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僕の体重21g  作者: 雑魚メガネ先輩
第一章
1/2

始まりは黒猫。


本日も晴天なり。


 ゴールデンウィークを前に控えた世の皆々様は連休を楽しみに、心なしかいつもよりも

足取りも軽く進んでいる。

渋谷の交差点では人気バンドの新曲がヴィジョンに映され、隣を通り過ぎる女子高生が

今回もよさげじゃね?わかるー、とかわかってんだかどうなんだか、な会話をしている。

ポン引きのお兄さんも可愛そうに、この暑さの中汗を流しながら笑顔で看板を体にはっつけて仕事に懸命。


 いやはや世は事もなし。

抜けるような青い空に思わず瞳を細め、空を見上げる。


「あ、飛行機雲だ。」


 なんかいいものを見つけた気がして、気分の一つもあがるものだ。

おっと、今日は休みとはいえ先生から呼び出しを受けているのだ。

急がねば、これでも僕は今まで皆勤賞を取り続けてきた男。

先日その記録は敗れてしまったが、それでもできることなら先生の業務を妨げるのはよろしくなかろう。

うむうむ。さあ、気持ちの良い風もふいてきた。

学校にさっさと向かわねば。


そうして僕は少し駆け足で学校へと向かったのだった。


◆◆◆


始まりは突然だった。


 いやはや、何を当たり前なと思っているだろう。

でも出来事ってのは思ってもいないところから物語が始まるものなんだなって僕なんかは実感したわけだ。

中には覚悟をもって、自らの物語を切り開く為に開始する人もいるだろう。


 だが僕みたいなごくごく一般的で、クラスの中でも可もなく不可もなく。

友人と今週号の漫画の話をしたり、お気に入りのCDの交換をしたり、おすすめのアプリを教えあったり。

いやはや普通だ。普通過ぎて面白味もない程普通だ。

成績も中。時折中の上を取れる事が出来れば軽く喜ぶ。運動も別に下手でもない。

特に苦手という食べ物もない。

勉強は好きじゃないけれど、やらなきゃならないんだから仕方ない。


そんな程度に普通だ。


 家庭環境はちょびっとばかしおかしいかもしれないけれど。

それでも僕を扶養してくれる大人がいて、その人達が親代わりをしてくれている。

その人たちからはとてもよくしてもらえている。これは普通というより喜ばしいことだろう。

両親が残してくれた家に一人で住み、家事を一通りこなす事が出来る。

その程度はちょっと自慢してもいいかもしれない。


おやおや、話がそれてしまったね。



まあ何が突然だったかというと。





                    僕は数日前、死んだ






 は?と思った君、その通りです。いやー僕もびっくりしたよね。

友人との下校中に黒猫が何かから逃げるように目の前を横切り走り去っていったのだ。

目の前は十字路。こちらへ向かって走ってきているトラックも見えている。

危ない、と思った時には体が勝手に動いていた。


 猫までの距離は遠くない。

かの猫は植え込みからようやく道路に出たところだ。

掬い上げれば安全に守ってやれる筈だった。普通にできる筈のことだった。

どこまでも普通の僕であっても出来る話の筈だった。


 ところがどっこい、なんと僕は植え込みの段差に見事につま先をひっかけた。

そして、カメラがあったなら取って起きたかった、と思わず後々友人がこぼしてしまうような

大回転をしたのだ。え?状態がよくわからないって?


 飛び出した勢いで躓き、空中に浮かび上がった体は慣性に従ってか、でんぐり返しのように

くるっとキレイに回転して足からキレイに着地してしまった。

いやはや普通の自分からしたら偉業というべき程の体操力だ。


 まあ着地した先はトラックの鼻先の前だから、そんな事思っても仕方ないんだけどね。

そしてひかれたはずだった。


 けれど僕はひかれた事に気が付かず、いてててて、と体を起こすと何か赤黒いものに怯えて

植え込みから出たところで怖がっている猫をつまみあげて歩道へと放り投げてこういったのだ。


「全く、トラックがきてるのに道路に飛び出るなんてあぶないだろ。もうしちゃだめだぞ?」


しゃがみこんで猫と目を合わせてそういった。


 先ほどから辺りを酷い叫び声が響いていて、友人も驚きまくっていたのだけれど

なんだなんだ?と友人を見てみると、ああ人間顔ってそんな真っ青になるもんなの?

ってくらい、真っ青通り越して真っ白けっけな顔で、あばばだかうばばだか

およそ人語とは程遠い何かをつぶやきながら、指先をぶるぶる震わせてさっきのトラックを指さした。


トラックの運転手もこれまた真っ白けっけな顔してぐちゃっとつぶれた何かと僕を見比べている。


 ぐちゃっとつぶれた何かは赤くて、とにかく赤くて。

なんだけど何か見覚えがあるもので。


 あ、あれ僕だ。だって学校の制服きてるし。ポッケから飛び出しているスマホは

叔母さんが、僕が全力で嫌だ!と拒否したにも関わらず、いいからいいいから~と押し切って

女の子なら喜ぶのだろう、キラキラでふわっふわの乙女なデコレーションをされている、あいつ。


 今はそのスマホも僕らしきつぶれた何かの血にまみれて鈍い光しかないけれど。

自分の体をパタパタと障ってみるが、違和感もない。


「え?俺死んだの?」


 友人で一緒に下校していた小林と前野に聞いたら彼らは見事なシンクロ率で白目をむいて後ろにぶっ倒れた。

歩道の硬い道に頭を打ち付けてだ。頭守らず倒れるとか危ないじゃん。

あーあれだ。一応救急車を呼ぶべきか?


……あ、でもあのスマホは使いたくないな。


◆◆◆


そんなのが僕の始まりだったのだ。


他のものも続けながら他のシリーズも増やしていくこの身をお許し下さい。

投稿ペースは不定期です。

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