
自分が、車に、はねられた、から、
車に、はねられて、……じゃあ僕はなんだ?
思考の渦に飲まれかけて、話しかけているうちに気持ちが悪くなってくる。
そういえばトラックは赤い何かぐちゃっとした自分によく似たものを押しつぶしてしまっていた。
猫を助ける前後をよくよく思い出そうとしても出てこず。
じゃああれは何だといえば、自分の中でも答えは出ている。
あれは自分だ。自分はつぶれたはずなのだ。
じゃあ何故今自分はここにいる?あれ?じゃあ僕は事情聴取ではなく、救急車に乗るべきなのか?
だがどっちの体が?
先ほど警察官にボディチェックをされていた為、自分の肉体に欠損はない。
だが欠損している肉体もあそこにまだ転がっている。
気が付けば、やじ馬たちを遮るようによく見る黄色いテープではなく視界を遮るような布が張られはじめている。
「……君、…君。」
話しかけた後に茫然と再度辺りを見回していた自分に声をかける人が一人。
先ほど話しかけた警察官より一歩前に出てきていて、いかにもエリート然としたスーツ姿の人物だ。
周囲の警察の人々の多くは制服を着ているのになあとうすらぼんやりと思っていると再度声をかけられる。
「申し訳ないが、君はあちらの車両にて、同行をお願いできるかな?」
表情と、その人の放つ空気とに、優しい声音は酷く乖離していたけれど、まとまらなくなった思考には
提案されると大変ありがたい。首肯一つ。
「あ、はい、わかりました。えと、その僕松岡です。」
空気に飲まれて相手に名乗りながら、構わないと重ねて意を唱える。
相手も深く頷き、そっと自分をリードするように腕を差し出して挨拶を返してくる。
「私は本庁の小西だ。事情が事情だからね。君も混乱しているだろうが、ご協力願いたい。」
さ、行こう。という言葉に促されてミラーシートの張られた黒塗りの随分と高そうな車に
向かって歩き始める。
「あ、パトカーじゃないんですね。」
「ああ、少しばかり目立ちすぎるからね。今は落ち着かないかもしれないが許してもらえないかな?」
「あ、すみません。この車が嫌とかそういうわけじゃないんです。」
へこへこと頭を下げながら、小西に奥へと促され、車のシートにのりこむ。
迷うそぶりもなく小西は横に腰をかけて、運転手らしき、こちらは制服を着た警察官に行先を告げている。
何やら難しい名称で、いろいろと考えている自分にはうまく聞き取れなかったけれど
向かう先はどこかの警察署ではないようだ。
(これから、どうなるんだろう……。)
ようやく頭にもたげてきた不安と焦燥感。
それがあふれ出すように出てきた震えを抑えようと両腕を抱きしめて、松岡は小西に連れられていった。
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すみません、予約投稿し忘れていたのに今更気づきまして投稿遅くなりました。
書き方にまだまだ迷いがあり、統一性がないのですが、鋭意努力してまいります。